あるエピローグ
「ただいまあ」
靴を脱ぎ、鞄をおろしながら娘が帰ってきた。普段の帰宅時間より30分ほど遅い。
「おかえり。遅かったな。何かあったのか?」
「マルケー止まってさあ、滅茶苦茶待ってた」
確かに、今日は風がずいぶん強かった。こういう時に限って休養を取っている、マルケー駅員の同級生の顔を思い出す。
「運が悪かったな」
「んー。母さんは?」
いるよー、と、台所の奥から声が飛ぶ。どうやら今の会話を聞いていたらしい。
「今日のご飯なにー? お腹すいたー」
靴下を脱いでそのまま台所へ向かっていく。
先に制服脱いじゃいなさい、お弁当箱出して、などと妻が世話を焼く。仲のいい母娘だ。娘が生まれる時妻は死にかかったが、生まれた娘を見て死んでなるものかと奮起したらしい。そこから16年で20キロ肥り、今は薄弱さなど欠片もない。活発に家事をこなし、週に何度か友人の店の手伝いをする。
「今日はねえ、八百屋さんの手伝いに行ったの。山菜をもらったのよ」
「ご飯までまだ時間あるから、それ飲んでゆっくりしてて」
「はあい」
娘が嬉しそうに椀に口をつける。
「あっつ!熱っ!」
「ちょっと熱いから、気をつけてね」
「――ああ」
「言うの遅いって!」
今わかった。あの時、
[注釈]
マルケー:環状線。