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暇つぶし短編③-2 暴力ミッキー(トラウマ編)

作者: 印具米
掲載日:2026/05/03

夢の国に遠足で来ていた杉風苑のお年寄りたち。不用意な発言が不機嫌なミッキーを怒らせ壮絶な暴行受けることとなった。その後、、、

 夢の国での凄惨極まりないミッキーの暴力。杉風苑のお年寄りたちには肉体のみならず心にも深い傷跡が残った。夜眠れない、眠ってもびっしょり汗をかいて夜中に飛び起きる、突然押しつぶされそうな不安感に襲われる、一日中気分がすぐれない、など。

 杉風苑は、そうしたお年寄りの精神的ケアのために心理士、精神科医などのチームによる定期的カウンセリングを行うことにした。しかし夢の国での暴力事件は想像以上にお年寄りの精神を蝕んでいた。

 この老人ホームには三木幹夫という90を超える男性が入っていた。彼は要介護5の寝たきりではあるが、明るく話好き、気の良い性格で誰からも愛され、その名前から「ミッキー」とか「ミッキーさん」と呼ばれていた。体が不自由なため遠足には行かれず、それにより難を逃れたのだが、事件後、その名前が忌まわしいということで、周りから無視されたり嫌がらせを受けたりするようになった。用のある時は名前ではなく「暴力じじい」、「犯罪者」、「極悪ネズミ」などと呼ばれることもあった。悪いことをしたわけではないのに、名前が似ているというだけのとんだとばっちりである。

 やがて三木さんに対する暴力が始まった。髪を引っ張る、頬をつねる、鼻の穴をふさぐ、など。三木さんは、体の自由がきかないため反撃できない。それをいいことにやりたい放題である。

 ある日、スタッフがいつものように三木さんのオムツを交換しようとした。手に取ってびっくりした。新品のオムツに赤の油性ペンで「死ね」と大書きされていたのである。運の悪いことに担当したスタッフは、事件時にお年寄りに付き添っていた若い男性介助者でミッキーに対する壮絶な怒りを有していた。彼はその時のトラウマで精神薬が手放せななくなっていた。さらに、結婚の約束までしていた女性と別れることとなった。別れた原因は彼女の下の名前が「美紀」だったことにある。事件以来、彼女の名前を呼べなくなった。それに止まらず、彼女と会うたびに惨劇を思い出し体が震えることもあった。結局、夢の国でのトラウマにより別れることにした。愛しているのに別れた。泣いた。一生分の涙を流した。彼はこの日、それまで抑え込んでいた怒りを爆発させた。ため込んでいた鬱憤を晴らすかのごとく「死ね」と大書きされたオムツをミッキーこと三木幹夫さんに見せつけ、笑みを浮かべながら荒々しくそれを履かせた。そして言い放った。

「ざまーみろ、思い知ったか。この暴力ネズミ」。

 「死ねオムツ」を履かされた三木さんのショックは大きかった。90年以上生きてきたがこれほどの屈辱は初めて経験するものだった。以来、スタッフにも心を閉ざすようになり完全に自分の世界に閉じこもった。太陽のように明るい人だったのに。

 杉風苑では定期的に近隣小学校の子どもたちが、ボランティアとして吹奏楽の演奏で訪れる。お年寄りは毎回それを楽しみにしている。ところがその楽しい催しが一転して惨劇の場となった。顧問の音楽教師は日ごろから世事には関心の薄い人であった。夢の国での暴力事件はその凄惨さ、衝撃性から世界にも配信されていたが、この女性教師は事件のことを何も知らなかった。結果、決して選んではならない曲が杉風苑のお年寄りの前で演奏されたのである。

     「ミッキーマーチ」

 演奏が始まると同時にあちこちから悲鳴が上がり、ホーム内はパニックとなった。当時の記憶が蘇り、震え出す人、錯乱する人、気を失う人、泣きわめく人、さらには怒りを爆発させ、仕返しとばかりに子どもたちに襲いかかるお年寄りまで現れた。殴る、蹴る、踏みつける、頭突きをくらわす、髪を引っ張る、純真無垢な子どもたちに対する壮絶な暴行。老人ホームが修羅場と化す。警察が到着したとき既に暴行は終了していたが、犯行が悪質として複数のお年寄りが手錠をかけられ警察車両に連行された。

 老い先長くないお年寄りが、いたいけな子どもたちに殴るけるの暴行を加えるという何とも痛ましい事件であった。


いくらなんでも子どもに暴行を加えるとは酷すぎる。

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