転がり落ちる時
順調だった俺のハイエナ稼業の歯車が狂い始めたのは、リックの相棒だったカミラが死んでからだった。
大した腕もないが目端だけは利くカミラは、出合頭に出会ったキラーバウンドに首元を噛みちぎられ呆気なく死んだ。
死んだ当初は別に問題ないと思っていたのだが、このパーティーのブレーキ役でもあったカミラが死んでから徐々にリックが暴走し始めた。
ハイエナは死んだ冒険者から装備を剥ぎ取ることで生計を立てているのだが、リックは死体だけではなく徐々に死にかけている冒険者にまで手を出し始めた。
ほっておいても早晩死ぬであろう冒険者なら、介錯をした、という苦しいながらの言い訳もできたのだが、リックはどんどん欲を出し、終いには手負いの冒険者を襲う凶悪なハイエナになり下がった。
当然犯罪であり、気づいた時には俺たちはお尋ね者になっていた。
今では犯罪者ギルドの一員として後ろ暗い生活を送っている。
「おうクリス。今度の仕事はでけえ仕事だぜ。なんと参加するだけで10万ゴールド。成功すればなんと100万ゴールドの仕事だ!」
そう言いながら犯罪者ギルド傘下の酒場に入ってきたリックは俺に笑いかけた。
どうやらリックの横にいる男が持ちかけてきた話らしい。
「おや、貴方はクリス様。大ベテランのあなたがこの依頼に参加してくれるのであれば心強い。是非ともお願いしますよ」
顔に笑顔を張り付けながらそう言ってくる男。
昔なら怪しすぎて即断る仕事だが、俺は緩慢にうなずきその仕事に参加した。
もうどうでもよかったのだ。金が入るならそれで。
金さえあれば俺はもう一度FIRE出来るのだ。
もう退屈だとか暇だとか贅沢は言わない。饐えた匂いのするベッドで怯えながら暮らす毎日にはもううんざりなんだ。
そう思って参加した仕事は...ダンジョンの一室を探索する、という奇妙なものだった。
場所は中層階であり、一度通ったこともあるエリアだったので今更何を探索するというのか?
そう思いながら俺たちと同じような食い詰め犯罪者達がぞろぞろとダンジョンに潜りその一室にたどり着いたところで急に扉が閉まった。
その後は悲惨の一言だった。
扉が閉まったことで困惑していた俺たちに得体のしれない触手が襲い掛かり、一人また一人と囚われて悲鳴を上げながら奥の部屋に引きづりこまれていく。
「クリス!助けてくれ!たすけ...」
そう言いながらリックも触手に囚われてしまい奥の部屋へ消えていった。
俺は逃げ惑いながら必死に考えを巡らせた。
一体どこで間違えた?
こんな怪しい依頼にのこのことついてきてしまったところか?
俺の足に触手が巻き付いた。
ハイエナになったところか?
必死になって剣で触手を切り飛ばそうとするも全く歯が立たない。
マナに騙されたところ?
ずるずると奥の部屋に引きづりこまれて行く。
田舎でのスローライフに満足できなかったこと?
五月蠅いと思ったら、俺が今まで出したことのない悲鳴を上げていた。
それとも...FIREを目指した時点で、俺の人生は失敗だったのか?
奥の部屋まで引っ張ってこられた俺が目にしたのは...地獄だった。
そうして俺は...剣聖になった。