葬送の夢
なんと二年前の産物
こりゃ私が死ぬのと、国家が亡をみるのと、確実性に変りは無いな。
伊藤さんは――法は有機物だと云った。変容に沿って姿を適合させる必要がある。これは彼の前提であるのだ。恐らくシュタインだかがそう云っていた。人体が然うであるやうに…
だが取り換えて変容さすと言って悪いものばかり続々と身に入れてゆけばのちは分かり切っている。機構を急激に変えたって拒否反応の起こって自滅を生ずるのみだ。あぁ人間で云うと、死なのだな。機能不全なのだな。こりゃ葬送だ。紛れない通夜の訪れだ。奴ら一人で勝手に斃るはいいが、ただお上が、御上だけが気の毒だ…
―宜く朕が意を体して克く其の力を致し―――…
―卿、…朕が躬を匡輔し――………
畏くも意を奉り、退下申上げた日が眼前に鮮々と描き出された。ああやめようと思った。
否辞さねばならぬ、申し訳立たぬと思った。私はお上があの日に下すった御期待の役割すら十分果たせなくなっていたのだ。私の身体は機関的にも機構的にも個人身体的にも最早機能不全だ。私の死ぬ時は、アア法律と合葬されるのだろうか?
乾いた笑いすら出ぬ悪夢だ。
老人の戯言で済めば誠に宜しいものだが。
あぁ走馬燈が私にも見える。此頃よく見るようになった。何度も何度も死にかけているからかなあ。
あれは明治――確か…年…
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「やはり今には、政党の力を藉るに他無い。他日どうしても政党が必要となる。
…で私は寧ろ先頭に立ちこれを率ゐ善化に努め――」
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「あぁやっと天下が常道に軌しました、閣下――」
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「これは一時的な応急手段だ。…未だ早い」
「完成とは言えぬが―」
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「政治に抑々完成など無いよ。数千年チョットじゃあ固まらないさ」
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「貴方が気の毒で/\なりません――.」
―――目を開けた。其のままぽつりと反芻。
…私が気の毒――
「一番お気の毒なのは、上様じゃないか―…」
死ぬ私は気楽とも言えぬが背負わずして死ぬ。お上はまだお若いのだ、私の何倍も何十年もお悩みになるだろう―御聡明故に誰よりも思案なさる――
私の本日の不眠など決まったものだ。とうに知れている。
―然しお上は、お若い、お若い身体を、何度も悪夢に削られねばならない。
臣下として、それだけはいけない、申し訳が無い―
ああその申し訳無さで、私は、遺りの身を削って終うのだ。是れは、本望か知らん。