No.01
砂漠の街にある大きな商店街。アラビアンナイトをイメージさせる雰囲気の街並み。
あちこちから声が聞こえ、賑わいを見せている。
少年のファンファは小柄だ。歳は今年で10歳をむかえる。銀色の髪は三つ編みにされ、左の肩から腰まで垂れ下がっている。
お店の果物屋に足を止めて眺めている。
「坊や、魔具を持っているのかい。珍しいねぇ」
お店のおばさんが、ファンファの持っている杖に目を止めた。
杖はファンファの背丈をゆうに超える高さがある。
頭の一つ、いや、二つ分はあるだろう。
「そうだよ。僕の魔具さ」
自慢げに手に持っていた杖を見せた。
「立派な杖だねぇ」
「えへへ」
ファンファは照れくさそうに鼻の下を指でこする。
「一人でここに?」
「いや、ツレがいるんだけど……」
と、その時。
ファンファの後ろから、腰まであるポニーテールをした人が近寄ってきた。
「おや、このおねぇさんがお連れさんかい?」
「誰が“おねぇさん”だよ。胸なんてないぞ俺は」
おばさんは驚きを隠せずにその人の顔を見た。
見た目は整った顔立ちで、華奢な体つき。それと、腰まである長い髪。見た瞬間だけでは男だと気づかない。
「…男だよ。そんな顔すんなよ。今この場で服を脱いでもいいぞ」
「暁さん!それは警察に捕まりますよ!」
「冗談に決まってるだろ。果物買ったらさっさといくぞ」
「はい…」
ファンファは果物をいくつか手にとって支払った。
不思議そうな顔をしたおばさんをよそに、暁はファンファを連れて去っていった。
「ったく。誰がおねぇさんだよ。デカイ剣を持った女なんてそうそういないだろに」
先ほど買ってきた果物にかじりつく暁。
「仕方ないですよ。女性みたいな見た目なんですから。間違われるのは今に始まったことでもないですしね」
「……一回お前は黙ってろ」
「いてっ!」
ファンファの頭に暁の拳をくらった。
頭を撫でながら、「本当のことをいったまでだ」と心で思った。
暁は真っ黒な髪で、くせっ毛の強い髪質。
西洋の様な服装の自分だが、暁は東洋の和の服装をしている。
その背中には大きな剣を背負っているのだ。
「あっ!暁さん!」
暁はどこから取り出したのか、酒をグビグビ飲み出した。彼は酒豪なのだ。ファンファは酔った彼の後始末を嫌というほどしている。
ちなみに暁は二十代後半の青年だ。
もちろん、ファンファは未成年なので酒を飲むことはないが、彼の酒に付き合わされるのは辛い。
幼き十歳にして酒の付き合いをさせられているわけだ。
ファンファはファンファで、背は低いが大人びた表情の持ち主だ。しかし身長のせいで年齢より上に見られることはない。逆に幼く見られてしまうのが今の悩みになっている。
そんなこんなで歩いていると、商店街を抜けて住宅街に入っていた。
「随分と古い家が多いですね」
「歴史ある国だからな。街並みもどこか古風だな」
「リャーナでしたね。この国の名前」
「あぁ。唯一砂漠に囲まれた国だ」
活気というほど活気はなく、妙に静かなところだ。
人も見かけない。商店街とはうって変わっている。
「妙に静かだな」
「出歩いてる人がいませんね」




