キスの跡
「ふたりとも……もう、やだよ……これ、へん……」
陽の声はかすれ、震えていた。
けれど逃げようとする腕を取る手は優しく、それでいて、決して放してはくれない。
詩帆の唇が首元に触れる。ひとつ、またひとつ。
唇だけでは足りなくなり、軽く吸われ、キスの痕が肌に刻まれていく。
「やっ……やめて、そんなとこ、跡つけないで……っ」
陽の身体が跳ねるように反応する。
「やだじゃないでしょ? 陽ちゃん、こっちのほうが気持ちよさそうだよ……」
澪が囁きながら、肩口に手をかけた。
制服のブラウスのボタンが、ひとつ、またひとつと外されていく。
下着のラインが露わになると、陽は反射的に両腕で胸元を覆おうとしたが――その腕も、優しく押し下げられた。
「だめ……ほんとに、だめだよ、これ……っ」
けれど、言葉とは裏腹に、
首筋から肩にかけて、すでに何個も赤いキスマークがついていた。
ひとつひとつが熱を持ち、陽の肌を灼いているようだった。
「……もう、逃げられないから」
澪の声が、耳元に落ち、強く噛まれる。
陽の背筋がピンと伸びた。
張り詰めたように身体が強張り、同時に、腰が小さく震える。
目をぎゅっと閉じて、唇を噛みしめていた。
「陽ちゃん……」
詩帆がそっと、額に口づけを落とす。
「大丈夫。怖くないよ。……だって、わたしたち、ずっと一緒だったじゃない」
「これまでも、これからも」
澪も陽の背中に抱きつきながら、唇を肩の傷跡に重ねるように吸い付いた。
「だから……少しずつでいいから、教えて。陽ちゃんの、好きと、嫌いと……どこにキスされたら、腰が震えるかとかも……」
陽の口から、短く、震えるような吐息が漏れた。
服の襟元はすでに崩れかけ、ブラウスは腰のあたりまではだけていた。
柔らかな白肌に浮かぶ幾つもの痕が、陽がどれだけ愛されているかを無言で主張していた。
「やだ……でも、ほんとは……」
陽は言葉の続きを飲み込み、目を潤ませながら小さく首を振った。
その顔を、澪と詩帆はそっと挟み込み、また、ひとつ。
今度は唇に、深く、ゆっくりと、キスを落とした。