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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
刀鬼 ~けんがおに~
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譚ノ二

 真っ赤だ。

 少しずつ赤黒くなっていくその様子に、嗤った。

 けれど、まだだ、まだ足りない、もっとだ、もっと満たしたい。

 終わってしまえば興味などない。




****




「また電子レンジを使ったね」


 一口、おちょこに口をつけた瞬間ふくれっ面をしながら、紫月は昴をジト目で睨みつける。


「ちょっと前に家の前で倒れていた所を介抱してあげたじゃないか」

「う……すいません」


 少し前のことだった。

 就職活動をしていたのだが、なかなか就職先が決まらなかった。

その苛立たしさを吹き飛ばしたくて、気まぐれで散歩をしていたのだが運が悪いことに降り積もる雪で滑って転倒。

 無様なことに、打ちどころが悪くて意識を失ってしまったのだ。

 怪我もなく、死ななかったことが奇跡である。

 そして、そこを通りかかった紫月に介抱してもらったというわけである。

 その時の話を持ち出されると、確かに自分は恩返しをした方がいいのだ。


「ちょくちょく遊びに来たいし、お礼もしたいって言ったから受け入れたのにさ」


 何度か遊びに来ている内に、彼女が“人”でないことを知った。

 “鬼喰”。

 名の通り、鬼を喰らう者のことである。

 “人”でもなく、“鬼”でもない。

 それが彼女である。

 もっとも、聞けば鬼喰は紫月一人だけではないらしいが。


「ボクへの返礼は、お酒を美味しく温めてボクに提供することだって言ったじゃないか」

「はい。そうでした……」


 分かればよろしい、と紫月は相変わらず、こたつでぬくぬくしている。

 テレビをつけて、と言われて昴はリモコンに手を伸ばし、テレビをつけた。

 速報がやっている。

 内容は―――


「紫月さん……」


 連続殺人事件が、また起きたらしい。

 場所は近所である。

 今しがた発見されたらしい。


「ああ、どうりで表が騒がしいと思ったんだ」

「俺が来る時はまだ発見されてなかったんですね」


 昴は立ち上がる。

 その後ろ姿に、紫月はどこへ行くのかと質問を投げかけた。


「ちょっと、見てきます」

「野次馬なんてやめておきたまえ」


 それに、酒がなくなったら誰が追加を温めに行くのかと。

 心配はそっちかと昴は脱力する。

 近くで事件が起こっているというのに、それよりも酒の方が大事なのか。

 すぐに戻ってくれば問題ないだろう。

 結構な量を紫月に出したのだ。


「とにかく見てきます」

「実際に見に行かなくても速報を見ていればいいじゃないか。行ったって結局、近所の野次馬の寂しいハゲ頭くらいしか見えないよ。ほら、速報を見ていたまえ」


 家の中は血の海だそうだ。

 一家全員、本日未明―――つまり眠っているところを斬殺されていたらしい。

 凶器は見つかっていないが、鋭利な刃物らしい。

 それも相当切れ味が良くて何でも一撫でで骨まで断てるほどの業物。

 犯人像も不明で、未だ目的も掴めていないのだ。


「……手慣れてきているね」


 ポツリと紫月がテレビを見ながら呟き、盃に口につける。

 だがその表情は面白いと言わんばかり。

 昴には、紫月のその感覚が分からない。

 罪のない“人”が殺されているというのに、どこに面白さを感じる所があるのか。

 彼女が“人”ではなく“鬼喰”だからか。


「やっぱり“鬼”ですか……?」

「んー、そこまでは分からないけど。最初は結構、死体に損傷が多かった。それが今では骨を断つことが出来るくらいに一斬りで綺麗に斬り殺してる」


 警察は深夜の施錠を徹底するように住民に呼びかけているようだ。


「昴。今日はもう帰りなよ。暗くなる前に」

「え? でもお酒は……」

「いいからいいから」


 紫月に促され、昴は彼女の家を辞することにした。

 そろそろ野次馬も減り始める頃だろう。

 ブルーシートが張られているだろうが、少しだけ覗いてみよう。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「うん」


 結局、今日も紫月はこたつからほとんど出ることはなかった。

 昴が帰ったことを確認すると、紫月は大きく伸びをして、もう一度唇に笑みを浮かべて呟いた。


「さて。どんな“鬼”が関わっているやら」


 楽しくなりそうだ。

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