ep.0:プロローグ
俺の目の前には二歳ばかりだろうか、それぐらいの大きさの幼子の姿がある。
いや、それだけを聞けば何もおかしな点はないだろう。
俺だって約三十年も生きていれば、親戚や近所の子供を見ることはそう珍しくはない。
しかし、今回はそのどれにも当てはまらない。
俺は自身の頬をつねる。
痛みは感じるため、これは夢ではないのだろう。
それに、痛みと共にプニプニとした感触も感じるし……
……うん、やっぱりおかしいよな。
この部屋には俺以外の人間はいない。
それなのに俺の目の前にある鏡には幼子の姿が映っている。
そして、この見事なプニプニした皮膚がそれを結論付けている。
俺は下を見下ろし、自身の体を見るが確かに手足は短く、いつもより地面が近い。
まさしく幼子の体型そのものだろう。
そう、筋肉モリモリだった俺の体はプニプニキュートな幼子の姿へと変わっていた。
俺は意味の分からない困惑と共に、少しばかり若返った喜びを感じてしまった。
いや!そうじゃねぇ!!どうしてこうなったんだ!!
俺は一人ツッコミをしながら、心の落ち着きを取り戻そうとする。
そして、俺は一つ心当たり……のようなものを思い出す。
それは少し前……いや、前の人生にさかのぼる……
~~~~~~
……俺、黒羽マモルは警察官だった。
主な仕事は事件の調査をしており、時には犯人と戦闘沙汰になる危険な職業だ。
そのため、警察官になるためにはそれなりの特訓が必要になる。
小学生のころ、たまたま警察官が犯人を捕まえるところを見た時から、俺の夢は警察官一筋だった。
幸い、俺の運動神経は悪い方ではなく、中学生のころから地道に体を鍛え、高校を卒業する時には周りの人間で俺に勝てる奴が現れることはなかった。
そして、警察学校で本格的に警察官について勉強し、卒業して直ぐにとは行かなかったが、無事夢だった警察官になることができた。
合格通知が来たあの瞬間の感動はきっと忘れることはないだろう。
そして、俺はあの時見た警察官のように、日々多くの事件を解決するために四肢奮闘していた。
昔から鍛えていた筋力と習得した武術の数々のおかげで俺は警察官たちの中でも、一番と言えるほど動くことができた。
そのおかげか俺はいつの間にか同僚たちの中で”最強の警察官”と言われるようになった。
そのことに関しては仲間たちに評価され嬉しくも、少し恥ずかしかった。
そんなある日、俺は長い間調査していた事件の犯人の場所が分かり、逮捕に動いていた。
その事件はいろんな暴力団体が関わっていることが分かっており、だいぶ前から危険視がされていた。
しかし、その犯人が分かっていても、居場所が分からず長い間解決していなかった。
俺は最前線でこの事件に関わっていたため、この事件の犯人の場所が分かったと聞き、居ても立ってもいられなかった。
正直、その時の俺は自分の実力ならどうにかなるという慢心があった。
しかし、俺はどこまで行っても警察官で最低限の判断はできる冷静さはあった。
その冷静さのおかげで俺は犯人達との戦闘時、仲間との協力で逮捕まであと少しまで行くことができた。
”あと少しで終わる”、その事実が頭の中に一瞬だけ浮かんだ。
今までの疲労が溜まっていたのもあるだろう。
俺はその場で息を整えるために立ち止まってしまった。
きっと一秒にも満たないだろう時間、されどそれは仲間の声が一瞬聞こえなくなるのには十分だった。
「……せ……!、……い!、先輩!!後ろ!!」
近くにいた後輩の声が聞こえた瞬間、俺の意識は一瞬にして覚醒した。
俺は焦って後ろを振り向き、体勢を整えようとした。
……しかし、もうすでに遅かった。
俺が相手を視認した時には、相手の持っていたナイフが俺の体を貫いていた。
その瞬間に感じたのは、痛みの熱と後悔の念だった。
意識が薄れ始めるのを感じたとき、目の前では俺を刺した犯人がこちらを睨んでいた。
それは俺の警察官としての最後の意地だった。
「おらぁぁぁぁ!!」
俺はフラフラとしつつも相手に近づき、最後の力を振り絞り刺してきた相手の顔面をぶん殴る。
すると、相手は顔がへこみながら遠くに吹っ飛んでいった。
相手が動かないのを確認すると、ついに何かの糸が切れたようにその場に倒れた。
もう視界はほとんど暗くなっており、意識は朦朧としていた。
そんな中、最後に映ったのは多くの事件を共に戦った仲間たちだった。
そして、俺は意識を手放し、三十歳独身の人生を終えた……
~~~~~~
……って思ってたのだが、俺は意識を取り戻し、目を覚ますと幼子の姿だった。
俺はあの時、確かに死んだという感覚を感じた。
初めての経験だが、あれほどの死の恐怖を忘れるはずがない。
そして長く考えた結果、俺は自分の姿から、一つの結論を導いた。
ー転生ー
……自分でもおかしな発想だとは思う。
しかし、大人から子供に変わるなんて、普通じゃありえない。
再び鏡に映る自分の姿を見直すが、そこに映ったのは銀髪のクール系美幼子だけだった。
「おっ!なんだ、ようやく目を覚ましたのか。」
「!!」
俺は突然の声に驚き、すぐさま後ろを振り返る。
そこにいたのは一人の女性だった。
しかし、俺はその女性の姿を見た瞬間、俺の頭に浮かんだのは”魔法使い”だった。




