四話
翌日私は、早速出来立てホヤホヤの新曲を聴いてもらう為、メンバーとプロデューサーに赤坂の家に集まってもらった。
昨日メールと一緒に新曲も添付していたので皆んなからの承諾は得ていたのだが、やはり生の声が聞きたかったのでこうして集まってもらった。
《Do you remember?
those words you said to us
"My favorite song in the world"
100% overflowing Magic word
You of that when you remember always a
It's we are singing doing do this
It is thanks to you
Kimi did not start anything unless have
"Thank you."
But this word
Wait forever to say it?
One week? One month? One year?
I do not know even it
So I sing until it reaches to your ears
Years, because're here is we even after decades
Waiting
If tomorrow, the day after tomorrow
As Bokura ga Ita that reflected in your eyes
Kimi is all right even if they are not remember us
Also many times since sing
Then I would surely you or say
"My favorite song in the world"
Is filled our hearts with it only》
自分なりにいい曲に仕上がったとは思うが、万人受けするとは限らない。それを狙って作ったわけではないのだから。
狙ったとしてもそう簡単には作れやしないが。
「……ふー、毎回泣かせてくれるねー。昨日メールでも言ったけどこりゃ、ミリオンいくんじゃない?」
煙草の煙を吐き出しながら言うこの男性は石垣悠。推定五十歳。
彼はメンバーからユウちゃん、という愛称で呼ばれ親しまれている名ばかりのプロデューサー。若かりし頃はヴィジュアル系ロックバンドのヴォーカリストとして一世を風靡したらしいが、今ではそんな面影、微塵もない。全体的にふっくらとしたたぬき親父だ。
「待たせるだけはあるな」
「………待たせて悪かったわね、ソラ」
煙草を吸いながら皮肉を言い放つのはBAZZのギタリストでリーダーの水嶋空。二十歳。
彼は私の幼馴染みで女嫌いということもあり、私以外の女性とは極力関わりを持とうとしない。本人はこのまま一生、独り身でいるつもりなので困ったものだ。
「流石、詩。なんかやる気出てきたー!」
「ふふ、期待してるね?天才ドラマーのシン君」
「おう!任せとけ!」
見た目も中身もチャラチャラしたこの男は、相澤慎。二十歳。BAZZのドラマーで一番のお調子者、いやムードメーカーというべきだろうか。レコーディングの際、根気詰まった私たちをいつも元気づけ、笑わせてくれる。BAZZにとって必要不可欠な存在だ。
「シン、詩の冗談を本気にするんやない。お前が天才やったら俺は神になれるわ」
「章チン、酷い!」
「誰が章チンや!このどアホ!!」
関西生まれのこの男は濱章一、二十歳。シンからよく章チンやら、章タンやら変なあだ名で呼ばれている。大概、皆んなからは章と呼ばれる事が多い。
BAZZのベーシストで小学生まで関西で育ったこともあり、中々関西弁が抜けないという。本人は直す気など微塵もないみたいだが。一応仕事や公の場では標準語で話しているので問題ない。仕事とプライベートで使い分けているらしい。私としては関西弁で話す章一の方が親しみやすくて好きだ。
そんな彼にも一つだけ、欠点がある。それはいつも違う女性を連れ歩いていることだ。それがプライベートのみの行為なら何も言わないが、職場にまで連れてくることが度々あるのでかなり迷惑してる。その度、空に大目玉をくらっているのだが、性懲りもなく同じことを繰り返す。本当、勘弁してほしい。
まあでもその欠点さえ除けば、よく気の利くいい奴だ。
「…てか、ルイ寝てるし」
「こいつはまた…」
空は額に手を当て、項垂れる。
ソファーに寝転んでいるこの長身の男はクッションを大事そうに抱えていて、その姿は小さな子供がそのままでかくなったみたい。名を剣持ルイといい、BAZZのキーボード担当。
彼は日本人とイギリス人のハーフでビー玉のように青く、透き通るようなその瞳は人を魅了させる力がある。
一日の半分以上は睡眠時間に費やしているこの万年寝太郎は何を考えているのかよくわからない。付き合いが長い私たちでさえ、理解出来ないことが多々ある。
ルイはハル兄の後輩で私たちより五つも年上の二十五歳なのだが、精神年齢は幼稚園児並みだ。思い通りにいかないとすぐ拗ねるし、放浪癖があり、ちょっと目を話すとフラフラどこかへ行ってしまう。捜すのも一苦労。
それでもピアノの腕前は天才的でどんな激しい曲もルイの手にかかればお手のもの。時折、二人で曲制作に励むこともある。キーボードはBAZZの魅力の一つ。
「ほな、恒例の前夜祭といくか。シン、ケイちゃんとこ電話せえ!俺は皆んなに連絡するさかい」
「へーい」
いつも私たちはレコーディングをする前後で前夜祭、後夜祭と称した飲み会を開催する。スタッフたちのモチベーションを上げる為に必要なことだ。
「ルイ、起きて」
「……」
空がキレる前に起こそうと思い、ルイのその大きな身体を少し強めに揺さぶる。しかしいつものことながら、こんなことでは起きるはずもない。
「……プリン、食べちゃうよ」
耳元で囁く。これでこの男は必ず起きる。恋人でもないのになぜ、私がこんなことをしなければいけないのだろう。他の人に同じことをやらせてもこいつは起きない。ーーー実証済みだ。
こっちはいい迷惑だというのに、この男はいつも暢気に寝てる。ぶん殴りたくなる。
「……ん、プリン」
「あ、起きた?おはよ、ルイ」
「…はよ、プリンは?」
「……」
この男の頭の中にはプリンしかないのか。
まだ寝ぼけているのか、ルイのビー玉のような綺麗な瞳がこちらを虚ろに見つめる。私は彼のこの瞳が時折、怖く感じることがある。あまりに綺麗すぎて、そして全てを見透かされているような気がして……。
「?…なに、見つめ合っとるん?イチャつくなら他でやりぃ」
「イチャついてない!」
「ねえ、プリンは?」
「プリンならあるさかい、心配すんな。そろそろ行くで」
私たちは赤坂の家を出て、ユウちゃんの車に乗った。そしていつもの店へと車を走らせる。