大好きだよと彼女は言った
夢を見ていた。
凄く気持ちが良い夢だった。
その夢の中で私は。
「二人とも大好きだよ」と言った気がする。
次に陽が目を覚ましたとき、そこは保健室の白い天井だった。
「……ここ、どこ……?」
陽がまばたきを数回繰り返すと、視界に詩帆と澪の顔が映った。
二人はベッドの傍に座っており、彼女が目を覚ましたことにほっと息をついたようだった。
「よかった……気がついた」
「もう、ほんとにびっくりしたんだから」
「……え?え……私……」
陽は身体を起こそうとしてふらつき、再びシーツに身を預けた。
「陽ちゃん、熱中症だったって。音楽室、すごく暑かったから……」
「水分もとらずにいたから、倒れちゃったの」
「音楽室……」
陽は記憶を辿る。
澪と詩帆が近づいてきて、たくさんのキスをしてきて。
「あ、ああああっ、だ、だめ、それは……っ」
陽は顔を真っ赤にして、枕に顔を埋めた。
(うそ……あれ、夢……? 夢だったの!?)
(うううっ、やだ……わたし、澪と詩帆ちゃんに、あんな……そんな……っ)
「ご、ごめんなさい……!」
陽は突然起き上がって、顔を真っ赤にしたまま頭を下げた。
「へ、変な夢、見て……ごめん……大好きな2人であんな、ほんと、ごめんなさい……っ」
「……陽ちゃん、何のこと?」
詩帆がきょとんとした顔で首を傾げる。
「夢?なんの夢?」
「……夢、なんだよね、うん。そっか、夢……」
陽は胸を撫で下ろしながら、またベッドに倒れ込んだ。
(でも……なんでだろ。まだ身体が熱い……)
気づかぬうちに、制服の襟が少し開いていた。
そこに、うっすらと赤い印がいくつも残っている。
まるで、夢ではないと訴えるかのように――キスの痕が。
けれど陽は、それに気づいていない。
詩帆と澪は、顔を見合わせて、そっと微笑んだ。
そして、陽の耳元に優しく囁いた。
「……私たちも、大好きだよ」
その言葉に陽は気づかず、ただ夢の続きを思い出して、枕の中で小さく身を縮めた。
終わり。