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神の記憶  作者: ケンジ


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9/22

異なる身体

第一部 創造された世界

科学が高度に発展した未来。意識科学の研究者ユウは、繰り返し見る奇妙な夢をきっかけに、人類の歴史に隠された謎へと近づいていく。


人間とは何か。意識とは何か。そして、創造主とは何者なのか。


科学と哲学が交差するSFミステリー。

科学において、最も危険な言葉の一つは、「当然」なのかもしれない。


当然、そうなっているはずだ。


当然、誰かが調べているはずだ。


当然、説明できるはずだ。


その言葉は、時として思考を止める。


ユウは、研究者になってから何度もそう教えられてきた。


だからこそ、自分がその言葉を使っていたことに気づいたとき、少し恥ずかしくなった。


古代の人間と、現代の人間。


身体の構造が違うのは、当然だ。


長い時間をかけて、医学が進歩したのだから。


それが、ユウの理解だった。


しかし。


その変化は、いつ、どのように起きたのだろう。


ユウは、答えを知らなかった。


*


第零保存区での調査は、発見された資料の保全作業へと移っていた。


地下施設から回収された記録媒体は、歴史研究院の解析部門に送られ、復元が続けられている。


ユウも、意識科学研究所へ戻っていた。


ただし、以前とは仕事の内容が少し変わっていた。


研究室の表示面には、二つの神経構造が並んでいる。


一つは、現代人類のもの。


もう一つは、第零保存区から発見された古代の医療記録をもとに復元されたものだった。


「……ずいぶん違いますね」


カイが言った。


ユウは頷いた。


「そうだね」


「でも、基本的な配置は似ています」


「うん」


「なら、やっぱり長い時間をかけて改良されたんじゃないですか?」


ユウは、画面を見つめた。


「僕も、そう考えている」


「考えている?」


カイは、少し不思議そうな顔をした。


「違うんですか?」


「分からない」


ユウは静かに答えた。


「正確には、そう考える理由はある。でも、それを直接裏づける資料を、僕はまだ見つけていない」


カイは腕を組んだ。


「大断絶のせいですか」


「おそらくね」


「それなら、仕方ないんじゃないですか?」


「そうかもしれない」


ユウは頷いた。


そして、画面の一部を拡大した。


「ただ、少し調べてみたいことがある」


「何です?」


「身体の改良が段階的に進んだのなら、その途中には、さまざまな構造が存在したはずだ」


「ええ」


「例えば、この神経伝達機構」


ユウは、古代の構造を指さした。


「古代の記録では、化学的な伝達が中心になっている」


次に、現代の構造を指さした。


「一方、現在の人間では、化学的な伝達に加えて、補助的な情報伝達機構が組み合わさっている」


カイは頷いた。


「学校でも習いました」


「そうだね」


「昔の神経系を、医学技術によって改良した結果だと」


「うん」


ユウは、二つの画像を並べた。


「だとしたら、最初に補助機構を導入した時代があったはずだ」


「……確かに」


「そして、その技術が普及していく過程も」


カイは、少し考えた。


「でも、その記録が失われたんですよね?」


「そう説明されている」


ユウは頷いた。


「だから、まずは本当にどこまで分かっているのかを確かめたい」


*


二人は、医学研究院が公開している歴史資料を調べ始めた。


神経補助機構の発達。


生体修復技術の普及。


人工子宮の標準化。


栄養供給方式の変化。


どの分野にも、詳細な研究が存在した。


ただし、その多くは現在の技術を説明するものだった。


技術がどのように機能するか。


どのような利点があるか。


どうすれば安全性を維持できるか。


それらは、十分に説明されている。


しかし、ユウが知りたいのは別のことだった。


その技術が、いつ、誰によって、どのように導入されたのか。


カイが、ある資料を見つけた。


「ユウさん、これ」


「何?」


「生体修復機構の歴史についての総説です」


ユウは資料を開いた。


《現代型生体修復機構は、大断絶以後の医学体系の成立とともに標準化されたと考えられる》


ユウは、その文章を読み返した。


「……成立とともに」


カイが言った。


「何か気になります?」


「いや」


ユウは、続きを読んだ。


《成立過程の詳細については、現存する一次資料が限られており、今後の研究が必要である》


ユウは、画面を閉じた。


「これも同じだ」


「何がです?」


「現在の仕組みは分かっている。でも、成立した過程が分からない」


カイは頷いた。


「大断絶があったから」


「そうだね」


ユウは、少し考えた。


「カイ」


「はい」


「大断絶がなかったら、僕たちは何を知っていたと思う?」


「え?」


「自分たちの身体が、どのように作られてきたのか」


カイは笑った。


「作られてきたって、言い方が変ですよ」


ユウも笑った。


「確かに」


「改良されてきた、でしょう?」


「そうだね」


ユウは、画面を見つめた。


その言葉の違いが、なぜか気になった。


*


その日の午後。


ユウは、医学研究院の研究者と通信していた。


相手は、神経組織の長期維持を専門とする研究者だった。


「古代の神経構造と、現在の神経構造を比較したいんです」


ユウが説明すると、相手は興味を示した。


「珍しい研究ですね」


「歴史研究院と共同で調査を進めています」


「なるほど」


ユウは、二つの構造図を表示した。


「この違いについて、どう考えますか?」


研究者は、しばらく画像を見つめた。


「基本的には、長期的な医学的改良の結果だと思います」


「僕もそう考えています」


「ただ、細部には興味深い点がありますね」


「どこでしょう」


研究者は、現代の神経構造を拡大した。


「この補助的な情報伝達機構です」


「はい」


「現在の人間では、非常に安定した形で組み込まれています」


「ええ」


「しかし、古代の神経系には、対応する構造が確認できません」


ユウは頷いた。


「その導入過程を示す資料はありますか?」


研究者は、少し考えた。


「直接的な資料は、ほとんどありません」


「やはり」


「ただし、現在の神経系が古代のものを基礎としていることは、広く受け入れられています」


「その根拠は?」


研究者は、少し驚いたような表情をした。


「形態的な共通点や、機能の類似性です」


「なるほど」


ユウは頷いた。


「では、連続的に変化したことを示す証拠は?」


研究者は、しばらく黙っていた。


そして、静かに答えた。


「……そこは、歴史資料の不足が大きいですね」


ユウは、礼を言って通信を終えた。


*


研究室に戻ると、カイが待っていた。


「どうでした?」


「興味深い話が聞けたよ」


「何か分かったんですか?」


「まだ何も」


ユウは椅子に座った。


「ただ、僕たちが知っていることと、知っているつもりになっていることの違いが、少し見えてきた」


カイは、首をかしげた。


「難しいですね」


「僕もそう思う」


ユウは笑った。


そして、端末を開いた。


「次は、別の角度から調べてみたい」


「別の角度?」


「古代の人間と、現代の人間の身体を比較するんじゃない」


「じゃあ?」


「現代の人間同士を比較する」


カイは、少し考えた。


「……どういうことです?」


「身体の改良が長い時間をかけて行われてきたのなら、個体ごとに何らかの違いが残っている可能性がある」


「なるほど」


「もちろん、標準化が進んでいれば、差は小さいかもしれない」


ユウは続けた。


「でも、調べる価値はある」


カイは頷いた。


「やってみましょう」


*


調査は、研究所の匿名化された生体データを使って行われた。


年齢。


性別。


出生施設。


居住地域。


医療履歴。


神経活動の特徴。


ユウとカイは、複数の条件でデータを比較した。


最初に確認したのは、神経補助機構の構造だった。


個体ごとの違いは、確かに存在した。


伝達速度。


反応の強さ。


情報処理の傾向。


しかし、基本的な構造は、驚くほど共通していた。


「……かなり標準化されていますね」


カイが言った。


「そうだね」


「でも、人工子宮による発生管理が行われているんですから、当然じゃないですか?」


ユウは頷いた。


「その可能性は高い」


「それに、医療技術による改良もありますし」


「うん」


ユウは、結果を保存した。


「だから、これだけでは何も言えない」


カイは、少し残念そうに笑った。


「また振り出しですね」


「そうでもないよ」


ユウは、画面を見つめた。


「少なくとも、現在の人間の身体が非常に高い水準で標準化されていることは確認できた」


「それは、以前から知られていることですよね?」


「そうだね」


ユウは頷いた。


「でも、実際に自分で確かめることにも意味がある」


*


夕方。


セインから通信が入った。


「ユウさん、少しお時間ありますか?」


「もちろんです」


画面に、セインの顔が映った。


「第零保存区の資料について、新しい情報がありました」


ユウは身を乗り出した。


「何でしょう?」


「地下施設から回収された記録媒体の一部に、施設の運用履歴が残っていたんです」


「運用履歴?」


「ええ」


セインは資料を表示した。


そこには、古い形式の記録が並んでいた。


設備の点検。


物資の搬入。


職員の配置。


そして、施設の利用状況。


「普通の管理記録ですね」


ユウが言った。


「そうなんです」


セインは頷いた。


「ただ、気になることがあります」


「何でしょう」


「記録が、ある時点で途切れているんです」


ユウは、画面を見つめた。


「大断絶ですか?」


「その可能性はあります」


セインは続けた。


「ただし、記録の終わり方が少し不自然です」


「不自然?」


「最後の数日間、設備の稼働状況が大きく変化しています」


セインは、記録を拡大した。


複数の設備が、短い期間に停止していた。


「故障でしょうか」


ユウが尋ねた。


「そうかもしれません」


「災害の影響?」


「それも考えられます」


セインは頷いた。


「ただ、停止した設備の種類が気になるんです」


「どんな設備です?」


「通信設備と、外部への輸送に関係する設備です」


ユウは、少し考えた。


「施設が閉鎖された?」


「その可能性もあります」


セインは静かに答えた。


「ただ、閉鎖を示す正式な記録は見つかっていません」


ユウは、資料を見つめた。


「……何かが起きたんでしょうか」


「分かりません」


セインは、少しだけ表情を曇らせた。


「でも、私はこの施設が、ただ自然に使われなくなったわけではないように感じています」


ユウは頷いた。


「調べる必要がありますね」


「ええ」


*


その夜。


ユウは、自宅に戻っていた。


居間では、リナが絵を描いていた。


「お父さん!」


「ただいま」


リナは、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「見て!」


「何?」


「今日、学校で描いたの!」


ユウは、差し出された絵を見た。


そこには、家が描かれていた。


家の前には、三人の人物。


ユウ。


ミナ。


そして、リナ。


「上手だね」


ユウが言うと、リナは得意そうに笑った。


「でしょ!」


「これは、僕?」


「そう!」


「こっちは、お母さん?」


「うん!」


「じゃあ、これはリナだね」


「正解!」


ユウは笑った。


「みんな、楽しそうだね」


リナは頷いた。


「だって、家族だもん」


ユウは、絵を見つめた。


三人が並んで笑っている。


ただ、それだけの絵だった。


しかし、ユウには、とても大切なものに思えた。


「……ありがとう」


ユウが言うと、リナは首をかしげた。


「何が?」


「いい絵を見せてくれて」


リナは笑った。


「じゃあ、お父さんにあげる!」


「いいの?」


「うん!」


ユウは、絵を受け取った。


「大切にするよ」


*


夕食のあと。


ミナが、ユウの隣に座った。


「最近、難しい顔してることが多いわね」


「そうかな」


「そうよ」


ユウは、少し笑った。


「仕事で、気になることがあってね」


「第零保存区のこと?」


「うん」


ミナは頷いた。


「何か分かったの?」


「古い人間の身体について、いろいろ調べてる」


「昔の人と、今の人の違い?」


「そう」


ユウは、少し考えた。


「ミナは、僕たちの身体がどうやって今の形になったか、知ってる?」


ミナは首をかしげた。


「学校で習ったことなら」


「どんな?」


「昔の人間は、病気になりやすくて、出産も危険だった」


「うん」


「それを医学技術で少しずつ改良して、今の身体になったんでしょう?」


ユウは頷いた。


「僕も、そう思ってた」


ミナは、少し驚いた。


「違うの?」


「分からない」


「分からない?」


「その変化の過程を示す記録が、ほとんど残っていないんだ」


ミナは、しばらく考えた。


「でも、歴史ってそういうものじゃないの?」


「そうかもしれない」


ユウは頷いた。


「ただ、身体の基本的な構造が大きく変わっているのに、その過程が分からないというのは、少し気になる」


ミナは、ユウの顔を見つめた。


「……ユウ」


「何?」


「何か、怖いことを考えてる?」


ユウは、少し驚いた。


「どうして?」


「そんな顔してるから」


ユウは、しばらく黙っていた。


そして、静かに答えた。


「……自分でも、よく分からない」


ミナは、ユウの手を握った。


「無理しないでね」


「うん」


「答えが出なくても、いいことだってあるんだから」


ユウは、少し笑った。


「研究者には、難しい言葉だね」


ミナも笑った。


「そうでしょうね」


*


翌日。


ユウは、研究室で古代の医療記録を再び調べていた。


今度は、神経系ではなく、身体全体の修復機構に注目していた。


古代の人間は、細胞の分裂や再生によって組織を修復していた。


現在の人間も、同じような機能を持っている。


しかし、現在の修復機構には、古代の記録では確認できない補助的な仕組みが存在していた。


ユウは、その構造を詳しく調べた。


「……不思議だな」


古代の修復機構は、細胞の活動を中心としている。


一方、現在の修復機構では、細胞の活動に加えて、複数の調整機構が働いている。


それらは、非常に高い精度で連携していた。


「……どうやって、ここまで改良したんだ?」


ユウは呟いた。


もちろん、医学技術による改良は可能だ。


しかし、古代の身体構造から現在の構造へ移行するには、相当な技術的発展が必要だったはずだ。


その過程で、多くの試行錯誤が行われたはずだった。


失敗もあっただろう。


改良もあっただろう。


しかし、その記録が見つからない。


ユウは、画面を閉じた。


そして、ふと考えた。


もし、現在の人間の身体が、古代の人間から少しずつ変化したのではないとしたら。


その場合、どのような説明が可能なのだろう。


ユウは、すぐに首を振った。


「……いや」


それは、あまりにも飛躍した考えだった。


証拠がない。


ユウは、考えを整理するために、端末に仮説を書き出した。


《仮説A:古代人類から現代人類への段階的な医学的改良》


《仮説B:大断絶前後における急速な技術革新》


《仮説C:現在知られていない生体技術による大規模な身体構造の変更》


ユウは、三つの仮説を見つめた。


どれも、可能性としては考えられる。


しかし、決定的な証拠はない。


ユウは、静かに息を吐いた。


「……まだ、分からないな」


*


午後。


カイが、研究室に入ってきた。


「ユウさん、少し気になる結果が出ました」


ユウは顔を上げた。


「何?」


「昨日の生体データの比較です」


カイは、解析結果を表示した。


「年齢や出生施設による違いを、もう少し詳しく調べてみたんです」


「それで?」


「基本構造の共通性が、予想以上に高いんです」


ユウは、画面を見つめた。


「どの程度?」


「機能的な個人差はあります。でも、主要な神経補助機構の配置は、ほぼ同じです」


「……なるほど」


「これって、普通なんでしょうか」


ユウは、少し考えた。


「標準化された発生管理が行われているなら、不思議ではない」


「ですよね」


カイは頷いた。


「ただ……」


「何?」


「出生施設が違っても、ほとんど変わらないんです」


ユウは、画面を見つめた。


「共通の医学規格があるからじゃないかな」


「そうだと思います」


カイは頷いた。


「でも、その規格がいつ作られたのか、調べてみたんです」


ユウは顔を上げた。


「それで?」


「現在使われている規格の基礎は、大断絶後の初期医学体系にさかのぼるそうです」


「……そうか」


「ただ、その規格を最初に定めた組織については、詳しい記録が残っていません」


ユウは、しばらく黙っていた。


「……また、大断絶か」


カイは頷いた。


「はい」


ユウは、画面を見つめた。


身体の改良。


人工子宮。


神経補助機構。


生体修復技術。


それらの多くが、大断絶後の医学体系の成立とともに標準化されている。


しかし、その成立過程は分からない。


ユウは、静かに言った。


「カイ」


「はい」


「僕たちは、現在の人間の身体について、どこまで知っているんだろう」


カイは、少し考えた。


「仕組みについては、かなり詳しく知っていると思います」


「そうだね」


「でも……」


カイは、画面を見つめた。


「どうして今の形になったのかは、あまり知らないのかもしれません」


ユウは頷いた。


「……僕も、そう思う」


*


その夜。


ユウは、リナの寝室にいた。


リナは、布団に入りながら、学校で習ったことを話していた。


「今日ね、人間の身体について勉強したんだ」


「そうなんだ」


「心臓とか、脳とか」


「難しくなかった?」


「ちょっとだけ」


ユウは笑った。


「何が難しかった?」


リナは、少し考えた。


「どうして、身体の中にこんなにいろんなものがあるのかなって」


「なるほど」


「お父さんは、知ってる?」


ユウは、少し考えた。


「全部は知らないよ」


リナは驚いた。


「えー! 研究者なのに?」


「研究者だから、知らないことがたくさんあるんだ」


「そうなの?」


「そうだよ」


リナは、少し考えた。


「じゃあ、もっと勉強しないとね」


ユウは笑った。


「そうだね」


リナは、満足そうに頷いた。


そして、少し眠そうな声で言った。


「でも、お父さんは頭いいから、きっと分かるよ」


ユウは、胸が温かくなるのを感じた。


「……ありがとう」


「うん」


リナは、目を閉じた。


「おやすみ」


「おやすみ」


ユウは、娘の額にそっと手を置いた。


温かかった。


その温かさは、いつもと変わらなかった。


*


深夜。


ユウは、研究室から持ち帰った資料を眺めていた。


古代の人間。


現代の人間。


二つの身体構造。


そして、大断絶。


ユウは、端末に保存した仮説を開いた。


《仮説A:段階的な医学的改良》


《仮説B:急速な技術革新》


《仮説C:未知の生体技術による大規模な構造変更》


三つの仮説。


どれも、まだ否定できない。


しかし、どれも十分に説明できていない。


ユウは、静かに息を吐いた。


そして、もう一つの仮説を書き加えようとした。


指が止まった。


もし、古代の人間と現代の人間が、同じ系統の存在ではなかったとしたら。


ユウは、しばらく画面を見つめていた。


その考えは、あまりにも極端だった。


しかし、科学において、極端であることは否定の理由にはならない。


必要なのは、証拠だった。


ユウは、ゆっくりと文字を入力した。


《仮説D:古代人類と現代人類の間に、直接的な身体的連続性が存在しない可能性》


入力を終えると、しばらくその文章を見つめた。


そして、静かに呟いた。


「……そんなことが、あるのか?」


答えはなかった。


窓の外では、夜の都市が静かに光っていた。


ユウは、端末を閉じた。


寝室へ戻る途中、居間の壁に飾られた絵が目に入った。


リナが描いた、家族の絵だった。


三人が並んで笑っている。


ユウは、その絵を見つめた。


そして、ふと思った。


もし、自分たちの身体が、古代の人間とはまったく違うものだったとしても。


それで、何かが変わるのだろうか。


リナは、リナだ。


ミナは、ミナだ。


自分は、自分だ。


そう思った。


しかし、その考えの奥に、小さな不安が残っていた。


自分は、何者なのだろう。


その問いは、いつの間にか、夢の中だけのものではなくなっていた。


*


翌朝。


ユウの端末に、セインから緊急の連絡が届いた。


《ユウさん》


《第零保存区の資料について、重要な発見がありました》


ユウは、すぐに返信した。


《何が見つかったんですか?》


しばらくして、セインから通信が入った。


画面に映るセインの表情は、いつもと違っていた。


「ユウさん」


「はい」


「昨日、地下施設から回収された記録媒体の一部が、さらに復元されました」


「ええ」


「そこに、古い人体構造に関する資料が含まれていたんです」


ユウは、身を乗り出した。


「また医療記録ですか?」


「そうです。ただ、これまでのものとは少し違います」


「どういうことです?」


セインは、しばらく黙っていた。


そして、静かに答えた。


「……現在の人間の身体について、書かれているようなんです」


ユウは、言葉を失った。


「……え?」


「正確には、現在の人体構造と非常によく似た図解が見つかりました」


ユウは、画面を見つめた。


「大断絶以前の資料に?」


「その可能性があります。ただ、記録媒体の年代は、まだ確定していません」


ユウは、息を呑んだ。


「……見せてください」


セインは頷いた。


「ええ」


画面が切り替わった。


そこには、一つの人体図が表示されていた。


ユウは、目を見開いた。


神経補助機構。


生体修復機構。


そして、現在の人間と共通する身体構造。


それらが、古い記録媒体の中に描かれていた。


ユウは、しばらく言葉を失っていた。


「……どうして」


ようやく、声が出た。


「どうして、こんなものが……」


セインは、静かに答えた。


「分かりません」


そして、続けた。


「ただ、この資料には、まだ復元できていない部分があります」


「……何が書かれているんですか?」


「それを、今、解析しているところです」


ユウは、画面を見つめた。


古代の人間。


現代の人間。


その間にあるはずの歴史。


そして、今。


その空白の向こう側から、現在の人間の身体を示す資料が現れた。


ユウは、静かに呟いた。


「……僕たちの身体は、いつから存在していたんだ?」


答えは、まだなかった。


しかし、ユウは感じていた。


何かが、変わり始めている。


自分が信じてきた世界の形が、少しずつ揺らいでいる。


そして、その先には、まだ知らない何かがある。


ユウは、画面から目を離せなかった。


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