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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺達は親友?

作者: 今宮僕

 約500年前。


ーー絶対に許さない。


ーー私はこの地に住まう村の民を永遠と呪い続ける。


ーー例え祠に奉られようと封印が解かれし時、必ず祟りを行う。


 現代。


 少年の名は堀川ひろき。元気いっぱいの小学四年生。

 そんなひろきには大親友がいる。

 小学一年生からずっと同じクラスの磯野ゆうきだ。

 ひろきとゆうきは2人とも運動神経抜群で性格も明るくクラスの人気者。

 いわゆるガキ大将的ポジションだがイジメはしないので教師や保護者からの評判も良い。

 お互い家も近所で帰り道も一緒だ。

 しかし、その日はイレギュラーな事態が発生した。

 下校中、ひろきとゆうきは田舎の田んぼ道を石蹴りでサッカーのパス連ごっこをしていた。

「ヘイ! マイボール!」

 ひろきはゆうきに石をパスした。

「ヘイ! パス……と見せかけてシュート」

 ゆうきはふざけてひろきに向けて強めに石を蹴った。

 しかし、石は明後日の方向へと飛んでいった。

ーーガシャーンッ。

「あっ! やべっ!」

 茂みの中に石は飛んでいき“何か”にぶつかった。

 二人は茂みの中を恐る恐る確認しに行くと丁度よく、ヨボヨボのお爺さんが腰を抜かしていた。

「お主ら。あの祠を壊してしまったのか」

 ゆうきの蹴った石はちょうど古びた祠の切妻屋根にひびを入れてしまっていた。

「祟られるぞ。お主」

「ハハハッ。そんな馬鹿な」

 ゆうきは笑った。

「こんな洒落怖みたいな話ないでしょ実際」

 ひろきも同調した。

「ほら身体だって何とも……あれっ?」

「なしたん?」

「ない……」

「何が?」

「キ○タマがない!」

「そんな馬鹿な! 竿は? 竿は無事か?!」

「竿も……ない。代わりに……」

「代わりに?」

「割れ目が……ある」

 ひろきとゆうきは互いに目を合わせ滝のように冷や汗を流した。

「えっと……その……胸は……」

 モミモミ。

 ゆうきは胸部に両手を当てがった。

「僅かながらだが……膨らみがある……」

 ゴクリ。二人は生唾を飲み込んだ。そして声を揃えてこう叫んだ。

「「女になってる〜〜!!」」

「祟りじゃあ!」

「お爺さんなんか助かる方法ないの?!」

「丁度ワシの手元にアロンアルファがある……」

 二人はお爺さんからもらった瞬間接着剤で切妻屋根のひびを応急処置的に修繕した。

「どうだ? 元に戻ったか?」

 モミモミ。

「乳がちょっと増えてる」

「うわっ! 髪も伸びてるぞ!」

「逆に怒らせてしまったようじゃな」

「まじかー。どうしよう」

「別に良くないか」

「えっ?」

「俺は例えゆうきが女でも親友だと思ってるぞ」

「ひろと……」

 ゆうきは瞳を潤ませた。

「ひろと……お前……」

「なんだ?」

「チンコちょっと勃ってる……」

「いやこれはなんかお前の髪から女の匂いがしたから……」

「やめろ! 俺をいかがわしい目で見るな!」

「いや。お前の自意識過剰なんじゃねーの? なんでもない時に勃つ事だってあるだろ」

「いやでも口では良い台詞言っときながら俺を見て勃てただろお前!」

「うるせぇな! オカマ野郎!」

「オカマだと。お前こそホモだろ!」

「いや違うね。俺はお前の女の姿に興奮したんであってお前には恋愛感情とかそういったものはない!」

「そうだよな。例え俺が女になっても……というかもう女になってしまったとて親友だよな俺達」

「ちょいと良いか。ここは一つお互いに身体を寄せ付けあって本当に恋愛感情が沸かないかここで試してみるのはどうじゃ? 幸いこの茂みは田んぼ道からは見えないようになっておる」

「そうするべきなのか」

「そうじゃ。ワシが証人となる」

「じゃあ……するか」

「おっ……おう」

「ではまずハグじゃ」

 ひろきとゆうきは互いに目を合わせる。

「いいか……」

 ひろきはゆうきを抱擁しようとする。

「いやちょっと待て!」

「んっ?」

「なんで曰くつきの祠の前で見ず知らずのジジイに見届けられながらお前とハグしなきゃいけないんだよ!」

 ゆうきがキレてひろきはハッとした。

「言われてみれば確かにそうだ。馬鹿馬鹿しい」

「帰ろうぜ」

「そうだな。でもどうしよう」

「ん?」

「この姿を親にどう説明しよう……」

「確かに……」


   ○


 ゆうきはひろきと共に家に帰って母親に事情を説明した。

「そう。あの祠を壊してしまったの……あなたも」

「あなたも?」

「母さんも昔、ゆうきと同じ歳くらいの頃、あの祠にひびを入れてしまったの。当時のお父さんも一緒だったわ」

「そしてどうなったの?」

「お母さんも元々は男だったのよ」

「えぇー!」

「お母さんも最初は戸惑ったけどお父さんの支えもあって女として生きていく事を決意したの……血は争えないわね」

「……」

 しばしの沈黙が流れた。

「……反応に困るな」

「ゆうきママ。ゆうきの理解が追いついてないです」

「女の体に慣れると心の性も一致するわ。学校には上手く伝えておくから明日から女の子として生きていきなさい」

「そんな……」

「これは宿命よ……」

「いやそんな重々しく言われても……」

「大丈夫よ。あなたにもいいパートナーがいるじゃない。男らしいひろきくんが!」

「いやいやいや。俺らはただの親友で」

「あなた達お似合いだと思うわ。衣服とランドセルはお姉ちゃんのお下がりを使いなさい」

 ゆうきは母に言われるがまま別室に連れられ、姉のお下がりに着せ替えられた。

「ううっ……俺の男としての尊厳が奪われていく……」

 ゆうきは嘆いた。

「俺はゆうきママがなんと言おうが親友だと思ってるからな!」

「……ちょっと勃ってる」

「生理現象だ!」

「俺を性的な目で見るなー!ヘンタイ!」

「仕方ないだろ! 可愛いんだから!」

「えっ……」

「あっ……」

 不意に出たひろきの一言にゆうきは咄嗟に赤面してしまった。

「ゆうき……これがいわゆるメス堕ちよ!」

「聞きたくなかった! 母親からそんな言葉聞きたくなかった! 俺は断じてひろきなんかに惚れてないからな!」

「俺だって服装が可愛いと言っただけだ! 俺とゆうきはあくまで親友だ!」


 翌日。

「というわけで家庭の事情で磯野ゆうき君は昨日付けで転校し今日からゆうき君の親戚で同姓同名の磯野ゆうきちゃんが転入してきました」

 クラス一同はふと頭をよぎった。

「(そんな事……ある?)」

「磯野ゆうきです……よろしくお願いします。好きなポケ○ンはガブリ○スです」

「さあ皆ゆうきちゃんに向けて拍手!」

 先生が微妙な雰囲気を察して場を盛り上げた。

 パチパチパチパチ。

「(まあ……いいか)」

 クラスメイト達はゆうきちゃんを受け入れた。

「(よかった……)」

 ゆうきとひろきは内心ほっとし、胸を撫で下ろした。


   ○


 それから六年の月日が経った。

「おーい。ゆうき! 学校行こうぜ」

「うん。今行くー!」

 ひろきとゆうきの二人は高校一年生になっていた。

「おっせーな。相変わらず」

「五月蝿いなぁ。女は支度に時間がかかんだよ」

「知らねえよ。んな事」

「女は大変なんだよ。毎月股から血が出るし、陰キャ男子にはストーカーされるしオラついたヤンキーはしつこくアタックしてくるし。挙げ句の果てには俺を賭けて喧嘩し出すし」

「ハハハッ。あれは笑ったな。中三の時、はやととりゅうたがお前を争って放課後の校舎裏で殴り合ってたの。ゆうきが元男だと知らずにな! アハハッ今思い出しても面白れぇ!」

「はやととりゅうた好きだった女子に嫉妬されて大変だったんだから」

「じゃあおしゃれとか美容気にせず地味キャラ演じてればいいのに」

「それは嫌なの! 元男の性なのか女に舐められるのは気に入らねぇ!」

「それでスカート丈短くして化粧して美容室行くって全然男らしさからかけ離れてるじゃん」

「おふくろが五月蝿いんだよ。スキンケアとかファッションとかに気を遣わないとダメって。ショートヘアも髪が勿体無いからダメだって。夏場はうざいんだよ。ロン毛は」

「まじか。徹底してるな」

「まあそんなこんなで男口調で喋れんのもお前と二人だけの時しかできなくなかった。男子達の会話とか入りたかったなー」

「そういえばお前、女子との着替えとか興奮しないの?」

「最初は気にしてたけど慣れたなー。姉貴とかおふくろの裸見ても何とも思わないのと同じ感覚」

「そっかー。俺はゆうきの姉ちゃん観て興奮するしAVとかも観るしな」

「むぅ〜」

「何だよ気色悪いな」

「ひろき。中一の頃、俺の姉貴に筆下ろしされてたでしょ」

「ゆうき……なぜそれを!?」

「男子グループで童貞捨てた自慢してたの女子グループにも噂で流れてたし」

「まじかよ。イキってたのバレてたの恥ずかしい!」

「親友の姉貴とヤるなんて信じらんない! 不潔!」

「おっお前に内緒にしてたのは悪かったよ。ごめんって」

「別に。もういいよ」

 ひろきは内心戸惑っていた。

 ゆうきの「別にもういい」とは親友として言わなかった事に対する怒りなのか。

 それとも……。

「今日、土曜で模試だけの日だよな」

「ああ。一年の1学期から模試受けてもしゃーないよな。クソ学校が」

「せっかくだからさあ。サボっちゃわね?」

 と、ひろきは問いかけた。

「…………」

 しばし、ゆうきは沈黙した。

「模試はメンドイからサボっても良いけど俺達2人でサボるのは疑われない?」

「いや、いっそ今日でもうはっきりさせない。俺らの関係」

「そうだな。俺達最近微妙な感じだよな。なんか」

「それに俺達はあくまで親友なんだから一緒に学校サボって遊んでもいいだろ」

「そうだよな。じゃあ……行こっか」

 ゆうきはひろきの誘いに乗った。


   ○


 とりあえず隣町のカラオケボックスに入った。

「いぇーい!」

ゆうきははしゃいでいた。

「ゆうきはいいなぁ。女声出るから女の曲思いっきり歌えて」

「逆に男の曲キー高すぎて無理。しんどい」

「何曲か歌って、完全にJKの方のゆうきになったな」

「いや。これはいつもの女子とのノリで……まあ、もう無理して男ぶる必要もないか」

「ちょっと訊いてもいい?」

「うん……」

「ゆうきさ……実は俺の事好きだろ?」

「……正直に言っていい?」

「どっちでも構わないけど、俺はゆうきの本音を知りたい」

「逆にさ……ひろきはさ……正直に私の事どう思ってる?」

ゆうきは不意に肩をこわばらせる。

そんなゆうきの小さな身体をひろきは抱き寄せる。

「俺は、ゆうきの事……好きだよ」

ゆうきは急に目を潤わせ、一筋の涙を流した。

「私も……ひろとが好き」

ゆうきはひろきを抱き返した。

呑気に流れるDAMチャンネルをよそに二人は熱い抱擁を交わし、心を通じ合わせた。


   完

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