2人の出会い
「ダメだ!今度こそ帰ってこい!!」
「そんな!そこを何とか!あと1年!」
「お前は毎年そればかりだ!もう学園の編入手続きもしておる!今度ばかりは許さん!!」
「そんなぁ〜〜〜」
ここは自然豊かなロレーヌ地方。母方の領地であり、母の兄家族が管理している屋敷に怒声と落胆の声が響く。
「あーあ、やっと年貢の納め時だな、オリヴィア。」
いとこで二つ上のテオがオリヴィアの肩をポンと叩く。
母が娘のオリヴィアと双子の弟オリヴァーを出産したのは今からもう15年も前のこと。
出産後、弟オリヴァーの体調が悪く、父の勧めで母、弟オリヴァー、そしてオリヴィアは、母方の緑豊かな領地で療養をする事になった。
といっても、オリヴィアは何も問題のない、むしろかなり健康的な優良児だったが。
「そんなぁ〜。僕もう馬に乗って森を駆け回ったり、テオと剣術や武術で鍛えあったりもできないんだよ?あんまりだ!」
「娘がそんな風に育ってワシこそあんまりだ!そもそもその僕っ娘はやめなさい!」
どれだけ嘆いても父が間髪入れずに突っ込んでくる。
「そもそもオリヴァーはとっくの昔に体調は安定しておる!今まではお前のわがままを聞いてやっていたんだ!」
そう、オリヴァーはとっくに元気だ。だけどオリヴィアは今の暮らしに大変満足しており、またテオの両親も優しくテオとは兄弟のように育ったため、離れるのがとても辛く断固拒否していた。
「ま、辛くなったらいつでも帰ってこいよ!俺なら男みてーなオリヴィアも嫁にもらってやるさ!」
ニヤリと笑いながらテオはオリヴィアの肩を抱き寄せる。
「はぁ?うるっさいな!テオの世話にはならないもんねー!」
テオの手を即座に振り払いながらオリヴィアはベー!っと舌を出した。
「割と本気なんだけどな…」
テオがポツリとつぶやいたがオリヴィアには聞こえなかった。
そんな光景をその場に居る者全員が微笑ましく思ったのと同時に、オリヴィアが男みたいな女という点は皆心の中で肯定した。
むしろ、双子の弟のオリヴァーは華奢で色白であり、活発で力強いオリヴィアと性別を間違えて産まれてきたのでは?と心配すらした。
そうして帰る準備を超特急でさせられ、とうとう王都にある公爵家へと帰ってきたのである。
公爵家に家族全員がやっと揃ったお祝いに公爵家でパーティが開かれた。
何やらお偉い方も来るようで、オリヴィアは母から大層厳しくドレスを着るように釘をさされたが、ギリギリのところでドレスを脱ぎ捨て動きやすい男性用の服を着て出席した。
オリヴィアの姿を見て両親は、やっぱりな…と天を見つめ、気を取り直してオリヴィアとオリヴァーを引き連れたくさんの人達に挨拶をして回った。
「ねぇオリヴァー、もうつまらないから抜け出さない?」
隣に居るオリヴァーにこそっと言ってみたが、
「姉さん、何言ってんだよ。」
と同じ顔をしたオリヴァーに睨まれてオリヴィアは口を尖らせた。
そんな時、何やらずっと視線を感じそちらを見ると、両親のそばにいる1人の美少年と目が合った。
少年はずっとオリヴィアを食い入るように見続けていた。
(どうしたんだろう?あの子も暇なのかな?)
オリヴィアはその少年の前まで行き、
「ねぇ、君は乗馬は好き?敷地内にちょっとした馬の散歩コースがあるんだけど良ければ僕と一緒にどう?」
オリヴィアは早くお茶会から抜け出したく少年を誘っただけだったのだが、両親は真っ青になって止めようとした。
しかし両親をその少年は制止し、
「ぜひ頼むよ!乗馬は大好きさ。僕はレヴィ。よろしくね、オリヴァー君」
ここで、両親もオリヴァーも、レヴィの勘違いに気づいたのだが、どう指摘して良いのか分からず、というか、そうだよね、間違うよね、と納得しているうちに2人は馬小屋の方へ向かっていってしまった。
ちなみに、オリヴィアはたまにオリヴァーと入れ替わった遊びをしていたので間違われた事を全く気にしていなかった。
これが、オリヴィアとレヴィ第一王子の出会いである。