汗の味
「ねえ、陽ちゃん……ここ、少し汗かいてる」
詩帆が、指先で陽の鎖骨のあたりをなぞった。
その肌はうっすらと濡れていて、熱がこもっている。
「やっ、だめ、そんなところ――」
詩帆はふと顔を寄せると、そこに舌を滑らせた。
「ん……やっ……!」
陽の声が、咄嗟に跳ねる。
「だって、こぼれそうだったから……もったいなくて」
淡く笑いながら、詩帆は汗をゆっくりと、舌でなめ取っていく。
その熱に、陽の背筋がまたピンと伸びた。
身体が正直に反応してしまうのが怖い。なのに――
肩口までめくれた布の内側、素肌に近い場所が、ひんやりとした空気に晒されていくのを、止められない。
「やっぱり……陽は、触れたくなる匂いがする」
澪が後ろから囁くと、その手がゆっくりと滑り込んできた。
5本の指が、まるで蜘蛛の脚のように。
なめらかで、けれど確実に獲物を逃がさないように、陽の肌着の上から胸元を這った。
「ん……や、やめ……」
陽は身を捩るも、布越しに感じる感触が逃げる暇を与えてくれない。
「逃げないで……陽の全部が、かわいくて、愛おしくて……」
「このまま、私たちのものになって」
澪と詩帆の声が重なる。
やさしい呪文のように、陽の耳に降り注ぐ。
陽の心の中では、まだ「だめ」が渦巻いていた。
けれどそれ以上に、「このままでもいいかも」が、静かに育ち始めていた。
汗の熱も、指の熱も、唇の熱も、
全部が混じって、身体の奥へと落ちていく。