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マレビト:Rainmaker  作者: 楠田りた
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呪われた姫君のるいるいタイム

家に帰り着き、部屋に行き着替える。普通ならここで部屋着やパジャマに着替えるのだろうけど、僕は違う。


僕が着替えるのは、男子用の制服から女子のお洋服。

余裕がある日は、これにメイクも加わる。


特にパステルカラーのお洋服が大好きだから、それに合う白い肌を保つために部活のときには日焼け止めを欠かさない。

それも、サッカー部の男子達からは「琉偉、お前のその女子力の高さに一部の女子はドン引きしてっからな」と言われたけど……。

別にいいもん。莉仁や灯夜は「だから肌きれいなんだな〜俺も日焼け止め塗ろう」とか言ってくれたもん。


誤解して欲しくないのは、僕は女装癖があるわけじゃないから、単に女の子の格好したりお化粧して満足しているわけじゃない。

女装癖の人には女装癖の人の苦労はあるはずだけど、とりあえず僕のとは種類が違う。


これが、僕の本来の姿。

僕は、性同一性障害というやつで、見た目は男子そのものだけど、中身は女子。

病院の先生の説明によると、身体は男性だけど脳の仕組みが女性とのこと。

ネットにもいろいろ載っているけど、その説明が自分としては一番しっくりきた。


この居心地の悪い現状を打開するには性別適合手術をするしかないが、それは法律上未成年のうちには出来ない。

つまり、僕の青春は否応なく偽りの性別で過ごすしかない。

本当は一人称を『僕』と言うのも妥協に妥協を重ねた結果で、周りの目を意識したものに過ぎない。


正式に診断されたことで周りにも言おうかと思ったけれど、たとえ障害が真実だとしてもすぐに女性になれるわけでないのなら混乱させるだけだし、それを周りが受け入れるかどうかはまた別問題なのは嫌というほどわかっているため踏ん切りがつかない。

障害があることで、腫れ物に触るかのように扱われるのにも抵抗があるし、偏見の目を向けられるのに堪えられるかどうかもわからない。

莉仁や灯夜に嘘をついているようで申し訳ない気持ちにもなる。

受け入れてくれそうな人達だから話しても良さそうな…でも、だからこそその逆の反応だったら……そのとき、自分の心はどうなってしまうのだろう?

今まで一番身近な人間に理解されずにいたからか、打ち明けるのにどうしても臆病にもなるし、慎重にもなる。

そんな風に言うと友達を疑っているような嫌な気持ちになるが、信じているからこそ怖いという気持ちも沸いてきて頭の中がぐちゃぐちゃになる。


そもそも、僕が女子ということになれば男子サッカー部に在籍出来なくなるのではないか?そうなったら、好きなサッカーも出来なくなるし、フォーメーションの見直しもしなきゃならないし、みんなとも離れることに……。

だったら、今のままみんなで和気あいあいと友達でいた方が周りに迷惑もかけず、余計な気を遣わせずに済む……。


とはいえ、自分を偽って生き続けるのは辛い。

そこで、この窮屈な日々を乗り切るために生まれたのが『るいるいタイム』。

ラベンダー色の壁紙、パステルカラー中心の雑貨、ベッドの上から垂れ下がる天蓋に見たてたモスキートネットでいかにも女の子らしいインテリアに装飾した自分の部屋。

このいかにも女の子らしい空間で女の子の格好をして、女の子として独り言を呟き、素の自分として登録したSNSでも女の子として呟き、その日あった出来事を女の子として振り返る。

思いっきり女の子として振る舞い、普段の無理している自分とのバランスを取る大切な時間。

この時間があるかないかで、心の安定度が格段に違う。


最初から女の子に生まれてきた幸せな子達を羨んだり愚痴ってみたり、ふと将来が不安になり涙ぐんだり、この時間を設けた頃はどうしてもネガティヴな要素が大きかったが、それは精神衛生上よくないと最後には明るく希望に満ちたことや莉仁への気持ちやその日のかっこよかった瞬間に想いを馳せることにした。

今日は、そんなときに思い返すのにうってつけの出来事があった日というわけだ。こんな日はいつもより張り切ってメイクをして、ついマスカラを塗り過ぎてしまう。


みんな、ただのノリで莉仁と僕のことお似合いとか言ってるのはわかってるし、莉仁もみんなのノリに合わせているだけってわかってる。それでも、あんな風に公認のカップルっぽくされるとつい嬉しくなってしまう。

莉仁がまるでこんな自分を拒絶していないかのようで……。

その後、冷静になるとあぁ、違うよね、そんなわけないもんね、浮かれちゃダメだよね……なんて我に返って淋しくもなるけど、あの瞬間の莉仁の笑顔を思い起こすとそのチクリと胸に刺さるような気持ちも和らぐ。

莉仁の優しさ、莉仁の表情、莉仁の声、莉仁の腕が自分の肩を抱き寄せる感覚……ひとつひとつ思い出して、ポーッとする。

この瞬間だけはどんな現実も忘れて、ただの幼馴染に恋する女の子でいられる。


いつからか、この辛い現実から目を逸らすためにこんなおとぎ話のような空想をするようになった。


私は、呪いをかけられたお姫様。

だから、心と身体の性別が逆になってしまった。

いつの日か、その呪いを王子様が解き放ってくれる。

それまでは、魔女に見つかり殺されないように男の子として過ごさなきゃいけない---。


こんな僕の正体を知ったら、みんなはどう思うんだろう?

すんなり理解してくれるのだろうか?

それとも、空想癖のある気味の悪いモンスターだとでも思うのだろうか?

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