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マレビト:Rainmaker  作者: 楠田りた
9/9

日常に潜む秘密

「あの……。僕、とんでもないことに気づいたんですけど……」


ささやかながら事件を解決し、新たな事件は発生していないかご近所を見回っていたら、急に顔を蒼白くさせてわなわなと震えながら黎と頼可に話しかけてくる琉偉。


「ん?どうしたの、琉偉ちゃん?」

「どうした、琉偉?」

「あの、僕……、女の子の格好のままお外に出て来ちゃってたの、今気づいた……!」


ラベンダー色のゆったりしたサマーニット

膝上丈のアイボリーのシフォンスカート

黒のオーバーニーソックス

斜め前髪のセミディのウィッグ

つけまつげをつけていながら極力自然に見えるように計算されているメイク


そう、今の琉偉は服装も髪型もメイクも女子そのものであった。


「あ〜そういえばそうだね!似合ってて全然気づかなかった!」

「俺としたことが全然気づかなかった……!まぁ俺からしたらその琉偉こそ本来の姿で見慣れているし、琉偉が女性の格好をしているのが自然だからということに他ならないな」

「だね、間違いない!普段はその格好で外出たりしないの?」

「と、とんでもないです!!そ、そんな、女装して出歩くなんてとてもとても……!ご近所さんに後ろ指さされちゃいますよ……!今日はいきなり雨降らせるようになったり、色々緊急事態が多すぎてうっかりしちゃったというか……さっきもおうちの鍵かけ忘れちゃってたし僕ってば僕ってば……!ど、どうしよう……この格好のままで誰かにバッタリ会っちゃったら……!」


あたふたと手足をバタつかせたり頭を抱えたり、挙動不審なまでに慌てふためく琉偉。


「そのクオリティなら普通に女子で通用するけど、琉偉ちゃんからしたらかなり勇気いることだよね……誰かに会っちゃったら『親戚です』って言っておけば?」

「なんだその安っぽい小説かドラマにありそうな設定は」

「え〜私が最初琉偉ちゃんの女の子バージョン見た時に本気で男女の双子かと思ったくらいだからそれでイケるんじゃないの」

「まぁ、琉偉は美人だからな」

「シスコンのお兄ちゃんがまぁた美人の妹自慢してドヤッてる〜」

「そりゃ、自慢の妹だからな」

「ああぁ……お兄ちゃんも頼可さんもありがとう……でもその会話も誰かに聞かれたらやばいよぉ……!……う、うわあぁっ!!」


何かに驚き、黎と頼可の後方に咄嗟に滝のカーテンのような豪雨を降らせながら慌てて近くの家の塀に身を潜める琉偉。

そのスピードは凄まじく、『バビュンッ』という効果音がしそうな程だ。


黎と頼可が突然のことに呆気に取られているうちに雨が降り止むと、まるで雨のカーテンが開かれたかのように現れる莉仁。

野菜をたくさん詰めた買い物袋を手にしているので、家の手伝いと思われる。

あ、莉仁くんに女装姿見られたくなかったのか……ここで察する二人。


「あ、お兄さん達こんにちは!さっきは見学に来てくれてありがとうございます。なんかいきなりここだけ雨すごいっすね〜マジで地球どうしちゃったんすかね……?」

自分達を濡らすこともなく超局所的に降った雨を不思議がり、首をひねる莉仁。

君に女装見られたくないがために琉偉がまるで忍者のように降らせたんだ……!

まさかそうとは言えずとりあえず愛想笑いをする黎と頼可。


「あ、それより今、琉偉の声しませんでした?」

「い、いや、俺達だけだが……」

「さっきまでは一緒にいたんだけどね〜」

なんとか誤魔化す二人。

「え〜マジっすか!?会いたかったぁ〜!!」

大袈裟な程にのけぞって琉偉に会えないのを残念がる莉仁。

「さっきまで部活で一緒だったのにもうまた会いたいなんてすっごい仲良しなんだね〜」

「そりゃ、まぁ、大親友ですから」

大きな瞳を細め、クシャッとした顔で白い歯をのぞかせ、爽やかに笑いながら言う莉仁。


あ、莉仁、前に僕が選んだ服を着てくれてる……!


せっかく顔がいいのにファッションセンスは皆無だとサッカー部員達に馬鹿にされていた莉仁のために一緒に買い物に行き、琉偉がコーディネートした服を着ている莉仁。

白いVネックシャツの上にデニムシャツを羽織り、黒の細身のパンツを合わせてサッカーで鍛えてがっちりし過ぎた下半身をスマートに見せるスタイル。


せっかくかっこいいのにそれを全く生かしきれてないところ、僕にとってはたまらなく可愛くてめちゃくちゃ萌えるんだけどね。

それにあんなに僕に会いたがってくれるなんて嬉しすぎる……!

はぁ、思えばこんなふうに莉仁眺めるのってレアかも……。

なんか、少女漫画のヒロインが片想い中の男子を遠巻きに見つめるワンシーンみたい。

塀の陰から莉仁をこっそり見て胸が高まる。


「莉仁くんは随分長いこと琉偉と仲良くしてくれていると聞いている。いつもありがとう」

「いやいや、こちらこそっす!琉偉には本当にいつも仲良くしてもらってるし、サッカーではいいパス出してくれるし、服選んでくれるし、美味しいものたくさん作ってくれるし感謝しっぱなしっす!!」

「え〜!琉偉ちゃんから至れり尽くせりだね!すごいね!」

「そうなんすよ〜マジで俺の大半は琉偉で出来てるんじゃないっすかね……って、お姉さんさっき琉偉と出会ったばかりっすよね?もう『琉偉ちゃん』って呼ぶようになったんすか?」

「うん!なんかすっごい話やノリが合うんだよね〜」

「そ、そうなんすか……琉偉、女子力高くてすんなりお姉さんと仲良くなれてすげぇ」

苦笑いのような、何とも複雑そうな表情をしながら言う莉仁。


「優しくていい子だから誰とでも仲良くなれそうだよね。莉仁くんみたいないい子と大親友なのもわかる〜」

「そ、そうっすか!?あざーっす!!そうなんすよ!琉偉、マジ優しくて俺癒されっぱなしなんすよ〜!あいつマイナスイオン出てるんじゃないっすかね!?もうね、琉偉と俺の友情物語は語り出すとマジ長くなるんすけど、琉偉は俺のことわかってくれててとにかくありがたすぎて……中学の時なんて、俺かなり琉偉に世話になりっぱなしなのに琉偉ってば俺に『莉仁はずっとそのままでいてね』なんて言ってくれて……。あ、あと、琉偉、中二の時に肩あたり怪我して入院したじゃないっすか?その時もお見舞いに行っただけなのになんかすげぇ感謝されて、俺もこちらこそありがとうって……。その時以降はつい照れちゃって本人の前では軽いお礼か料理うめぇくらいしかまともに言えてないけど……」


はち切れそうな程の笑顔で力説するも、最後の方は頭を掻きながら照れくさそうに言う莉仁。


「え〜!美しい友情じゃん!本人にも言ってあげなよ!絶対喜ぶよ〜!!」

「琉偉のことをそんなふうに……本当にありがたい。ぜひ琉偉にも直接伝えてやってはくれないか」

「そうっすよね……『仲良くしてくれてありがとう』みたいなのは小学校の卒業式とさっきの中学の時には言ったけど、それ以外は普段仲良いぶんかえってなんか照れちゃって……。いつも世話になりっぱなしだしちゃんと言わないとっすよね。じゃ今度の金曜日にでも……あ!俺とさっき一緒にいた灯夜、金曜日の夜に琉偉んちに泊まりに行くんすけど、お兄さん琉偉からきいてます?」

「いや、まだきいてないが……ぜひうちでゆっくりしてくれたまえ」

「お兄さん、前に泊まった時にもいなかったっすけど、どちらに行ってるんすか?」

「いや、自分の部屋に篭ってるだけだ」

「え、いたんすか!?全然わからなかったっす!!」

「俺がいては君達も何かと気を遣うかと」

「いやいやいや、こちらこそ気を遣わせちゃって申し訳ないっす!!今度はぜひ一緒にサッカー観ましょうよ!!お兄さんもサッカーやってたんすよね?」

「まぁ……気が向いたら」

「あざーっす!!じゃ、また金曜日よろしくお願いしまーす!!」


満面の笑みで敬礼してから、頭を下げ立ち去る莉仁。


「爽やかだねぇ〜琉偉ちゃん、いいお友達持ったね」

「本当だな……琉偉……子供の頃引っ込み思案でなかなか友達を作れずにいた、あの琉偉が……!琉偉の人徳たるや……!」

「目が赤いよ?もしかして感涙?」

「これが感涙せずにいられるか……!」

「だよねぇ……なんか私もウルッときた」

「顔の造形は整っているが、喋りに知性の欠片もない……だがしかし友情に篤く琉偉の良さを理解してくれているなかなかいいやつだ」

「運動部所属の男子高校生なんてあんなもんでしょ……礼儀正しくていい子じゃん。本当に君はいちいち人の言葉遣いに毒吐くよね……あ、そうだ、琉偉ちゃんは?」


琉偉が身を潜める塀に行くと、そこには内股で立ち、鼻を真っ赤にしながら涙をボロボロと流す琉偉。


「琉偉、どうした!?」

「お兄ちゃん……莉仁が、ぐすっ、莉仁が……、僕のこと、あんなふうに思っててくれたなんて……!」

「よかったね、琉偉ちゃん……あ、ほら、お兄ちゃんまで嬉し泣きしちゃって……一旦おうち帰ろうか」

兄妹揃って涙を流しながら家に向かう。

頼可はそんな二人を家に着くまで微笑ましく見守っていた。


「さっきの琉偉ちゃんの雨の降らせ方、まるで忍者みたいだったよ」

「えっ、本当に!?もうさっきは必死で」

「私達、なんか雨や雷をどのくらい出したいかイメージするとその通りに出せるみたいだね」

「さっきのちびっこの時もそうでしたよね。頼可さんもなんだ」

「コツ掴めてきたし、また近いうちに集まって何かに使おうね」

「はい!」

「琉偉ちゃん部活もあるし、金曜日は大事なお友達のお泊まり会でそれまでは忙しいだろうからそれ以降だね」

「そうなんです!お菓子やお料理いっぱい作っておもてなしします」

満面の笑みで可愛らしいガッツポーズを見せる琉偉。

「琉偉……本当にいい友達を持ったな……」

二人の後ろで、シスコンの兄はまた目頭を熱くしていた……。




そこからはいつも通りの授業と部活と家事の繰り返しで、そんな特殊能力を持ったのが信じられない程の平穏な日々。

そしてやっと巡ってきた、三人でお泊まり会の金曜日。


サラダもアボカドのレアチーズケーキ風ヨーグルトケーキももう仕込んでおいた。

あとは莉仁と灯夜が来たらオムライスを作ろうっと。

チキンライスは炊飯器でトマト炊き込みご飯で作ってある。

炒めないので油を使用せずカロリーを抑えられるうえに時間も短縮出来るので、普段からこの手法をよく使う。

あとは二人が来たらふわとろ卵を作って乗せるだけ。


いつもお泊まり会は楽しくって嬉しいけど、今週はいろんなことが巻き起こって驚きの連続だったからか、なおさらみんなで和気あいあいと出来る時間が来たのが嬉しく感じる。


でも、莉仁のあの時の言葉が胸に刺さったままで……。


莉仁……

莉仁は本当のことまだ何も知らないけれど、あの時の僕の言葉はすんなり出てきた素直な気持ちだったよ。

僕は莉仁のことで辛いと思うこともあるけど、それでも莉仁に救われてることばかりなんだよ。

高校生になったらそこに灯夜も加わってくれて……。

僕はみんなが知らないことだらけのめんどくさい人間なのに、それでもみんなは……。


ピンポーン……


「はーい」

「よっ!」

「はーい」


インターホン越しの声と短いやり取りで伝わる。

「いらっしゃーい」

ドアを開け穏やかな笑顔で莉仁と灯夜を迎える琉偉。

そこには手土産を片手に微笑む二人がいた。




「はぁ……うめぇ……!やっぱり琉偉の作ったオムライス最高にうめぇ!!」

「よかったぁ」

「この卵がトロトロとしてるのとかレストランで出てきそうですげぇよな!」

「ありがとう!でもこれ、フライパンの上で卵を丸めたりしないでふわとろ半熟になったところでお皿のチキンライスにスライドして乗せるだけだけだから結構簡単なんだよ」

「マジかよすげぇ!あ〜やっぱり琉偉天才だわぁ……神ってるわ……マジうめぇ……」

「お前、とことん琉偉に胃袋掴まれてんな……。いや、でもわかるわ。本当に美味い。彩りもきれいだし、栄養バランスも良さそうですげぇ」

一口食べてじっくり味わっては幸せそうな顔で琉偉を褒め称える莉仁に半ば呆れたような口調で、それでも優しく微笑み灯夜は言う。

「はぁ、よかったぁ〜みんなに美味しいって言ってもらえるとホッとする。デザートもあるよ」

「マジで!?やべぇ!嬉しすぎる〜!オムライス美味すぎて食べ終わりたくなかったけど、いきなり早く食べ終わりたくなってきた!」

「子供かよ、お前は」

莉仁の余りの天真爛漫さに、灯夜も琉偉も吹き出した。


琉偉お手製のアボカドのレアチーズケーキ風ヨーグルトケーキ、莉仁と灯夜が持ち寄ったポテトチップスなどのスナック菓子とジュースを食べながら、サッカーの試合に釘づけになる三人。

最初の頃はオムライスを食べている時のように琉偉お手製のケーキを褒め称えながら食べていた莉仁も、次第に真剣な眼差しで試合に見入っている。

灯夜も選手の動きを分析するような眼差しで見入っている。

香川が華麗なドリブルで相手選手を翻弄するたび、シュートを打つたびに三者三様の歓声をあげる。


思いっきり悔しがったり喜ぶ莉仁

至って冷静ながら顔に出す灯夜

うっかり顔の前で両手をグーにして乙女な仕草で驚く琉偉


スピード感溢れるブンデスリーガならではの試合展開で、体感的にはあっという間に試合終了した。

結果は三人が応援する香川選手の活躍で2-0でドルトムントの勝利。


「香川、あそこでシュート決まってよかったな」

「あれは香川だからあそこまでボール運べたし打てたんだよ」

「アシストもすごくよかったよね。僕もあんなふうにチームのために動ける選手になりたいなぁ」

「琉偉はもう俺にたくさんアシストしてシュート打たせてくれてるし、チームのために動ける選手だよ」

「だよな」

「本当!?……ありがとう」




リビングに三人分の布団を敷き、それぞれ自分のパジャマに着替える三人。

莉仁はリビングで半袖の白いTシャツとハーフパンツに、灯夜は洗面所で半袖の黒いTシャツとグレーのスウェットパンツに、琉偉は自室で半袖の薄い水色と白のチェック柄のパジャマ上下。

そこからは布団の上に座って三人で話す。


「莉仁、こないだまた下駄箱にやたらピンクの可愛い手紙入ってたな。あれもう断ったの?」

「断るっつーか、名前書いてなかったからスルーしたまんまになっちゃってる。断るけど」

「誰かわからなくても、もう断るのは決まってるの?」

「だって、好きな女子いねーし。前は一応好きになってもらえたわけだから告られた時に少しは考えてみたけど、告られたからってすぐ好きになれるわけじゃなくて毎回断ってるから」

「確かに莉仁、告白されてもずっとすぐ断ってたよね」

「俺、莉仁と話す前はもっとチャラい奴かと思ってたけど、結構女子絡みのこと真面目だよな」

「真面目か?普通だと思うけど」

「そのへんの奴よりは全然真面目だよ。俺にも『告られたならとりあえずつきあえ』とか押しつけてこないから一緒にいて楽だし」

「俺もとりあえずつきあうとか、その時は好きじゃなくて友達から始めるとか無理だから」

「僕も」

「そういや、灯夜ってなんであんなに女子に寄ってこられるの嫌なの?単に寄ってこられるのうっとうしいだけって思ってたけど、ガチで女子嫌いっぽくね?」

「ん〜……母親のせいかな」

「灯夜も、僕のうちと同じでお母さんいないんだよね?」

琉偉も灯夜も父子家庭。琉偉の母は琉偉がまだ幼い頃に病死している。

高校入学後に出席番号順の関係で席が近くて二言三言話すうちに話の流れでそれを知り、お互いに似た家庭環境のためか親近感が湧き更にたくさん話すようになった。

「うん、まぁ、うちは琉偉のところと違って離婚だけど」

「そうなの!?初めてきいた」

「うん、初めて言ったし。なんか、こういうのなんで離婚になったの?とかきいちゃまずいかな?とか気ぃ遣わせるだろ」

「ま、まぁ……確かに」

「離婚だと、いきなりお父さんとお母さんが離れ離れになってショックだったんじゃない?」

「いや、そりゃ当時はショックだったけど、それより修羅場が凄まじすぎて今となっちゃ笑うしかねーわ」

「しゅ、修羅場?」

「母ちゃんが俺と父ちゃんに遊園地行っておいでってチケットくれたんだ。それなのに行ってみたら休園日でそのまま帰ったわけよ。そしたらなんと、母ちゃんが男連れ込んでやってたんだわ」

「え、や、やってたって……その……。あれ、だよな?」

「他にあるかよ」

「だよな……」

明らかに気まずそうな顔の莉仁に、半笑いで話を進める灯夜。琉偉はといえば、すっかり顔が青ざめたまま呆然としている。


「そこからは父ちゃん怒鳴り散らすし、母ちゃんが逆ギレして喚くし、男はあたふたしてるし。で、こっからが面白いんだけど、父ちゃんが連絡して両方のじーちゃんばーちゃんもすっ飛んできてさ!その間もず〜っと二人はすっぽんぽんでさ!」


どんどん声も大きくなり、半笑いからゲラゲラといった笑いになりながら話を続ける。


「あの時は俺まだ六歳だから何やってたかわかんなくて、よりによって母ちゃんがいじめられる、助けなきゃと思っちゃってさ。じーちゃんばーちゃん来たら『あの人、お母さんのお尻に腰をごっつんこしていじめてたの!』って言いつけてやったの!そしたら

さ、今度はじーちゃんばーちゃんも『孫になんてところを見せてくれたの!』って泣きながら母ちゃんとそいつにビンタしだしてさぁ」


普段は至って冷静な灯夜が珍しくヒィヒィと笑いながら生々しい状況を話す様に、どんどん顔を青ざめさせていくしかない二人。

灯夜本人はさも楽しいことを語るかのようだが、いつもと違う灯夜の様子にも、話の内容的にも当然笑えるはずもない。

灯夜の先程の「今となっちゃ笑うしかねーわ」という言葉が時限式に仕掛けられた毒が効いてきたかのように突き刺さってくる。


「そしたら母ちゃんが俺にまで逆ギレしてきて鬼みたいな顔してビンタしてきてよー!俺はギャン泣きだし、周りはもっと母ちゃんにキレだしてボコボコにしてて、いやぁあれこそまさに修羅場だったわ……えっ、琉偉、なんで泣いてんの?」


両眼から涙をポロポロと流す琉偉に驚く灯夜。


「なんか、ごめん……僕、灯夜もお母さんいないってきいて、勝手にうちと同じ感じかと思ってた……そんな辛いことがあったなんて……」

「え、いや、まさかお前、俺のために泣いてんの?」

「だって……まだ六歳で、そんなことになっちゃうなんて……辛すぎるよぉ……!ごめん、本当は笑い飛ばせたらいいけど、びっくりしちゃったし、灯夜のその時の気持ち考えたら……ううううっ……」

「あーもう泣くなよ!俺が変な話をきかせちゃったから!悪かった!」

「悪くないよ……!僕こそ、何て言ったらいいか、わかんなくてごめん……むしろ、そういうの溜め込むの辛かったら、どんどん話して欲しい……!」

「……ありがとう」

鼻の頭を真っ赤にしてズビズビと言わせながら涙をダラダラと流し続ける琉偉にすっかりうろたえながらも感謝する。

「はいはい、本当に琉偉は友達想いだな……さすが俺の大親友!ほら、ティッシュ」

「ありがとう……ぐすっ……」


「なんつーかさ、みんな色々あるんだな……。俺は転校前にドタバタしたけど、灯夜に比べたら全然だわ」

「へ〜、お前にもそんなことあったの?顔がいいけど食い意地はっててバカで能天気なのが売りなのに?」

「ひっでぇな〜もう!俺にもそれなりにあるよ!いや、本当に大したことないけど……」


思わぬ打ち明け話になったお泊まり会。

今度は莉仁が口を開いた。

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