INTRO
夕刻から湧き出した暗雲が、水蒸気を含んで徐々に重くなり、硬化コンクリートのビルが密集する都市上空を覆い尽くす。
やがて暗雲から、ぽつぽつと水滴が落ち始めた。本格的な雨になったのは、午後八時を過ぎた頃である。
雨の中、ホーンフィールド郊外の閑静な高級住宅地区を、一台のワゴンタイプ電動車が走り抜けていった。
駆動音をほとんど立てない電動車は、他の家々からやや離れた一角に建つ屋敷の前で、静かに停車した。オート式のガルウィングが開き、運転していた人物がのっそりと地に降り立つ。
五十代半ばの大柄な男だ。周囲を威嚇するような、眼差し鋭い黒目。孔の大きな鼻。あごひげは濃い。樽のように膨らんだ体型だが、脂肪の塊ではなく、鍛え抜かれた筋肉である。
よく熊に例えられる容姿の持ち主――ヴォルフ・グラジオスは、降る雨に濡れることも厭わず、電動車の後部に回りこみ、トランクを開けた。
トランクには、奇妙な金属の物体が積まれていた。それは人の身体の半分ほどにもなる大きさで、卵に似た形状をしていた。
物体には、持ち手になるような取っ掛かりがなかった。ヴォルフは、いかにも重そうなその物体を、苦もなく抱え上げ、トランクから降ろした。
金属の卵を抱えたヴォルフは、屋敷の玄関前まで運び、いったん下に置いた。両開きの扉に付いた古風なノッカーを、どんどんと叩く。
ノッカーの上に設置されたインターホンから、不機嫌な声がした。
『どなただね』
「俺だ、オズモント先生」
間を置かず、玄関扉の右側が自動で開いた。ヴォルフは再び金属の卵を持ち上げ、屋敷の中に入った。
玄関のすぐ脇にある階段の手すりから下を覗く老人、シーモア・オズモントが、ヴォルフを迎えた。
長い白髪を、後ろで一つに束ねた、小柄な人物だ。しわの刻まれた顔はいつも曇っているが、これが常なのだと、ヴォルフは分かっている。
一匹の、耳の垂れた大型犬が、オズモントの脇をすり抜けて、ヴォルフのもとへやってきた。犬は太い尻尾を振り振り、ヴォルフの匂いを嗅ぐ。それから、ヴォルフが抱え上げる金属の卵に、興味を示した。
「おっとジャービル。こいつは食えるもんじゃねえぜ。すまんな先生。ちょいと床が濡れちまった」
ヴォルフの身体から、雨の雫がぽとりぽとりと、床に落ちている。オズモントは仏頂面で、軽く肩をすくめた。
「そのくらいはかまわんよ。電話で話していた“厄介なもの”とは、それのことかね」
「ああ。どこに運んだらいい」
「こちらへ」
ひょい、と人差し指だけで、「ついて来い」と合図するオズモント。ヴォルフは彼に従い、金属の卵とともに二階へ上がった。犬のジャービルは、軽快な足取りで階段を駆け上がり、老主人にぴたりと寄り添った。
ヴォルフが通された部屋は、オズモントの書斎だった。老人は几帳面に整理整頓された書斎の床を指差す。
「そのへんに置いてくれ」
指示されたとおり、ヴォルフは金属の卵を、部屋の中央あたりに置いた。
さっそくジャービルが卵にまとわりつく。
「ジャービル、離れなさい。ずいぶんと大きな卵だな。どこの養鶏所だね」
オズモントはしゃがみこみ、金属の卵をしげしげと観察した。
「ん? これは……」
老人の目が細められる。彼は卵の、ある一箇所を凝視し、その部分を指で触れた。
「政府のマークだな。ヴォルフ、これをいったいどこで?」
「〈墓荒らし〉どもが掘り起こしたもんだ。〈パンデミック〉跡地でな」
「〈パンデミック〉跡地だと?」
オズモントの両目が見開かれた。ヴォルフは頷く。
「〈墓荒らし〉ってのは、裏の仕事の一つだ。連中は、立ち入り禁止指定区域に入り込んで、金目のものをあさるのが生業だ。長い間誰も近づいてねえ場所には、案外掘り出し物が眠ってたりするもんなんだよ。なじみの〈墓荒らし〉グループが、先週〈パンデミック〉跡地に踏み込んだらしくてな。そこで、土ん中に埋もれていたこいつを見つけたんだと。持ち帰ったはいいが、正体が分からねえ、扱いに困る、金にもなりそうにねえってんで、俺に押しつけやがったのさ。中に何かが入ってたとして、開けることができりゃあ、その中身は好きにしてくれ、だとよ」
「それで私に、これを開けろ、というのだね、君は」
「見たとこ機械仕掛けの“卵”だ。こういうのに強くて信用のおける相手は、あんたしかいねえ」
ヴォルフの言葉に、オズモントは皮肉な笑みを、口の端に浮かべた。
「高く買われたものだな。どれ、それなら試してみるとしよう」
オズモントは、窓際に置かれた重厚な机のもとへ移動した。机上のコンピューターを起動させると、数本のケーブルを持ち出し、コンピューターと“卵”をつなぐ。
老人とコンピューターディスプレイとの睨み合いが始まった。ヴォルフはジャービルをかまってやりながら、オズモントからの反応を待った。
三十分ほど過ぎた頃、ヴォルフはオズモントに呼ばれた。
「待たせたね」
「どうだい。卵は孵せそうか?」
「どうにかうまくいくだろう。中身の状態だが」
オズモントは卵を、顎で示す。
「極度の低温状態にある。この卵は冷凍保存装置なのだよ。画面をごらん」
オズモントに促され、ヴォルフはコンピューターディスプレイを覗き込んだ。表示された卵の解析画像の中心に、黒い影が映っている。影は、見慣れた形状をしていた。
「なんだこりゃ、人間がうずくまってんじゃねえか。生きてるのか?」
「コールドスリープというわけだ。中の人間の正体は分からないが、どうするね」
「どうするもこうするも、開けてみなけりゃ話は進まねえだろう。やってくれ」
「〈パンデミック〉跡地で見つかったものだぞ? 厄介な相手だったら?」
「そん時はそん時だ」
緊張感のないヴォルフの答えに、オズモントは満足げに頷いた。
「なら、万が一よからぬものが出てきた場合は、ぜひ私を守ってくれ」
老人の細い指が、キーボードの上を滑る。卵型の冷凍保存装置から、シュウウウ……という音が立ち始めた。
「解凍が始まった。完了すれば、開く」
解凍はものの数分で終了した。
ヴォルフとオズモントが見守る中、卵の表面に四角い亀裂が生じ、蓋が外側に向けて開いた。
隙間から透明な液体があふれ出し、床を濡らした。液体に押されるようにして、蓋が完全に開く。と同時に、内部で眠っていたものが、その姿を現した。
流れ出る液体とともに、床に投げ出されたものは、まぎれもなく人の姿をしていた。
一糸まとわぬ若い青年だった。年の頃は二十歳を過ぎて間もないくらいか。まだ十代の幼さの残る顔立ちだった。茶色混じりの金髪の持ち主である。濡れた裸体は細身であるが、たくましいしっかりとした筋肉がついていて、かなり鍛えられていることが窺えた。
青年はピクリとも動かず、産まれたばかりの赤ん坊のような無防備な体勢で、硬く両目を閉ざしている。
眠り続ける青年に、ジャービルが鼻先を近づけた。青年の濡れた身体を嗅ぎ、しきりと首を傾げている。
オズモントはジャービルを青年から離し、首筋を撫でてやる。
「ジャービルがまったく怖がっていないな。危険な人物ではなさそうだが」
オズモントは青年のそばで、片膝をついた。あちこちを観察し、腕や首、腰に触れる。
首の後ろを確認した時、オズモントは「ほう」と感心したような声を上げた。
「どうした、先生」
「ヴォルフ、君はなかなかのレアものを手に入れたらしいぞ」
「何?」
「彼は〈マキニアン〉だ。首の付け根に接続孔がある」
「〈マキニアン〉? なんだそりゃ。新型のアンドロイドか何かか?」
「いや違う。マキニアンは人間だよ。あることに特化した、強化戦闘員だ」
その時、青年の指先が、ピクリと動いた。まぶたがかすかに痙攣し、ゆっくりと持ち上がる。
燃え盛る炎のような緋色の瞳が、まぶたの下から覗いた。
*
そこは、地上から約420mの高さ。下から吹き上げる上昇気流が、百五階建て高層ビル最上域の外壁に設置された、雨樋のガーゴイル像をわずかながらに揺らす。
大地から遥か離れた場所である。加えて今は深夜だ。常人ならば、そのあまりの高さと、眼下の闇に目を回し、立つこともままならないだろう。だがそのような所にも関わらず、緋色の瞳の青年が一人、ガーゴイル像の側に座っているのである。
縁に赤いラインの入った黒のスウェットパーカーに、ヴィンテージのジーンズ、黒いワークブーツといった、カジュアルな格好である。
柔らかい猫毛から除くやや大きい耳に、右には三つ、左に五つ、計八つの黒いリングピアスがぶら下がっている。
どこにでもいそうな「ちょっとやんちゃな若者」といった雰囲気だ。
青年はネオンの海と化した深夜のグリーン・ベイの街並みを眺めながら、片足を投げ出していた。
ピピッという小さな機械音が、彼の右耳を突いた。
「お、始まったか」
青年は右耳の中に仕込んであるイヤホンに触れた。風の音が少し邪魔だが、聴き取りにくいほどではない。
彼はしばし、イヤホンから聴こえてくる音に耳を傾けた。
ビルの五十三階の一室。薄暗い部屋の中は、極北と紛うほどに凍りついていた。
家具や調度類を氷が覆い、窓には霜が降りている。かすかに流れる空気も、真冬の微風のようだ。高層ビル内の無数の部屋の中、ここだけが極寒の地と化していた。
骨も凍りつきそうなその部屋に、蠢く影は二つ。
影の一つは人間。丁寧にくしけずって整えられた髪は黒。深緑の目を眼鏡で覆い、少しずれたそれを指先でついと正す。着こなした紺色のスーツは、彼のスタイルや足の長さを強調している。知性あふれる美男であった。
これほどの低温の只中にありながら、彼は平然と立っていた。その右手には機械の剣が握られており、刀身部は冴え冴えと蒼く光っている。
もう一つの影は、人の形をした巨大な怪物であった。隆々たる筋骨と体躯を誇り、二つの頭部を持つ、ドゥックスと呼ばれる鬼だ。
ドゥックスはその鋼のような肉体に、無数の傷を負っていた。傷口は凍りつき、皮膚の下の肉がさらけ出されている。
憎しみのこもった唸り声を上げ、牙を見せるドゥックスに、しかし男は微塵も動じなかった。
「低能のドゥックス程度に、人の言葉が通じるとは思えないが」
彼は辛辣に、淡々と言った。
「二択だ。好きな方を選べ。このまま凍えて死ぬか、焼かれて死ぬか」
ドゥックスの双頭が血だらけの口を開け、おぞましい絶叫を上げた。そして、重々しい身体で窓に突進し、打ち破ってビルの外壁に飛び移った。
男は慌てることなく、ドゥックスが屋上に向かって外壁をよじ登る様子を確認すると、踵を返して部屋を出た。
「燃やされたいそうだ」
何気ない独り言のようだが、その言葉は奥歯に仕込んだマイクを通して、彼の合図を待つ者の耳にまで届いた。
「了解!」
イヤホンから聴こえてきた相棒の言葉に、彼――エヴァン・ファブレルは嬉々として立ち上がり、目線を下げた。
彼の足元から地上にまで伸びるビルの外壁を、巨大な鬼が、もの凄い勢いで這い登ってくる。
エヴァンは面白がるようにニヤリと笑うと、無造作にその身を宙に躍らせた。
引力に従い、エヴァンは頭から落下していく。外壁を登る物体に迫る。エヴァンは直前の空中で一回転。体勢がまっすぐに整ったと同時に、彼はドゥックスの二つの頭部に着地した。
エヴァンは怪物の鼻面を踏みつけ、
「ご指名どうも! “燃やす”担当のエヴァンです!」
ホルスターから二丁の銃を抜くと、ドゥックスの片方の頭に狙いを定めた。
トリガーを引く。射出されるのは、実弾ではなくエネルギー弾だ。炎のように光る弾丸が、怪物を討つ。
何十発もの弾丸を受け、怪物の頭部が肉片を撒き散らしながら破壊されていった。
怪物の動きが止まる。エヴァンは射撃をやめ、空いた左腕を高らかに掲げた。
とどめを差そうとしたその時。生き残った双頭の片割れが、エヴァンに牙をむいた。太い片腕を振り上げ、エヴァンの右腕を掴まれた。
「お!?」
何が起きたか理解するより先に、エヴァンの身体が持ち上げられた。
一つ頭になったドゥックスは、その報復とばかりに、何度も何度も、エヴァンを壁に叩きつける。壁は衝撃で大きくくぼみ、蜘蛛の巣状にヒビ割れた。
普通の人間であれば、すでに絶命している。しかしエヴァンは、かすり傷ひとつ負っていなかった。
「ってえな! この怪力野郎!」
軽口を叩く余裕すらある。
『仕留めたか?』
イヤホンから相棒の声。
「レジーニ、こいつ思ったより体力あるんだけど!」
相棒のレジーニ――レジナルド・アンセルムに訴えるが、返ってきた言葉は限りなく冷たいものであった。
『お前が体力勝負で負けてどうする、この役立たず』
ドゥックスはエヴァンを掴んだまま、更なるスピードで屋上を目指し始めた。エヴァンは怪物の猛走を止めようと試みるも、手負いの獣には通用しなかった。
「止まりやがれコノヤロー!」
しかしドゥックスは止まらず、ついに最上部に到達した。転落防止の柵を飛び越え、屋上に降り立つ。
そこでは、剣を携えたレジーニが待ち構えていた。
ドゥックスは咆哮を上げ、掴んでいたエヴァンを、レジーニに向かって豪投した。だがエヴァンとレジーニ、どちらも少しも慌てなかった。
エヴァンは左腕を伸ばす。彼の肉体を構成する〈細胞装置〉が、彼の意思に応じて起動する。五本指が強化ワイヤーに変形し、ドゥックスを捉えた。地面に降り立ったエヴァンは、暴れる怪物を逃がさず、気合を入れてその巨体を引き寄せた。
勢いのついたドゥックスの巨体は宙に放り上げられ、放物線を描いてエヴァンの頭上を跳び越し、レジーニの方へ落ちていく。
レジーニは愛用の機械剣〈ブリゼバルトゥ〉を下に構える。刀身の蒼い光が一層強まる。
剣の内部に仕込まれた具象装置――フェノミネイターが、活動を始めた合図だ。
ドゥックスが間近に迫ったその時、レジーニは〈ブリゼバルトゥ〉を斬り上げた。フェノミネイターによって発生した冷気が、蒼い刀身からほとばしり、ドゥックスの鋼の胴を斬り裂いた。
怪物は絶叫を上げながら、地面に墜落した。だがタフな怪物は、勢いは失ったものの、死ななかった。
のそりと立ち上がり、自分を追い詰めた人間どもへの復讐心を全身からたぎらせる。その胴体は、徐々に凍りつきつつあった。
ドゥックスがレジーニに向かって走る。レジーニとドゥックスの間に、エヴァンが割って入った。
格闘技の構えをとる一瞬の間に、エヴァンの両腕が二度目の変形を遂げる。特殊強化金属のグローブ型の真紅の武具〈イフリート〉へと。
迫り来る巨人に、余裕の笑みを浮かべ、
「はいいらっしゃい!」
懐に潜り込み、強烈な左右コンボを決めた。ドゥックスの巨体がぐらりとよろめく。エヴァンは敵に反撃の隙を与えず、攻撃を連続で繰り出した。
胴全体への連殴打を受けたドゥックスは、徐々に後退していった。この間にも凍結化は進行しており、怪物の下半身は完全な氷の彫刻と化していた。
手負いの獣は、それでも復讐の炎を絶やしてはいなかった。エヴァンが次の攻撃に移る、わずかな一瞬をつき、岩石のような頭をエヴァンの額に打ちつけたのである。
だがエヴァンは倒れることもなく、逆に額に衝突した瞬間、ドゥックスの頭を両手で掴んだ。
「残念。頭のカタさなら俺の方が上」
跳躍し、膝蹴りをドゥックスの顔面にめり込ませた。鮮血を吹き上げ、ドゥックスは後ろにゆっくりと倒れた。しかし地に伏すことはなかった。ドゥックスの全身に氷がまわり、倒れる直前に完全凍結したのである。
ちょうど屋上の端、あとわずかで転落、というギリギリの場所だった。
怪物の動きはついに止まった。エヴァンは戦慄のオブジェクトと化したドゥックスに、とどめの回し蹴りを叩き込む。
「よせ! この馬鹿!」
後方からレジーニの叱責が飛んできた。
「え?」
なんで? と問うエヴァン。
回し蹴りを受けた氷漬けの怪物が、転落防止柵の上に倒れた。その重みで柵がへし折れる。くい止めるもののなくなった氷漬けのドゥックスは、壊れた柵を越え、地面に向かって夜の闇に落ちていった。
「あーーーーーー……らら」
エヴァンは慌てて柵の外を覗き見るも、もはや巨人の姿は遥か彼方であった。今頃は地面に衝突し、砕け散っているであろう。
「やべ、やっちゃった」
顔を引きつらせるエヴァンの背後に、レジーニが忍び寄る。
「クソ猿が」
地獄の底から這い出てくるような、低く恨めしげな声。双頭の巨人よりも、命綱なしで空中戦を繰り広げるよりも、エヴァンにとっては何より恐ろしい瞬間だった。
「念のために周辺を封鎖しておいて正解だった。お前、アレが落ちた地点に、通行人がいたらどうするつもりだったんだ?」
「あ、いや、ごめんマジで。ちょっとはりきり過ぎた。反省」
エヴァンは両手を上げ、慌てて弁解する。しかし、レジー二には通用しない。
レジーニは右手の指を三本立てた。
「三度目だ、猿。二日間で三度、僕の注意を受けているわけだが、それについてお前はどう思う?」
声が怖い。冷たい威圧感に圧され、エヴァンは無意識のうちに後退していた。
「んーと、徐々に少なくなってきてるな?」
「ふざけてるのか。調子に乗るな、無闇に敵に突っ込んでいくな、状況を把握してから行動しろ。何度似たような注意を僕にさせれば気が済むんだこのバカ猿。今日の落とし前、どうやってつけるのが正しいか、言ってみろ」
「そ、そうだな」
エヴァンは一瞬考えて、パチンと指を鳴らした。
「『次で挽回』!」
「違う! 『死をもって謝罪』だろうが!」
レジーニ怒りの一蹴が、エヴァンの腹にヒットした。蹴りの勢いで宙に放り出されたエヴァンは、
「ごめんなさーーーーーーーいッ!!」
謝罪も虚しく、墜落するのであった。
*
メメントと呼ばれる異形のモノたちが今、闇の中を跋扈している。
それがいったい、いつの頃から存在していたのか。なぜ在るのか。まだ明らかになっていない。
唯一つ明確なのは、メメントは人類を脅かすものである、ということだ。
メメントはあらゆる生物の死骸が、何らかの原因によって異形へと変貌したものである。メメント化した生物は、生前の生態を失い、暴虐の限りを尽くすだけの、まったく異なる魔物となる。
この脅威の魔物を倒すには、特殊な武器が必要だった。このため、メメントの駆除は主に軍部が執り行っている。
しかし、もう一つ別のところに、メメントに対抗する勢力があった。
それは裏社会の職業の一つ。
数ある裏家業者の中で、もっとも危険且つ猛者たちの集まる職種。
軍の正式な委託を受けぬままメメントを狩る、彼らは〈異法者〉という。