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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
生鬼 ~せいのおに~
11/41

譚ノ三

 どうして自分が……

 何度、そう思っただろう

 そして満たしても足りなくて獲物を探して野を彷徨う

 もっと自分を満たしてくれる水が欲しくて、渇きを癒したくて




****




「まったく。お嬢には呆れたものだ」


 出掛けてくるねっ。

 そんな一筆をちゃぶ台の上に置いて、いつの間にか邸を出ていた。

 彼女が早朝に起きてどこかへ行くのは珍しい分類に入る。

 どこに出掛けたのかは長い付き合いの煉も把握できていない。

 恐らく、紫月の義理姉の綺羅々も。

 儀園神社か。

 晴明神社か。

 レイキ会か。

 居酒屋か。

 鞍馬ノ山か。

 いや、足を伸ばして電車に乗って嵐ノ山の方や三千ノ院の方へ行っている可能性もある。

 それとも意外と商店街をふらふらとしているかもしれない。

 紫月はこの邸で引きこもりをしているようにも見えるが、実際の所、出掛けることの方が多い。

 そしてとにかく行動範囲が広く……九割方、彼女の目的は酒だ。

 朝から出掛けているということはまた何かに首を突っ込み、昼間遅くても夕方からはどこかで酒を飲むという流れになっているだろう。

 これまで帰って来なかったということは記憶の限りなかったと思うが、朝方に帰ってくるということもある。

 さて、どうするべきかとは悩まなかった。

 広い邸だ。

 今はまだ涼しい。

 早々に朝ご飯を食べると庭の雑草抜きをして草木を整え、洗濯をし、邸内の掃除。

 買い物……はチラシを見る限り夕方が良いだろう。鰹が安いから、紫月が早めに帰ってきたら炭火で少し炙ってタタキにしよう。

 どうせ飲むだろうから白ご飯はたくさん炊かずに二合ほどで良いだろう。

 藁は少し足を伸ばして鞍馬に棲む天狗に分けてもらい……いや、ご飯と酒が目当てで天狗に邸に来られ、紫月と宴会でもされては困るので違う所で手に入れよう。

 などと考えながら煉は動き出す。

 煉は、家政夫ではない。

 が、やっていることは家政夫である。掃除に洗濯に料理に買い物。庭や邸の手入れなど。だが別に嫌だと思ったことはなかった。

 紫月に拾われなければ、自分は今ここにいないし“人”にも迷惑をかけ続けただろう。

 彼女には恩しかない。


「お嬢にはやはり、携帯を持ってもらった方が良いかもしれんな」


 どこでどうしているのかまで把握をしなくても、何かあった時には連絡を簡単に取れる手段だ。

 昔のように何日もかけて手紙をやり取りしていたのも今は懐かしい。

 もっとも、出掛けている紫月に直接、迅速に届けるためには、レイキ会に所属している鎌鼬に依頼してかなりの苦労と手間を背負わせてしまい、迷惑をかけてしまうのだが。

 色々と考え事をしている間に、邸内の用事は済んでしまった。

 庭には洗い立ての洗濯物が太陽の下、はためいている。


「思った以上に早く終わったな」


 買い物に行くには少々、早い。

 だが買い物に行くついでに今回のことを少し調べてみようと思い立ち、出掛けた。

 近くで救急車のサイレンが鳴る。

 また、誰かが運ばれていくのだろう。

 だがこんな時間に? と煉は疑問を持った。

 確かに太陽は傾きつつあるもののまだ暑いが、熱中症にかかるほどかと聞かれたならばそうではないだろうと思う。

 もっとも、“人”と“人ならざるモノ”で体に違いがあるのだから何とも言えないが。


「少しでもお嬢が何かしら、調べてくれているのならば良いのだがな……」


 商店街に到着すると、さっそく晩御飯用に魚屋で鰹を購入する。

 商店街にはスーパーもあるのだが煉は魚屋や八百屋など昔からある店で食料品を購入することが多い。

 夕方はスーパーが激戦地区になるからということもあるが、煉はあの場所が苦手だった。

 少々高くとも良い品が手に入る昔ながらの店の方がやはり良い。

 儀園神社に棲む龍神なんかは、やれ障子を壊された、畳が酷いことになったという愚痴をよく聞く。

 それだけかと思えば風呂が壊された、部屋が壊された、掃除用具が壊された、我儘を言われて余計な出費が出たなどなど……家計が火の車だとよく嘆いているので、彼の場合はよく特売をしているスーパーをメインにしているようだ。


「お嬢の酒好きのお陰で家計が火の車になりかねないのは、こちらも同じか……」


 一ヶ月の酒の金額を考えると怖い。

 だが煉はそこに関しては計算をしていない。

 紫月曰く


「酒代? それは大丈夫だよっ。食費とは別にちゃんと計算しているし、大昔から酒に関しては余裕を持った予算を組んでいるから心配しないで」


 ということらしいが……。

 恐らく、綺羅々が援助でもしているのだろう。

 もはや動く目的、燃料が酒みたいなものだ。

 綺羅々からも“人”の心には棲み憑かず、位相のズレた山の奥深くで暮らす“鬼”はもちろん“鬼喰”もほとんどが酒豪または酒好きだと聞いたことがあるので、“鬼”や“鬼喰”は一部を除いて総じて酒好きということらしい。

 酒屋でなくなりそうな銘柄の瓶と、その他いくつかの銘柄を購入する。

 端から見ればかなりの荷物だが土蜘蛛の煉には大した重さではない。一人で軽々と持てる範囲だ。

 また一台、商店街を出た大通りを救急車がけたたましいサイレンを鳴らして走り去っていくのを聞きながら煉は邸に戻ったのだった。


「暑い、という感覚はあまりないが……この騒動はいつになったら収まることやら」


 紫月が早く“鬼”を片付けてくれれば、熱中症という騒動も少しは収まっていくだろう。

 季節としてはまだ暑い時期が続くが今のように次から次へと搬送される“人”は減るに違いない。

 もっとも、彼女のやる気次第だが。

 いつになれば動き出すのやら、煉は今頃どこで何をしているのかさっぱり分からない紫月のことを考えながら煉は邸へと戻っていったのだった。

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