双子の密談
「いや、何の用なわけ??」
自室にて次期公爵としての勉強に励んでいた僕ことオリヴァーは、ノックも無しに突然入って来てそのまま僕のベッドにドスっとダイブしたオリヴィアに目もくれずに聞く。
「僕さ、最近悩んでるんだ。」
そういって、こちらの状況などお構いなしにオリヴィアは話を始めた。
「僕、最近思うんだ。もしヴィに僕が女だとバレたら、きっとヴィは今以上に女嫌いになってしまうんじゃないかって…」
オリヴィアは何だか深刻そうで、結局僕は手を止めてオリヴィアの方へ体を向ける。
「何というか…そもそもレヴィ王子って女嫌いなわけ?」
オリヴィアとレヴィは気が合い、2人でよく交流を持っていたのは知っているし、オリヴィアの事を男のオリヴァーである僕だと勘違いしている事も知っている。そして男と思いながらも好意を持っている事も。
「ヴィから直接聞いた訳じゃないけど。この前クラスメイトの令嬢から聞いたんだ。ヴィは小さい頃からたくさんのお茶会やパーティで女の子へ塩対応してたみたい。それに全然婚約者を決めようとはしないし、何ならこの前同性婚を認める法律も施行してた。……それに、これは噂なんだけど…その、王城の図書室で同性同士の恋愛指南書を食い入るように見ていたって噂もあって。だからきっと女嫌いで恋愛対象も男の人だろうって。」
「同性同士の恋愛指南書⁉︎ふ、ふふ。ん、ごほん。あー、まぁなんで同性婚を認める法律を急いで作ったのかは何となく分かるけどね…。」
つい笑ってしまったのを誤魔化しつつ、将来の王ともなる人がこんなので大丈夫なのかと不安にもなる。
「ずっと男友達だと思ってた僕が実は嫌いな女だなんて知ったら、ヴィは傷付くかもしれないよね。それに…僕もヴィから嫌われるのはいやだ。だから絶対に僕が女のオリヴィアだって気付かれたらダメなんだ。」
手で顔を覆いながらこの世の終わりかのようにオリヴィアは嘆いた。
「…正直、女の子でしたって言った方がレヴィ王子も喜ぶと思うけどね。こんな回り道しないですんだだろうし…」
多少レヴィ王子を不憫に思う。
「そんな事ないよ!そこで大問題があるんだ!!」
ここからが話の本筋だと上体を起こし、真剣な眼差しでオリヴィアが僕を見る。
こういう時はたいてい僕にとってロクな話じゃない。
「絶対いやだ!!」
「まだ何も言ってないでしょ⁉︎」
瞬時に僕が拒否すると、間髪入れずにオリヴィアが言い返す。
「お願い!オリヴァーにしか頼めないんだ!今度ヴィが通っている王都学園の成績優秀者がアンゼル地方へ実践勉強に行くらしいんだ。もちろんヴィも最優秀者として行くらしいんだけど、そこで各自一名同行できるらしくて僕が誘われたんだ!」
「へー、あんな王子でも成績は良いんだ。良いじゃん!実践なら馬術や剣術とかでしょ?オリヴィアの得意分野じゃん。」
「うん。本当は僕も行きたいんだけど…問題は1泊するってこと!同行者は招待者と同室らしくて、そこが問題なんだよ!」
「あぁ〜、それじゃ断るしかないんじゃない?…てか王子早速指南書を実践しようとしてんのかよ…」
まぁ王子も年頃の男子って事か…。遠い目をしながらそんな事を考えていると、
「それが…実践勉強会って聞いて面白そうって思って詳しい事聞く前に参加者の誓約書にオリヴァーの名前でサインしちゃったんだ…」
「はあぁぁ???いやいやいや!てか僕のサイン勝手にするのやめて!!」
それいつか騙されて結婚書類なんかにサインしちゃったら僕が王子と結婚しちゃう事になっちゃうじゃん!
同性婚が認められた今、割とあり得そうな自分の戸籍の危機を感じ、
あのクソ王子…と小声でつぶやき拳を握る。
普段あまり怒らない僕の怒りに、オリヴィアも少し焦って謝ってくる。
「ごめん!勝手にサインして…。それで後から泊まりの合宿って聞いて…。もう受理もされて今更変更も難しいみたいなんだ。でも僕が行って万が一バレる訳には行かないでしょ⁉︎お願いオリヴァー!僕の代わりに行って!!」
オリヴィアはお願い!と両手を合わせて僕に頼み込んでくる。
「はぁ。無理だよ。そもそもレヴィ王子はすぐ入れ替わりに気づくし。もっというと来週は父上と領地視察に行く予定だからそもそも居ない。」
「そんなぁ〜〜!!」
オリヴィアはがっくり項垂れてしまったが、僕は気にせず体を机に向け直し、元々していた勉強の続きをし始めた。
きっと今からでも変更は難しくないだろう。なんなら当日の病欠だって出来ないわけはない。
でも僕は言わない。王子ももう17歳。来年には18歳だ。もう婚約者が居て、来年には結婚してもおかしくない年齢だ。現に、今の国王と王妃も18歳に結婚している。いつまでも王子の相手が不在というのも不要な争いを生む可能性があるので早く落ち着いて欲しい。
レヴィは間違いなくオリヴィアが好きだ。そしてオリヴィアもまだちゃんと自覚はしてないがおそらく……。2人が前に進むためには何かしらのアクシデントが必要だろうし、今回の合宿はちょうど良い機会かもしれない。
…あの王子と義理の兄弟になるのは癪だけどな。
そんな事を考えながら、部屋から出ていくオリヴィアをチラッと見る。
うーん。オリヴィアのためにアレだけは用意しておくか…
そうこうして視察のためオリヴァーが父親と共に屋敷を離れる際、オリヴァーはオリヴィアに、
「肌身離さず持っといて。もしどうしても危ないと思ったら中身を使って。」
と言って無理矢理お守りを手渡した。
……
その次の日にオリヴィアはレヴィに迎えに来てもらい、共に実践合宿に出かけたのである。
オリヴィアの母はやけにニコニコして、父様には内緒にしてますからねとオリヴィアとレヴィにウインクし、なぜか顔を赤らめるレヴィを不思議がるオリヴィアだった。