私の友達二人はひょっとして恋人同士ではないだろうか
私、星野 陽は小さい頃から体を動かすのが得意だった。
朝から夕方まで走り回って、泥だらけになって、怒られて、それでも走って。
小柄な幼馴染の椎名澪を連れて、よく空き地や川原を探検した。
釣りをしたり、山に入ったり、井戸を掘ろうとして親に止められたり。
今思えば、やりすぎだったかもしれない。
ある日、澪がぽつりと言った。
「おままごととか……お人形さん遊びの方が、楽しい」
私は息を飲んだ。
もしかして、無理に付き合わせてたんだろうか。
楽しくなかったのかな、と少し反省して、澪の頭をそっと撫でた。
「おままごとも、お人形遊びも……私、大好きだよ」
そのとき澪が笑った顔は、今でもよく覚えている。
すごく安心したようで、すごく嬉しそうで。
たぶん私はその笑顔が見たくて、これから澪の気持ちをもっと聞こうと思ったんだ。
私たちは、中学に進学し、高校でも同じクラスになった。
そして、白石詩帆に出会った。
本をたくさん読む、静かな子。
でも話してみると、意外と毒舌で面白くて、気を抜くとすぐ詩の一節みたいなことを言ってくる。
私がたまたま図書委員に選ばれていたのもあって、あっという間に仲良くなった。
気づけば、私・澪・詩帆の三人で行動するのが、日常になっていた。
先週の金曜日。
私の家でお泊まり会をした。
その日は両親がいなくて、夜ごはんもピザで済ませたし、
ゲームして、アニメ観て、お菓子食べて、すごくリラックスした時間だった。
最初に盛り上がったのは、なぜか小学生の頃の遊びの話で。
「陽ちゃんって、昔から全力なんだよね」
澪が笑って言った。
「虫捕りしてるときも、なぜか網じゃなくて素手だったもんね」
詩帆も笑う。
「え、そんなこと言う!? ふたりともひどい!」
笑い声が重なって、私はうれしかった。
ふたりと過ごす時間が、心の奥でじんわり広がっていくような気がした。
その夜、布団を三つ並べて寝た。
私が真ん中。自然な流れだった。
けれど――そのとき、ふと、気づいてしまった。
左右の二人。
澪と詩帆の間にある“空気”が、どこか、近すぎる気がした。
わたしが喋ると、ふたりともちゃんと反応してくれる。
笑ってくれるし、話を聞いてくれる。
でも。
ときどき、ふたりが目を合わせる視線に、私の知らない会話がある気がして。
なんだろう、この感じ。
もしかして……ふたりって、私が思ってるより、ずっと仲がいいのかもしれない。
いや、むしろ。
好き同士なのかな、なんて。
ふたりの手が、私の指先にそっと触れてくる。
寝息が混じる距離で、気配があたたかくて、心臓がどくんと跳ねた。
私は目を閉じて、眠ったふりをした。
それでも耳が、呼吸の音を拾って離してくれなかった。
まるで、ふたりの世界に、挟まれてしまったみたいに。
でも、嫌じゃなかった。
むしろ、少しだけ、うらやましい、と思ってしまったのだ。
翌朝、私は何ごともなかったように、ふたりと朝食を食べた。
何ごともなかったように、学校へ向かった。
でも、心のどこかではもうわかっていた。
きっと二人は、私が思っている以上に仲が良いのだ。
あの夜を境に、私の目には澪と詩帆が、すこし違って見え始めていた。