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どうして

「どうして」


 物語の上でしか知らない公安にお話が聞きたいという電話を受けて、某現場ネコのごとく、電話を抱えて社長は言った。


パーフェクトオーブは日本の老舗のゲームメーカーである。

ヒット作はエンジェリックオンライン。

大人気作のこれにリソースを注ぐ事で、生き延びてきた企業だ。

エンジェリックオンラインを祀った神棚だってある。

プレイヤーの皆様、社員の皆様、そしてゲームに感謝をして、大切に大切にこのコンテンツを守ってきた。

これのデータが、突如としてバックアップも含め、丸っと消えたのが先日の事。

前兆なんて何もなかった。急にノイズが走って一切の操作を受け付けなくなり、そしてデータが丸っと消えた。


社長は発狂した。でもプレイヤーの皆様の方が遥かに発狂した。

阿鼻叫喚。電話は鳴り響き、お気持ちメールは殺到し、SNSでは阿鼻叫喚。

株価は短い間に半分を割った。


大規模な返金要求をされ、被害者団体が結成されかけて、大変な事になった。

とはいえ、注ぎ込んでいるものは100万円単位で注ぎ込んでいるので気持ちもわかる。

幸い、課金はアカウント共通だったので、謝罪会見をして、一年後の100周年記念に発表予定だったエンジェリックオンライン2をぶち上げ、お詫びアイテムを配る事でなんとか混乱は治った。10年も準備した100周年記念のメインイベントが夢と潰えたが、仕方ない。


損害を考えるだけでクラクラするが、社員一同一丸となって再出発を試みていた所に、有数の有名ギルドそっくりの島が現れた。


個人情報である、ゲーム内の部屋まで丸っと公開され、ギルド倉庫から取り出された食料を美味そうに食べられて発狂する該当ギルドの皆様。レアリティゴッドの貴重なお野菜を畑で収穫してワイルドに丸齧りする様子に狂乱するギルドの皆様。

とどめはギルド名に対する侮辱だ。

それはそうだろう。ギルドはガチ勢の中のガチ勢。現実はエンジェリックオンラインの中にあると豪語するお得意様である。


怒り狂うギルドメンバーと草の乱舞。

下がった時以上の速さで上がり、天をつく株価。

ゲーム専用のSNSは過去一で盛り上がっていた。


拾ったから自分の物だと言い張る男。


電脳空間に設置する事を魔法使いだか宇宙人の専門用語で落ちてると表現するんです……?


他にも男は、ネット環境も整えていない、何よりトイレがない欠陥住宅なのが玉に瑕と文句たらたら。


怒り狂ったプレイヤーの皆様は全力で運営の後押しをしてくれるらしい。


ーー切れちまったぜ

ーーボッコボコにしてやんよ! 運営がなぁ!

ーーなんとかして、運営神様!


キレるプレイヤーの割合は増殖していき、もはや全面対決しないと治らなそう。


テレビの中で、ギルマスのコレクションらしき服のファッションショーを楽しんでいる謎の建国人一同をほえーとしばらく見つめて我に帰る。


盗人猛々しいという言葉で片付けていいのか疑問だが、とにかく動くしかない。

悪質なクレーマーに育てていただいた対応力を、今こそ発揮する時である。

なんだかんだで、ゲームの現実化でちょっぴりワクワクもしている。


社長は公安に、この盗人と会談が出来ないかお願いするのだった。






翌日。

犯罪者よろしく、ゲームでの設定を根掘り葉掘り問いただされ、更にはオンラインRPGの組合が出来る旨を秘書から伝えられる。

それはもちろん加入するが、会談前に集まりたいのだという。

絶対に面倒な要求はあるだろうが、援助も引き出せるかもしれない。


ドキドキしながら会議に出た。


「100周年記念は、残念だったね。せっかく準備をしていたのが潰されて」

「お気遣いありがとうございます」

「しかし、何故エンジェリックオンラインだったのか! 我が社のファンタジーストーリーオンラインはほのぼのしていて美味しい料理が盛りだくさんなのに!」

「ええ、我が社の龍物語オンラインも素晴らしいギルドシステムがあるのに」

「我が社なんてギルドシステムしかないのに」

「それは、エンジェリックオンラインのギルドシステムが一番でしたから」


 ひとしきり、自社の自慢をしつつ、本題に入る。


「今回の件、非常に残念な事です。そこで提案ですが、エンジェリックオンラインは返してもらって、代わりのものを贈るというのはどうでしょう」

「代わりのもの、ですか?」

「そうです。MMOを作る会社が総力を結集して作り出した電脳の楽園。そう、エデンプロジェクトですよ!!!」


 確かにそれは面白そうだ。

 別に、ポーションの薬効などが現実化しなくても、空に浮かぶ島が現実化できるならそれはそれで素晴らしい。というか、モンスター達が現実化しても困るのだ。

 食べ物と建物が実体化ぐらいでむしろちょうどいい。

 電脳を現実化するという事自体が奇跡なのだ。


 会議は遅くまで続いた。

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