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マレビト:Rainmaker  作者: 楠田りた
8/9

雨と雷の使い方

「……なぁ、気づけばどんな活動するかよりユニット名決めることに躍起になってるのは気のせいではないよな?」

「いやいや、それ君だから。何この辞書の山……どんだけ張り切っちゃってんの」

目の前に積み上げられた辞書やら古文書の数々に呆れ気味に言う頼可。

「可愛い妹がその特殊能力を活かして世のため人のためになろうとしているんだぞ!?名付けはその始まりの儀式とも言える。張り切るに決まっている!!変な名前になんてなってみろ?出だしでつまづくことを意味するんだ!!そうならないためにもうちの琉偉にふさわしい雅な言葉や古来の言葉を掘り起こし、それを組み合わせてより素晴らしい言葉を紡ぎ出してやろうと」

「そんな事言って、自分の日本語マニアっぷりにスイッチ入ってるだけでしょ……」

黎が熱く語れば語るほど更に呆れ顔になり黎の台詞に食い気味に突っ込む頼可。

そんな二人を困った顔をして見ることしか出来ない琉偉。

「お、お兄ちゃん落ち着いて……頼可さんも世のため人のためになろうとしているの忘れちゃだめだよぉ……頼可さんごめんなさい、うちのお兄ちゃん日本語とか雅な言葉大好き過ぎて、こういうことになるとなんかこう、よくわからないスイッチ入っちゃうというか」

「あ〜それはもうサークルで散々わかってるから大丈夫!妹ちゃんが絡むと凄まじく悪化するのは今知ったけど……さっきから更に目が血走ってきてて怖いわぁ……」

「うん……お兄ちゃん、僕や頼可さんのために頑張ってくれてるから悪く言いたくはないけど……こわぁい……」

一心不乱に辞書やら古文書やらのページをめくり、黒目を凄まじい速さで動かしながら言葉を探す黎。

その様子はもはや食を貪る餓鬼のようでもあり、なまじ目力の強い整った顔立ちのために余計に気迫を感じさせ、女子二人が肩を寄せ合い怯えるのも無理からぬ光景……。


「これは……いい!」

誇らしげな微笑みを浮かべ紙に文字を書き殴る黎。

「お兄ちゃん、何か素敵なお名前見つかったの?」

「なになに〜?」

書き殴られた文字を覗き込むと……。


喜雨驟雨雷雨


「あれ?これって名前……?キャッチコピー……?」

「なんかお経みたい……ダメだこの人、将来子供の名付けで張り切りすぎてDQNネームつけちゃうタイプだ」

「……どきゅんねーむ?何だそれは」

「君にわかりやすく説明すると、人名としては余りにも奇妙奇天烈過ぎて非常識な名前を表す言葉だよ」

「なっ……なんだと!失敬な!」

「いやまず漢字難しすぎて読めないし長いしどこで区切るかさっぱりわからないし。そもそも名前かキャッチコピーかすらパッと見で判断出来ないって致命的でしょ」

「む……!では、これはどうだ?」

新たに書き殴られた文字を覗き込むと……。


五月雨や 篠突く雨に 粉糠雨

いづれもをかし 狐の嫁入り


「短歌読んでんじゃないよ……」

さすがに苛立ち、低い声で鋭く突っ込む頼可。

「やっぱりダメだ、妹ちゃんの能力的に雨ってキーワード入ってりゃ何でもアリになってるもん……それ短歌としても微妙だから!なんとなくセンスない気はしてたけど、ここまでとはねぇ……!もっとシンプルにさぁ、何かしら能力持ってる人指す言葉でいいんじゃないの?てか、そもそも日本語である必要もないんだけど」

「なぬ!?何ということを!」

「いやどうでもいいよ……琉偉ちゃん、Rainmakerとかどう?直訳すると雨降らせる人って意味だけど、英語のスラング的に富や幸運をもたらす人という意味もあるんだよ」

「うわあぁ……!なんかカッコいいしオシャレ……!」

頼可の提案に表情を明るくする琉偉。

「おい!うちの妹を無闇に小洒落た言葉で惑わすな!!」

「君が思いつかないんだからこの際何でもいいじゃん」

「じゃ、こ、これはどうだ!?古来より能力持つ人々に使われてきた言葉らしいぞ!」

「そんなのあるならちゃっちゃと出してよもう〜」

日本語を却下されつつあり異様に狼狽える黎により再び紙に書かれた言葉。


稀人


「お兄ちゃん、なんて読むの?」

「まれびとと読む。まれとは、滅多に存在しない非常に素晴らしいものという意味もある。まさに琉偉にふさわしい」

「え〜確かに意味合いは素敵だけど古風過ぎて今どきの美少女な琉偉ちゃんとは合わなくない?」

「君はさっきから何なんだ!」

「いやいや君が何なの?日本語オタクっぷりで私達振り回さないでよ!」

「あ、えっと……じゃ、とりあえず、混ぜちゃう?」

「ん?」

「ん?」

「稀人とRainmakerを足しちゃうか、足して二で割ってみちゃうとか……どうかな?」

言い合う二人を何とか鎮めるためにおどおどしながら折衷案を出す琉偉。

「じゃ……」

ペンを手に取り紙に書く頼可。


マレビト:Rainmaker


「とりあえずこれでどう?」

「さすが頼可さん!なんだかオシャレ!」

「とりあえずとは何だ、だいたいこれ漢字ですらないぞ」

「はいはい」

「軽く流すな!!」

「うるさいめんどい」

「なっ……!」

「まぁまぁお兄ちゃん、それよりこの力を何に使うか考えようよ」

「そうだよ〜それが肝心だよね!」

「だよね頼可さん!……といっても僕、水不足の畑やダムに雨降らせるくらいしか思いつかないけど……」

「る、琉偉……!なんと地球に優しい発想……!さすが俺の可愛い妹……!よくぞここまで心清らかに育ってくれたな……!」

「お、お兄ちゃん……僕そんな大したこと言ってないよぉ……」

感動のあまり琉偉の両肩をガシッと掴み瞳を潤ませる黎。その圧に琉偉はかなり戸惑っているがお構いなし……。

「みずにゃーやっぱりかなりのシスコンだね〜」

「やかましい!」


「あ、頼可さんの雷はどんなふうに使おうかな……?そういえば、雷ってどのくらいの威力なんですか?」

また激しい言い合いになりそうだったので話を変える琉偉。

「そういえば、琉偉ちゃんにまだ見せてなかったね〜」

言うなり窓を開け、窓の外の畑に向かい一連の指のメソッドをこなす頼可。

晴れ上がる青空に一筋の紫色の稲光がレーザービームのごとく縦に走り、10メートル程先の地面に叩きつけられる。


ズガガガアァァァン……!!


余りの色の鮮やかさに一瞬花火を見るかのような感覚だったが、その衝撃音で凄まじい威力を悟りおののく。

「す……すっごい……!」

「これビビるよね〜私も最初出せた時本当にびっくりしたよ」

「どうやって使えばいいんだろ……?もっと弱いの出せたら、お年寄りや怪我の後遺症に効果ある微弱電流を流す治療とか出来そう。前にサッカー部で怪我した子の付き添いで接骨院行ったことあるけどそういうの置いてあったよ」

「琉偉……!地球だけではなく、お年寄りや怪我に苦しむ人々のことも考えられるとは……!こんなにも心優しい人間に育ってくれて、俺は……俺は……!嗚呼、感動の余りむせび泣きそうだ……!」

「みずにゃー、ぶっちゃけ相当暑苦しいよ」

「うるさい!」


「とりあえず、雷の威力を加減出来るかどうか練習して試していってみるね。他にも何かあるかな〜……」

「こういう煮詰まった時は散歩だ。散歩しながら考えるのがいい」

「え〜外暑いからここで琉偉ちゃん淹れてくれる美味しいハーブティ飲みながらがいい〜」

「それで煮詰まっているから言っているんだ。数多の文豪がそうやって閃きを得てきたんだ」

「いや私達文豪じゃないし」

「風情がないなぁ君は」

「まぁまぁ二人とも……あ、そうだ!アイスのハーブティをボトルに詰めてお散歩にする?」

「アイスのハーブティもあるの!?さすが琉偉ちゃん!」

「さすがだろ?うちの妹はこうやってさっと気遣いが出来るんだ」

「わかったよ〜シスコン」

「君は……格好のネタが出来たとばかりにからかいやがって……!」

「いえいえ、事実を述べてるだけですよ〜」

「出来たよ〜」


そうこう小競り合いをするうちに、冷蔵庫に入れたハーブティを持ち運び可能なボトルに詰めて二人に渡す。

「ありがとう琉偉ちゃん!よくボトル余分にあったね」

「これ、お父さんのなんです。今はこのおうちにいないから」

「そういえば、今は別々に暮らしてるんだっけ?」

「そうなんです」

表情こそ微笑んでいるもののふと伏し目がちになった琉偉を見て込み上げる、それ以上深く訊ねてはいけない気持ち。

どんな家にも、色々あるもんだよね。

散歩に出るのは、色んな意味でいいタイミングだったのかもしれない。


「今日も公園はのどかだねぇ」

「いや、あそこの子達が……」

公園の奥のほうにいる幼稚園くらいの男の子二人。

やや大柄の子が何かを喚きながらもうひとりの小柄な子の髪を引っ張っている。

小柄な子も泣き喚きながら振りほどこうとしてはいるが、もがけばもがくほど髪を強く引っ張っられることになりどんどん泣き声が激しくなっていく。

そんな事態だというのに辺りを見回してもその子達の親らしき人もいなければ、幼稚園児二人と琉偉達三人以外に誰もいない。

「あ、いいこと思いついた」

すっとその子達に近づき目線を合わせる頼可。

「ねぇ、この子痛そうだよ?あんまり痛いことすると神様が怒って雷落としちゃうよ〜?」

「あ、そ、そうだよ!悪いことすると神様怒って怖いよ〜」

頼可の作戦を察知し合わせる琉偉。

「うるせぇ!かみさまなんていねぇもん!」

「ぎゃあああああああああ」

反発して更に髪を引っ張る手を強める子に、更に泣き喚く子。

「神様は本当にいるのになぁ……あ~あ知らないよ〜?」

「神様もっと怒っちゃったかもね〜怒って雨も降らせちゃうかも」

その瞬間。


ズガガガガァァァァァァァン……

ドシャアアァァァァァァァァ……


幼稚園児二人の背後にあるジャングルジムに落ちる紫の稲妻と、そこにのみピンポイントに降る土砂降りの雨。

「うわぁ!なんだよこれ!?こえぇ!」

そのピンポイントさは子供からみたらかなり不気味なようだ。

「ほら〜神様怒っちゃうって言ったでしょ?やめないと君にあの雷落ちて雨も降ってくるよ〜」

「うわぁ!や、やめる!!」

「髪を引っ張ってごめんなさいは?」

「ご、ごめんなさい!もうしないから!」

「もう悪いことしないよね?」

「しないよ!な、いっしょにかえろう?」

「うん……あ、ありがとうございます」

ペコペコと謝り倒す大柄の子、お礼を言う小柄な子。

先程のことは何もなかったかのように仲睦まじく手を取り合い一緒に帰っていった。


「なんか……見えてきたね」

「うん、なんだか見えてきた」

「初仕事としてはささやかなものだが、大事なことだったな」

「ちょっとだけ、いいことできたかも?それもモンペ気にすることなくお子様対策出来たね」

「ふっ、今どきモンペ履くやつなんていないぞ」

「違います〜!モンペってのはああいうの注意しても逆ギレするモンスターペアレントの略!」

「お兄ちゃん、頼可さんにファッション用語のこと言うなんて釈迦に説法だよ……」

琉偉の一言に笑いが起きる。


「こんなふうに、もっと役に立つ使い方見つけられるといいな」

「ね!」

その後も夕暮れを見ながらハーブティを飲み、ぶらぶらと歩いて色々探していった。

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