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魔法使いと禁忌の子  作者: 禄星命
第一章 イルミス国編
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15話 秘密めく麗人 (中編)

「えっとね、果物が入ってる甘いもの――この子と一緒に食べられそうなものが良いな」


 するとリベラはポシェットからネーヴェを取り出し、テーブルへ乗せる。ネーヴェは周囲をきょろきょろと見渡すと、やがてテーブルクロスと戯れ始めた。その様子をひと目見たロアは両手で口を覆い、驚喜の声を上げる。


「うわっ――やだ、すっごいカワイイ……! お店で見た時からずっと気になってたけど、まさかここまでの破壊力だなんて! ああ……このちっちゃいお手手が堪らないわ!」


 ロアが徐にテーブルに手を伸ばすと、ネーヴェは手の平によじ登る。するとロアは、一層身悶えた。そうして暫くネーヴェを撫でると、ロアは満足気に頷く。


「リベラちゃん、触らせてくれてありがとね。お礼にネーヴェちゃんも喜ぶような、とっておきのお菓子を持ってくるわ!」


 そう言うとロアはネーヴェをテーブル上に降ろし、パタパタとキッチンへ向かう。リベラはそんな彼に微笑むと、サフィラスの耳元に顔を近づける。


「ね? 悪い人じゃなかったでしょ?」

「……そうだね。現時点では、ただの()()()()()()()()だ」

「サフィラスはまだ疑ってるの?」

「リベラは何故、それほどまでにヒトを信じ込むんだい?」


 サフィラスが問うと、リベラはきょとんとした声で返す。


「えっと……本当に悪い人なんて、いないと思ってるから」


 その答えに、サフィラスは冷たく問いを重ねる。


「先は悪人二人に誘拐された。そして森では、兵士らから惨たる仕打ちを受けた。それでも、その思考は不変だと?」

「うん。たしかに怖かったけど、それでも……そんな事をするのは、何か理由があるからだと思うの。だから私は、あの人たちを責めたりはしないんだ」

「……私には、理解し難いな」


 迷いのないリベラの瞳に、サフィラスは視線を逸らす。


『――いくら性善説を唱えようと、被害者を救うことは不可能だというのに』



 サフィラスが口を噤んでいると、一際明るいロアの声が飛んでくる。


「お待たせー! 自信作のフレーバーティーが完成したわ!」


 ロアはトレーに乗せた大皿とカップ三客、そして小皿とティーポットやミルクピッチャーを、一つひとつテーブル上に置いていく。大皿には卵型のカラフルなお菓子が盛られており、ネーヴェも興味津々と鼻を動かした。その様子を一瞥すると、ロアはサフィラスたちに飲み物を注いでいく。


「はい、どうぞ。お砂糖やミルクが必要なら、遠慮なく言って頂戴ね」

「わあ……いい匂い! それにこのお花も、とっても綺麗! これ、ロアが育てたの?」


 差し出されたカップには桃色の花弁が一片漂っており、ロアはリベラの向かいに座ると得意気に語る。


「ええ、そうよ。ちなみにソレ、アタシが丹精込めて育てた食用花だから、良かったら紅茶と一緒に食べてみて? ちょっとした面白いことが起きるから」

「うん。えっと……ロアはお花屋さんなの?」

「いいえ、アタシは“ティーデザイナー”っていうお仕事をしているの。お客さんと一対一で向き合いながら、その人好みのフレーバーを調合するんだけど、お花はそのサービスの一環なのよ。だから、リベラちゃんにも喜んでもらえて嬉しいわ」

「えへへ……」


 リベラは照れ笑いをし、カップに口を付ける。すると今度はサフィラスが、ロアへ疑問を投げ掛ける。


「察するに、キミはこの国の住人なのだろう? ならば尋ねたいのだけれど、此処は先のような存在を、黙認するような地なのかい?」

「……ええ、恐らく。住んでまだ二年目だから、確信を持って言えないけど」

「成程。では、次いでキミ自身について尋ねたい。街中で特段周囲から視線を集めなかったのは何故だい? その徽章(きしょう)を着ける程著名であれば、ヒトに呼び止められる可能性は大いにある筈だ」


 胸元に輝く金の証を指されたロアは、目を開くと「驚いたわ」と声を漏らす。


「ああ――それはね、お客さんに予め説明しているの。いたずらに絡んでくる人の依頼は受けませんって」

「今までに警告を無視した者は?」

「勿論いたわ。アタシのプライベートを嗅ぎ回ったり、嫌がらせをしてきたりね。熱心なファンのフリをして、ドタキャンや理不尽なクレームをつけてくる人もいたわ。でもそういう人とはもう、一切関係を絶ったの」


 するとロアはカーディガンの内側から、小さな円柱を取り出す。


「この中には、過去取引をした顧客の情報が入っているの。契約を交わすときに、許可を取ってその人の顔と指紋を撮らせてもらっててね。だから街中で、万が一トラブルが起きても安心ってワケ。そして後に残るのは、アタシに無関心な人だけ。時間はかかっちゃったけど、その甲斐あって、今はとっても快適よ」

「成程……やはり自身の居場所を確保するのは、生きていく上で避けては通れないという訳だ」

「そうね。人はひとりでは生きていけない。だからこそ、心身共に越えちゃいけないラインを引くの。動物にだって、群れの中にルールがあるでしょ? それと同じよ」


 するとサフィラスは、ロアを見据える。


「確かに、キミの言う通りだ。 ――その均衡を崩した結果、ヒトは幾つもの生命を絶滅させてきたのだから」

「っ、それは――」

「観賞用、装飾具、食料……果ては快楽を貪る為に、数多の生命を手に掛けた。せめてもの()()と、自身が嬲った個体をそのまま野に放つヒトもいるらしいね。そんなもの、直ぐに息絶えてしまうというのに」

「サフィラスちゃん……」

「果ては、その様に良心を痛めたヒトが――諸悪の根源であるヒトが、この世界に棲む全ての生命を管理しようとするだなんてね。不合理極まりないとは思わないかい?」


 そっと、リベラがサフィラスの手に触れる。するとサフィラスは、仮面を着け立ち上がった。


「……すまない。少々離席させてもらうよ」

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