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この作品はフィクションです。

実在する組織、国家、部隊等とは関係ありません。

また、第1長距離偵察連隊は作者の創作した部隊であり実在しません。

201x 4.12 森林


影が歩いている。

ただ歩いているのではない。窮屈に体を縮め、中腰のままゆっくりと、

あらゆる音を立てぬように気を使いながら歩いていた。

その影は異形であった。

背中は首から異様なまでに膨らんで湾曲し、腰の周りは角ばったドーナツを巻いたように

盛り上がっている。頭部のシルエットはぐちゃぐちゃで、

その影が二本の脚で歩いているーつまり、我々のよく知る人類に当てはまるーことから、

ようやく頭部のようなものと推測できるような、醜い影であった。


その恐るべき影は、木々に覆われた薄暗い森の中をゆっくりと、時折樹木をかわしながら、

それでも自ら定めたであろう方角へ迷いなく正確に進んでいる。目標物など何もない、

太古の昔から変わらなかったであろう森林。そして、これからも。

土の上には多くの抜け落ちた葉と、茶褐色の枝が敷き詰められているにもかかわらず、影はまるで宙にでも浮いているかのように物音ひとつ立てることなく、慎重に進んでいた。

常識でものを考えれば、影はこの森で生まれ育った野生動物に違いなかった。

文明を知らず、己の勘で森を泳ぎ、獲物を捕らえ日々を生きのびる

原始の類人猿であろう。この森を訪れ、もし影を見た文明人がいれば

聞きかじった教育の片隅から受け売りの知識を引っ張り出し、そう考えるほかはないのだろう。

一条の木漏れ日が気まぐれに影を照らした。


そうではなかった。

その影は身体中をナイロンで覆っていた。

肩からハーネスで吊った弾嚢を両胸にずらりと並べ、

腰にはバックルも見えぬほど隙間なくポーチを取り付けた弾帯を巻いていた。

身体の半分もあるような巨大な背嚢を背負い、中からは前方に軽く傾斜をつけたアンテナが見えている。

頭部をヨレヨレの長いつばで覆った帽子には輪郭というものがなく、

全周に均等に縫い付けられたループに挿された草木によって、

森林と完全に同化していた。

影の身に着けているもの全てにはグリーンに茶色と黒を散りばめた迷彩が施されていて、

それは顔といえども例外ではなかった。

ドーランで緑に塗った上に、左瞼から鼻へ、そして顎へと黒のストライプを引いている。

目だけが、やや充血した白い目だけがらんらんと輝いていた。

装具のありとあらゆる金属部分にはすべてオリーブ色のガムテープが巻かれている。

要するに、影はあらゆる文明と知識の恩恵を受け、色も、音も、文明からも消えるために

確固たる意思を持って自らを影足らしめているのだ。

おそらくは、同じく文明と知識の恩恵を受けた、また別の影たちに立ち向かうために。

手首まで覆った長い手袋は、迷彩の布でぐるぐる巻きにした筒のようなものを持っていた。それが何かはわからなかった。

ここは日本である。影は、兵士であった。

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