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再会

 マルセルはレネの聴取が終わるまで第二騎士団の執務室で待機していようと、同僚に声を掛けて控室を使わせてもらった。


 そこで、同僚が魔獣を見せてくれと言うので、ケージから出したのだと言う。


 いつもならケージの施錠をして、その上に魔術で再度ロックをかけるのだが、受付で時間を取ってしまい魔術の施錠を忘れていたことに気づいた。


「あ、そういえばそうでしたね」

 レネは口元に手を当てた。


「すみません、私が急かしたせいですね」

 メルテンスはソニーをもふっていたせいで時間が押したことを素直に詫びた。


 それでもリードはつけて出したのだが、先程の熊の咆哮に驚いて、その時リードを握っていた同僚が手を緩めてしまい、その隙にソニーが逃げた。


 応接室の外では足音が次第に大きくなる。


「おい、そっちに行ったぞ」

「誰か、リードでもいいから掴め!」

「うわっ、何だ、この毛玉は⁈」

「中庭に出たぞ。追え!」


 ざわめきの中に周章が色濃く混じり騒ぎが広がる。


 廊下に出て窓を覗くと、中庭を走り過ぎるソニーを追っていると思しき騎士数人が見えた。


 新たな騒がしさに今度は何だと野次馬も出てきて、騎士団本部が徐々にざわめき出す。


「早く捕まえろ。騎士団本部から魔獣を出すな」

 デルヴォーがマルセルに命じる。


 レネが手を挙げた。


「大丈夫です。リボンに位置情報を示す魔術を施しています」

 ちょっと待ってくださいと、レネは部屋に戻り、鞄を探ってノートを出した。


 書き記した文言を唱えると、大きな青い二等辺三角形が現れて対象の方角に鋭角を向ける。

 そして、廊下の窓をすり抜けて中庭に降りた。


「ありがとう、レネ」

 マルセルは中庭の騎士達に三角を追うように叫び、自身も走り出した。


 これで見失うことはないだろう。


「魔獣を本部に入れたのか?」

 ヴァン・セーヌの声に、レネとメルテンスが肩をぴくりと揺らした。


「すみません。ですが、毒性はほとんどない魔獣ですので。危害を加えるような性質でもありません」

 

 がたがたと大きな物音がして、こっちに入ってきたぞ、と叫ぶ声がする。


 何かが続け様に落ちる音やガラスが割れる音、重い物が倒れる音がした。


「危害は加えなくても、二次被害が出てるな」

 デルヴォーが呟き、レネも二の句が継げなかった。


 これは早急に捕獲しないと被害が更に広がる。怪我人でも出たら大変だ。


 レネはノートをめくり、鞄から並製本ペーパーバックサイズの鏡を出した。


 文言を再び唱えると、鏡面が真っ白になってから赤い矢印が映し出される。


「今度は何だ」

「対象を指し示す魔術です」


 応接室を出ると、矢印が右に向く。体を右に向けると矢印もまっすぐを示す。


 廊下を進んでいると、走り込んできたマルセルと行きあった。

 青い三角を追っていたが、ソニーが壁を登って行ったので迂回してきたのだという。


 鏡追跡も発動したので、これからはこちら主導に探索を続けることにした。


 赤い矢印は上を指し示し、それに従って最上階まできた。


 騎士団本部は五階建てなので、辿り着いた時には息が上がって足の筋肉もぱんぱんになっていた。


 だが、レネ以外は全員平然としていて、はるかに年上の団長二人も公園で散歩でもしているかのように変わらない。


 騎士の基礎体力はどうなっているのだろうかと、レネは自分の運動不足を棚に上げて思った。


「この先は……」

 レネが息を整えて顔を上げると、最上階の廊下は鉄格子があり、その手前に机と椅子にいる隊員は団長が来たので起立して敬礼をした。


「矢印は?」

 ヴァン・セーヌがレネの手元の鏡を覗き込んだ。

 矢印は鉄格子の向こうを指している。


 二人の団長は顔を見合わせた。


 デルヴォーが係に鉄格子を開けるように指示して、レネとマルセル、二人の団長が中に入るとその背後で鉄格子は閉じられて施錠された。


 矢印は一つの部屋の前を指し示して、点滅している。

 そこにソニーがいるということだ。


「このお部屋は?」

 木製のドアの上部には窓があり、そこにも格子が嵌っている。


 ヴァン・セーヌがドアをノックすると、中から聞いたことのある声で返事があった。


 係から預かった鍵で解錠しドアを開けると、前と変わらぬ美貌の騎士がそこにいた。


「リュシアン様!」

「レネ、マルセル……どうしてここに?」


 そして、リュシアンの肩にいたソニーがレネに飛んできて、頬や首に鼻面を擦り付ける。


 リュシアンはソニーの首根っこを摘んでレネから引き離し、放り投げるようにしてマルセルに預けた。


「レネ」

 それからいきなり抱き締めてきた。


 美貌が先行するが、リュシアンも騎士である。背もマルセルと同じくらいあり、そして腕の太さも力強さもやはり男性だった。


 でも、無事でいた。

 頬に伝わる体温にほっとして、レネも彼の体に腕を回した。


「レネ、こんなところで会えるなんて思わなかった」

 リュシアンは腕を緩めて、レネを見る。


 青い瞳が少しだけ揺れて見えた。

 長い指がレネの頬に触れて、そっと包み込む。


「リュシアン様、ご無事で何よりです。お怪我の具合はどうですか?」

「お陰様で傷は塞がったよ。もう大丈夫だ」


 それを聞いて一安心した。

 間近にあるので顔色を伺いみたが、色艶もいい。


「あ、そうだ。ちょっと失礼します」

 リュシアンの顔の前に手を翳し、文言を唱える。


 顔の大きさの分だけ四角い歪みが生じて目盛りが浮かび上がる。

 肌の水分量を測定する魔術だ。


「以前とあまり変化はありませんね。化粧水とボディクリームをちゃんと使ってくださってるんですね」

 別れる前に『第二の水』と試作品のボディクリームを無理矢理持たせた。


 体調に変化があれば数値も変わるだろうが、療養していた時とあまり変わっていない。継続的にその二つを使用する余裕があって尚且つ体調もいいということだ。


 ぶふっと噴き出すのが聞こえた。

 それを皮切りにマルセルと団長達は仰け反って笑い出した。


「感動の再会で、肌水分の測定か」

「スミュール程の男がこうもあしらわれるとはなあ」

「美貌も形なしだな」

 マルセル、ヴァン・セーヌとデルヴォーは言うだけ言うとまた笑い出した。


 理由を説明しようとした時だった。


 ドアが開き、男性が入ってきた。


 背が高く、焦茶色の髪はもみあげとこめかみに線のように白髪がある五十代くらいの男性だった。


「何やら騒がしいので様子を見にきたのだが、君達がその様子だと解決したのかな?」


 大型の弦楽器のように低くそれでいて落ち着いた声音だった。


 レネの胸の奥がとくんと不規則に躍った。

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