本当にやりたいことが出来たので、FIRE卒業します
ない!ない!ない!
俺の虎の子の資産が入っている預金通帳が、どこにもない!
節約志向の俺が最下級の宿屋に泊まらず、ある程度の値段の宿屋に泊まったのも、この預金通帳が万が一取られたら終わるからだった。
共同宿舎は底辺共の巣窟であり少し油断するとすぐ物が盗まれる。預金通帳など置いていたら一瞬だ。
だからこそ信用のおける宿屋に泊まっていたのだが...
帰ってきたらいつものところに預金通帳がなくなっている。
俺が外出中に誰か俺の部屋に入らなかったかと聞くと、宿屋の親父は「ああ、マナさんが来ていたよ。結婚するんだって?おめでとう!あんたに頼まれて物を取りに来たので通しておいたけど...何かまずかったかい?」と言い出した。
マナが来た...?俺は別にマナに何も頼んでいないが...
というよりマナは両親に結婚の説明するから少し待っていて、と俺に行ってここから移動に数日かかる田舎の方に帰っていたのでは?なんで俺の部屋による必要があるのだ?
嫌な予感を感じつつも、俺はマナを待った。
何時間も、何日も待ったがマナは帰ってこなかった。
しびれを切らし、マナの勤め先の酒場に行くともうマナは辞めたという衝撃の事実を伝えられた。
更に、酒場の主人からもっと衝撃の事実を聞いた。
「マナも恋人が片腕を失って介護が大変とか言っていたけど、欠損回復のための依頼料の目途が立ったって言って喜んでいたよ。あんたもマナに入れ込んでいたかもしれないけど、ここは一つオキニ嬢の門出を祝ってやってくれないか?」
マナに恋人がいた?それも片腕を欠損している?
もしかして、アレスのことか?あいつ、アレスと付き合っていたのかよ!というかアレスは魔法使いのリンと付き合ってただろ。二股かけてたのかよ!これだからイケメンは!
四肢欠損の回復魔法は高位司祭の奇跡に頼らなければならず、依頼料は高額だ。
場合によっては依頼料は数千万にもなると聞く。
もしかしてその依頼料の為に、マナは酌婦をやっていた...?
そこに俺はのこのこと鴨ネギとして現れた、ということか?
クソクソクソクソクソ!
ふざけんな!あれは俺が20年間、青春をささげて貯めた俺の命の結晶だぞ?
なんでイケメンの腕を生やすために使われないといけないんだよ!
返せ!俺の金を返せ!
そう叫んでももう遅い。マナから聞いた田舎町にも出向いてみたが当然マナの両親なんてどこにもいなかった。全部ウソだったのだ。
俺の前からマナは姿を消し、二度と現れることはなかった。
そして俺は一文無しになった。