若手イケメン有能冒険者の末路
「そうか...俺が抜けた後、黄昏の暁は崩壊したのか...」
マナと近場の酒場に入り近況を報告しあっていると、俺の古巣のパーティー「黄昏の暁」は既に解散してしまっていた。
「ええ...クリスさんが抜けた後、代わりの戦士の方を採用したのですが連携が不十分なままB級ダンジョンに挑んでしまい...そこでバックアタックを食らって魔法使いだったリンさんがミノタウロスのクリティカルで一撃で死亡。そこからは転げ落ちるように駄目になってしまいました」
アレスの向こう見ずな性格から危ういとは思っていたが、一年も持たずに崩壊するとはな。
やはり冒険者稼業は割に合わない職業だ。
働けど働けど冒険者ギルドや都市にピンハネされて、俺たちの手元には半分しか残らない。
そこから商売道具である武器や防具のメンテナンスや予備の装備。
また、ポーションやエーテルと消耗品も補充しなければならない。
更にはパーティーメンバーの誰かが怪我をしようものなら、ダンジョンに潜れないから稼ぐことすらできない。
死と隣り合わせの危険な働き方。
才能と運があって深階層にコンスタントに潜れるようになればリターンも莫大だが、そのチャンスを掴めるのは一握り。
俺みたいな凡人には、リスクとリターンが見合わない職業だと言えるだろう。
正直五千万貯めるのに20年かかったのも、リスクを取らな過ぎたせいとも言える。
だからこそ、20年間も冒険者をやっていて死ぬことも、致命的なけがを負わずにも済んだと言えるのだが。
話を聞くと、その後リンが死んでから、アレスは新しく入った戦士と揉めてもともと不十分だった連携はさらに悪化。
それでも何回かダンジョンに挑んだようだが、4回目のダンジョンアタックの際、戦士も死亡。
アレスも片腕を無くすという大けがをして冒険者を続けられなくなったそうだ。
「私と言えば、リンさんが目の前で殺されたことやアレスさんが大けがを負ったことが原因でダンジョンに潜ろうとすると動悸が激しくなり、歩けなくなってしまうというダンジョン症を患ってしまいました。どうにかしようと色々と努力したのですが結局引退せざるを得なくなってしまいました。今では場末の酒場で酌婦をやっています」
自嘲しながらそう言うマナの姿を改めてみると、確かに冒険者時代の僧侶の時の楚々とした雰囲気は消え失せ、代わりに水商売特有の擦れた雰囲気をまとった美女になった、という印象を受けた。
「良かったらクリスさんもうちの店に来てくださいね。昔のよしみで安くしますよ?」
胸を強調する服で前かがみになってそういうマナに、俺はごくりと唾をのみながら、「ああ。そのうちいくよ」と答えた。
仲間の苦境は救わないといけないからな。多少の気晴らしにもなるだろうし、今度行ってみるか。