水不足
私たちが住んでいる日本はとても恵まれている。飽食の時代と言われ、食に関して困ることは少なくなり、逆に食生活の乱れが原因で肥満やメタボリックが問題視されるほど。乱暴に言ってしまえば、太れる国と表現していい。
しかし世界を見渡せば、そんな国は多くない。飢餓や栄養失調のために死んでいく命は数知れず。食糧危機は未だかつて解決されないのだ。
特に問題となるのは“水”だ。食料は食べなくても数日から一週間は生きていける。しかし水は数パーセント失っただけでも体調不良になり、十パーセントほどで生命の危機に達するのだ。仮にあなたの体重を五十キロとして、身体に含まれる水分を六十五パーセントとすると、水分はおよそ三十三キロ。生命の危機に達する十パーセントとは、およそ三キロ。成人が排出してしまう水分は二リットル、つまり二キロであるから、あっという間に生命の危機に達してしまう。しかし、私たちはそんなことにはならない。なぜなら常日頃から図らずとも水を摂っているからだ。
お分かりいただけたろうか。水不足というのは食料不足よりも命を落としやすいのである。水に恵まれない国は、この危機と常に隣り合わせの事態なのだ。その恐怖たるや、断崖絶壁に追い込まれるがごとし。
したがって、水不足を解消することは多数の生命を救うこととなるのは間違いない。特に子供に当てはまるだろう。
そこで、水不足の対策として我が社が開発したこの製品をご覧いただきたい。
ここからは映像を使って説明したいと思います。
こちらの映像に写っている蓋をされた巨大な器。これにパイプを伝ってお隣の箱に繋がっています。これらを“水精製マシーン”と名づけています。と言いましても、水素と酸素を結合させたり海水を蒸発させたりするものではありません。どちらもコストがかかり、とても役に立たないからです。
では“何”を用いるのか? ……答えは続きをご覧下さい。
「……な、なんだここは?」
「なんだこれ?」
「! なにをするっ? やめろ! はなせ!」
「いやだ! やめてくれっ! うわあぁぁっ」
これ以上は見せる必要はありませんよね? ……そう、使うのは“人間”です。一人あたり三十キロ以上は取れますから、これほど素晴らしい素材はないでしょう? ……え? どうやって水を精製するかと? 簡単ですよ。まず人間をこの器の中に入れてかき混ぜます。中には巨大で鋭利なミキサーカッターとプレス機があるので、骨ごと砕きペースト状にします。……骨抜きはしないのかと? 骨の中には骨髄というものがありまして、そこからも水分が取れるんですよ。絶対必要です。
そしてペーストにしたものを何十層にも重ねた濾過装置に通します。ここから水が出てくるというわけです。これで水不足に困りませんよ。だって人間は多くいますからね。
……え? 矛盾していると? 確かに人を救うために人を使うのは変な話ですよね。でも、この方々は“人”ではありません。“物”なんです。なぜなら死刑囚ですから。死刑執行もできて水も取れて、おまけに余計なお金もかけずに済む。一石三鳥の夢の装置です。いや、コスパに優れていますから一石四鳥ですね。作りも簡単で安価、素材の原価ゼロ円、いいことづくめで文句の言いようがありませんよね。
さて、このお値段ですが、○○円です。はっきり言ってお買い得なのですが、それでも迷うという方、今なら特別サービスで一週間の無料貸出を行っています。素材も十個ほどお付けしております。その間のトラブルは全て対応いたします。例えば、素材が暴れまわった場合、お好きな方法で使っていただいて結構です。素材にはオスメスどちらもいますので。無料体験が終えても、そのまま使っても構いません。
この“水精製マシーン”、いかがでしょうか? お求めはフリーダイヤル……。
プツッ、とテレビを切った。テレビの前で座っている男が呟いた。
「どうして日本で宣伝してんだ?」
お久しぶりの水霧です。落ち着いてきたので一作投稿しました。
できるだけグロテスクな表現を避けようとしましたが、絶対に無理ですね(汗)。製品のPRっぽく書いてみました。
お読みいただきありがとうございました!
P.S.
寒くなってきたので風邪に気をつけましょうね。