1,Let's go to 石増村!
「やって来ました石増村!」
俺は田舎の新鮮な空気をはちきれるほど肺に送ってからそう言った
最近はずっと都会暮らしで、羽休めにはこれぐらいの田舎がちょうどいいのだ
これは村の友人から電話がかかってきて数日後、そして場所は石増村という都会から離れたThe田舎といわんばかりの村である
あの電話はなぜか途中で唐突に切れ、その後も連絡がつかないもんだから滅茶苦茶に心配した
本当は次の日にでもこの村に来る予定だったが、いざ出発しようとしたときに当の本人から
「スマン、充電が切れてた。あの後普通に電車で逃げて、友達の家に泊めてもらってるから心配しなくてもいいぞ」
とか連絡してきたもんだからじゃあゆっくりでいいかなと思った次第である
今回の目的としては、村人たちの崇めてる“あの方”とやらがどこのどいつか確かめる、というものである
都会からわざわざ電車で1時間かけてやってきたんだから収穫ぐらいは欲しい
まあ羽休めもかねてるので収穫がなくてもそんなに痛手ではないがな!ワハ。
さて。ここから村まではそこそこ距離がある。ざっと1㎞くらいだろうか?
「うあああ、遠いいぃぃぃ…」
これぐらいで遠いとかほざくなって?
馬鹿言うな、こっちはどこに行くにしても便利な移動手段のある都会で暮らしてんだぞ!
分かる!?ト・カ・イなの!
「はぁ…」
歩きますよ、歩けばいいんでしょ!
炎天下のもと、歩くこと40分。(泊まるつまりだから大荷物なんだよね、だから歩くの遅いってこと。)
看板が見えてきた。
{ 増村へよ こ !}
驚くぐらいボロボロだった……
たぶん若い人とか都会に移り住んでいったんだろうなぁ
看板から目を離し、村を見渡してみる
家がちらほら見える。ちなみに全て木造建築である
あといくつかの家は明らかに外出中なのに玄関のカギとか窓のカギとかしまっている様子はない
(戸締りしないのか……)
これは田舎だからこそだろう
家の戸締りをしないとか都会じゃ考えられない所業である
見渡してたら案内マップらしきものを見つけた。正直、看板がアレなので期待はできないが。
自分から染み出す汗に顔をしかめつつ、案内マップを見ようと足を一歩踏み出したとき、足音が複数聞こえてきた
「「「「「「ようこそいらっしゃいました」」」」」」
人数は5~6人だろう村の人たちが話しかけてきた
真ん中の気弱そうなおっちゃんが代表して話をするようだ
「こんな辺境の村までよく来てくれました」
そしてこの満面の笑みである。光った白い歯がまぶしいね
「ああ、はい、ご丁寧にありがとうございます」
むぅ。話すときにどもる癖は直さないとな
「私ども一同、あなた様を歓迎致します」
いやぁ、本当にいい人たちだなぁ。こんな急にきた人を歓迎してくれるなんて
「今日は村人全員でお祝いしたいと思って、バーベキューを用意しております。どうぞ楽しみにしておいてください」
え、なんだって!バーベキュー!?
都会じゃ外でバーベキューなんてなかなかできないからなぁ、俄然、楽しみになってきた
まるで事前に打ち合わせをしていたかのような用意の周到さには舌を巻くな
いい人たちすぎる。ホントにヤバげな宗教とか蔓延ってんのか?
…だから、だろうか?
「おかしいなぁ」
と思わずそう呟いてしまったのは
それが聞こえてしまったのか、さっきまで話していた男が一瞬焦った表情を見せて
「それは…今日ここに来るというのを知られていたのがおかしいということでしょうか?」
と言った
ん?
んん?
あ、なるほど!それは確かにおかしいな
「…そうですね」
ここはそういうことにしておこう
「それはですね、あなた村人に知り合いがいるらしいですね、どうせなら歓迎をしようとそやつが計画を持ち掛けてきたんですよ」
ふむ。なるほど?あいつが俺のことを話したのか…
ま、それならおかしくはないか
「仕事があるとかで都会の方に行っちゃったんですがね」
うん、なんらおかしいところはないね、杞憂だったみたい
俺が謝ろうと口を開きかけると
「ああ、それでこのあとどうしますか?一応夜まで時間はありますが」
男は汗を滴らせながらやたらと下手に出る
…というか汗かきすぎかな?そんなに汗が出るほど暑いかな?
特に今は風が気持ちいいところなのに
「取り敢えずお店とかあります?歓迎してくださるのならこちらからもお礼がしたいので。」
うーん、我ながら変な理屈
「お店、ですか?一応、ありますがなにせ辺鄙な村なもんですからお探しの物が見つかるとは思えませんが…」
いったい、このおっちゃんは俺になにを買わせるつもりなのだろうか?まさか高いお酒とか?都会暮らしだから金持ってるんだろって?恐ろしや。
「いえ、大層な物は買えないので期待はしないで欲しいのですが…?」
なんとか絞り出す
これでバーベキューなしとか言われたら泣き崩れる自信がある
「いえ、すみません、そういう意図はなかったのですが」
なんだ、良かった、肉が食べれそうで
「まあお礼は考えておきますので」
だから許してください何でも許してくd
「いえ、そんな、全然、お礼とか気にしなくても大丈夫ですので。」
や っ た ぜ
「じゃあお言葉に甘えて」
「え?」
残念だったな、俺の辞書に【しゃこうじれい】
の文字はない!!
なんか、どこか微妙に不服そうな男が恨みがましく俺をみて言った。
「…ではその荷物を置く場所でも探しますか?」
うん?
ああ
なるほど、肩とか腕とか至る所が痛いのはこれのせいか
でも
「ああ、いえ、店には行きますのでお構いなく。あと今日はテントに泊まるので。野宿好きなので」
今度は俺が汗をかく番だった




