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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
虚鬼 ~うろがおに~
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譚ノ八

 それから数日―――この事件について晴明と話をするわけでもなければ、どうなったのか、詳細は聞かないままだった。

 二週間程経って、晴明と紫月の家を訪れた。

 何も変わらず彼女は晴明と志郎を受け入れる。


「伺うのが遅くなってすいませんね。後、うちの弟子もご迷惑をおかけしました」

「何、迷惑というほどのことはなかったよ。なかなかに楽しかったしね」

「それはよかったです。それに、ちゃんと“鬼”に当たりましたし。ま、どういう具合で“鬼”が憑いているのか憑いていないのか感じ取っているのかは知りませんけど」


 と晴明が言えば紫月は妖艶な笑みを浮かべる。


「なぁ、もう少し聞いてもええ?」

「なんだい?」

「何で事件になる前に死んだ人間が俺らの両親やと知ってたん?」

「そりゃぁ煉に調べてもらったからに決まっているじゃないか。ボクは“鬼”を喰う係。煉は事件に関して色々と調べる係。ねー、煉?」


 お茶菓子とお茶を持ってきた煉は何も言わずに頷き、また台所へと引っ込んでいった。


「なぁ……姐さん」

「確かに紫月さんって姐さんって感じですよねー、って何で私はお兄さんとも師匠とも言われないままなんですか」

「そりゃぁ晴明がお兄さんらしくも師匠らしくもないからじゃない? で、何かな。シロ」

「シロでも何でもええわ。俺は、もう少し姐さんと一緒にいたい。“鬼”とか“人”とか理解せんかったら、陰陽師も安倍晴明も理解できへん気ぃする」


 だ、そうだけど? と紫月は目で晴明に伝える。

 確かに引き取ってすぐに、綺羅々の命令のようなものとはいえ一人で出張に出たのも悪かった。

 陰陽師の何たるかをまったく教えなかった晴明自身も悪かったとは思っている。

 だからといって弟子の我儘で紫月の所にいても陰陽術のことを学べるかと言えばそんなわけがない。 陰陽師は特殊だ。

 だからといってスーパーマンでも何でもない。

 まだ、ほんの少しだけ“人”と違う。

 ただそれだけだ。


「その場合は晴明から家賃とか、食費とか、諸々請求するとしよう」

「紫月さん、お金持ちじゃないですか。どれだけぼったくるつもりですか」

「キミの言う、ぼったくられるような行動をする方が悪いに決まっているだろう? 本当にシロをここに住まわせ通いにさせるのならボクから心置きなくぼったくられておきたまえ。義理姉様にもボクから言っておいてあげる。それに料金は一応、良心的だよ」


 彼女の場合、良心的ではなく、ギリギリの所まで金を巻き上げるから性質が悪いのだ。


「立派なぼったくり宣言です。私は反対ですよ。紫月さんがえげつないので」

「理由になってへんし。姐さん。本当の所はどうなん? 俺がここにいてええのかどうか、はっきり答え聞いてへんけど」


 話を振られた紫月はお茶を一飲み。

 そして、にっこりと微笑んだ。

 もうそれはそれは見とれるような表情で。

 良い笑顔なのだから、志郎の意見を通してくれたとみてもいいだろう。

 だが晴明は何故かほっとした表情をしているのを見て志郎は未だ師匠だと認められない彼を睨んだ。

 やがて紫月は口を開く。


「却下」

「うぇえ!? 何でなん!? 今の表情はどう考えたってここにおってええって顔やろ!? ていうか今までの流れで却下とかあり得へんわ!」


 晴明は苦笑しながら志郎の肩を叩く。


「陰陽師どうこう以前に、覚えておいてください。何だかんだ言っておきながら紫月さんが最終的にこういう表情をする時はほとんどの場合、却下ですから」


 納得がいかない。

 何故だと問い詰めれば彼女はどこ吹く風で飄々と


「なんでだろうね~」


 と茶を飲むのだ。

 何だかんだと文句を言いながら、結局、紫月は志郎をここに置くことに関して首を縦に振らなかった。

 晴明に連れられて志郎が帰ってから煉は紫月に問う。

 何故、志郎をここに置かなかったのかと。


「だって。陰陽師としてもう少し勉強していたり、結界張ったり“人ならざるモノ”をある程度退けられたりできるのだったら手伝ってもらうってことも出来るけど、彼はまだ何も学んでないもん。まずはそこからだと思うんだよね。下手して巻き込んで死んじゃったら、せっかくの“鬼才”を失ったってボクが義理姉様に怒られちゃうじゃないか」


 煉は溜息をついて、紫月の前に酒と盃を置く。


「それとも、煉はいて欲しかった?」

「そうだな。俺がいない間のお嬢のお目付け役でも叩き込もうかと思っていたのだがな」


 さして残念という表情をしていないが、残念だと彼は呟く。


「彼が学び、ある程度の力をつけたらいいかな。その方がきっと、効率が良いしボクも楽が出来る。はてさて……何年後、いや何十年後になるだろうね? 数ヵ月でも何か出来るようになったらもっと良いかな」

「珍しく期待をしているのだな。晴明がガキの時は百年後にでも顔を見せにおいで、と言っていたと記憶しているが」


 軽く笑って紫月はお銚子を傾けて盃に酒を注ぐ。

 今回の“鬼”も面白かった。

 このような形で“人”を守りながら“鬼”と対峙するのも久しい。


「今度は、どんな“鬼”が出るやら」


 楽しみである。


「煉。キミもたまには付き合いたまえ」


 整えられた庭を見ながら、紫月と煉は互いに盃を傾けていたのであった。

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