ep.2:異世界
「端的に言えば、君はこの世界の常識を超えた存在だ。」
「えっ……」
急に何を言いだすかと思えば、ゲテンは意味の分からないことを喋りだす。
ゲテンはニヤリとギザ歯を見せて笑う。
「はははは、君は本当に面白い顔をするね。安心しなよ悪い意味じゃない、むしろその逆だ。君にはある才能がある。そして、それは磨けばこの世界を大きく変えることができる。」
ゲテンはそう言うと、アンティークの机から一本の煙管を取り出す。
そして、そのまま右手の二本指で煙管の中心近くを持つ。
しかし、どこにもマッチなどは見当たらない。
「そして、その才能ってのは”魔法の才能”だ。」
……こいつは何を言ってるのだろう?
俺は反射でそう答えようとしたが、先程のゲテンとの会話を思い出した。
ゲテンは先程、リリシアさんのことを”魔法使い”と言った。
そして、俺自身も最初の印象は魔法使いだった。
もしここまでの出来事がすべて正しいことだとしたら、一つ分かることがある。
ー異世界ー
そう、ここは元の世界ではない、魔法の存在する世界だ。
それならここまでの違和感もある程度は納得がいく。
「……あの、一ついいですか。」
「うん?どうしたんだい?」
「その魔法の才能っていうのは……」
しかし、そうとなると前の世界の常識がこちらの世界と同じとは限らない。
もしゲテンの言う通り俺に魔法の才能があったとして、その魔法と言うのがこちらの世界では何なのかはまだわからない。
そのため、俺は思い切って聞いてみたのだが……
「あぁ、君はまだ魔法を知らないのか。なら、ざっくりと教えよう。この煙管を見なよ。」
ゲテンはそう言うと、煙管を口に近づけると、そのまま口にくわえた。
俺の視線はそのゲテンの動きの一つ一つを目で追う。
すると、ゲテンは左手の人差し指と中指を立て、煙管の先端付近にまで近づけた。
俺が何をしているのだろうと思ったその瞬間……
「えっ……」
ゲテンの左手の指から火花が散ったかと思うと、突如として小さい炎が現れた。
そして、その炎でライターのように煙管に火を灯した。
それはまるで当たり前のように流れたので、俺は一瞬それを理解できなかった。
しかし、その困惑はゲテンが一服を終え、こちらに話しかけた瞬間に溶けた。
「ふぅ…………、まぁ、これは簡単な下級魔法だが、要するにはこういう風なもんだ。詳しいことはお前の師匠になるリリシアに聞いてくれ。」
はっ、そうだ!先ほども気になったが……
「そのリリシアさん?の弟子ってどういうことですか?そもそも、なんか俺が裏組織に入ることになってますけど、俺まだ子供ですよ。」
「うん?」
まだリリシアさんの弟子と言うことは分かる。
……いや、そもそもそれもおかしいのか。
しかし、仮にも俺は元警察官だ。
今はもう第二の人生だが、前世の記憶があるなら、そう簡単には裏組織に入れない。
それに、今の俺はまだ子供だ。
確かに助けられた恩はあるが、流石にひどいのではないだろうか?
「う~ん、確かにいきなり子供の君を裏組織に入れるのは流石の僕でもためらったけどね。でも、これは君のためでもあるんだ。」
「……………俺のためですか?」
「あぁ、そもそもの話、君は一回親に捨てられているんだよね。なんかそういう施設に送ってあげてもいいけど、最近の施設は治安が悪いからね。それなら僕たちが君を育ててあげようと思ってね。」
……いや、裏組織もだいぶ治安が悪いとは思うが。
しかし、確かにゲテンのいうことにも一理ある。
俺はこの世界での本当の両親を知らないどころか、ゲテンが言うには捨てられていたらしい。
両親がどういう人間かは分からないが、子供を捨てた人物のもとに帰りたいとは思えない。
それなら、この人たちの方がまだマシかもしれない。
「それにね、別に僕は善意だけで君を育てようとは思ってない。さっきも言ったけど君には魔法の才能がある。それこそこの世界の頂点に近づけるぐらいには。そして、僕は僕の目的のためにその力が欲しいと考えているんだよ。」
……なるほど、流石裏組織のボスと言うだけはあるだろう。
人間の習性を理解してやがる。
人は常に疑う生き物だ。
人間は基本的に一方的な善意より、相手に打算があると知っている方が信じられる。
それは例え本当に善意だけの行いだとしてもだ。
……まぁ、こいつの場合は善意だけと言われたら絶対に信じられない。
「……裏組織ってのが気に入らないかい?」
「……………まぁ、そうですね。あまりいい印象は思い浮かびませんから。」
実際、俺は元の仕事上、いろいろな反社会勢力の姿を見てきた。
しかし、そのほとんどは世界情勢を混乱させ、民間人に影響を及ぼす可能性があった。
すると、ゲテンは再び煙管を口に近づけ、煙を口に含んだ。
そして、それを空気に流すように吐いた。
「……僕たちの目的、というよりこの組織がどういうものかを説明しようか。」
ゲテンは自身の吐いた煙を見つめながら、そう呟いた。
その顔は真剣な顔立ちで気迫を感じるほどだった。




