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魔法使いと禁忌の子  作者: 禄星命
序章 檻杜編
10/24

10話 悪魔と薬莢 (後編)

 少年は一人、朝焼けに目を覚ます。そして大きく腕を伸ばすと、きょろきょろと周囲を見渡した。


「あれ……オレ、こんなとこで何やってたんだっけ……?」


 思い出そうとすると激しい頭痛に襲われ、その不快感に少年は、大人しく村へ戻ることにした。



 やがて村に辿りついた少年は、手を取り合い田畑を耕す人々に頬を抓る。


『夢じゃない……一体どうなってるんだ?』


 荒れ果てていた(うね)からは、青々とした葉が所狭しと顔を出しており、子供達は泥に塗れながら、嬉々としてそれを引き抜いている。大人達はその様子を見守りながら、時折助言を行っていた。そして傍らには山盛りの籠が置かれており、少年は訝しむ。


『こんなに豊かだったか……? いや、違う。食いもんなんて、奪い合うくらい少なかったはずだ。 ……オレ、もしかしたら違う村に来ちまったのか?』

「お、ようやく戻ってきたのか」

「っ、誰だ!?」


 少年が慌てて振り返ると、背後には(くわ)を持った男が立っていた。


「アンタは――」

「随分と他人行儀じゃねえか、スウェル。それに何だ?その警戒心丸出しの構えは。どっかで頭でもぶつけたか?」


 男はケラケラと笑うと、背負っている籠から大振りの野菜を二本取り出す。


「ほら、お前さんとカノハさんの分。“良いメニューが浮かんだ”って張り切ってたから、さっさと帰って顔を見せてやんな」

「……分かった。()()()()()()()()

「おう! 良いってことよ!」


 少年は会釈をすると、足早にその場を立ち去る。


『アイツ――まるで人が変わったみたいだ。どうして平気な顔して、俺に話しかけてきたんだ? 今まで散々、オレと母さんに嫌がらせをしてきたくせに』


 底知れぬ恐怖に冷や汗をかいていると、突如正面から抱き留められる。


「わっ!?」

「お帰りなさい、スウェル!」

「か、母さん!?」

「ええ。正真正銘、あなたのお母さんのカノハよ。 ……お母さんの顔、忘れちゃった?」

「いや、えっと――」


 母親の顔を見つめていると、次第に記憶が曖昧になっていく。焦燥感に駆られて俯くと、膝に白いハンカチが結ばれているのが見えた。


『……オレは昨日、どうして村の外へ? 何か、誰か大切な人を忘れて――』

「ふふっ、“もっと遠くから篝火(かがりび)を見るんだ!”なんて言って、村を飛び出しちゃった時には驚いたわ。お祭りが、よっぽど楽しかったのね」


 顔を上げると、母親が悪戯っぽく笑っていた。少年は目を見開くが、次の瞬間には表情を綻ばせる。


「――ああ! まさか、そのまま洞穴で寝るとは思わなかったぜ!」

「まったくもう、誰に似たのかしら。 ――さあ! 冷めないうちに、朝ごはんを食べるわよ。今日は普段と違う料理に挑戦したから、後で感想を聞かせてね?」

「やった! 楽しみだぜ!」


 少年は母親の手を握ると、浮足立ちながら自宅を目指す。其処(そこ)にはもう、ただ平和な日常が在るばかりだった。



 一方二人は獣道を辿りながら、次の目的地へと歩みを進めていた。サフィラスが道中にて事の顛末(てんまつ)を伝えた結果、リベラは(うな)垂れてしまう。


「……そっか。私たち、忘れられちゃったんだ」


 サフィラスが村に掛けた術は、“痩せこけた大地を肥沃にし、荒んだ人々の心を矯正する。その代償として、二人と出逢った記憶の一切を奪う”というものだった。


「すまない。事態を収束させるには、他に手段が無かったんだ」

「ううん、大丈夫。また会った時に、もう一度お友達になってみせるんだから!」


 気丈に振る舞うリベラだったが、その足取りは重い。するとサフィラスは腰に提げた剣を抜き、自身の髪先を切り落とした。


「えっ!?」


 唖然とするリベラをお構いなしに、サフィラスは言葉を紡ぐ。


「――Noemok(来たれ).Naidraug(守護の),Tsaeb(獣よ)


 すると手中に残された毛髪は、渦を巻きながら形をとり始め、やがて白い毛玉のような物へと変化した。毛玉はモゾモゾと動くと、毛繕いの仕草を見せる。サフィラスはその様子を暫し観察した後、リベラへと手渡した。


「これを。森の友人には及ばないけれど、幾らかの慰めにはなってくれるだろう」

「わあっ……!」


 大きな黒い瞳に、丸みを帯びた耳。そして背中には一筋の灰色の模様がある毛玉は、小さな両手を動かしてリベラの裾を掴んだ。その光景がマリーの面影と重なったリベラは、片手でポシェットの中を探る。


「――あった! ねえ、これ食べる?」


 毛玉は木の実を受け取ると、早速殻を齧って割り、美味しそうに中身を食べ始めた。


「サフィラス、この子なんて言う名前なの?」

「特に無いよ。好きに名付けると良い」

「うーん……じゃあ、“ネーヴェ”。 雪みたいに真っ白だから、ネーヴェって呼ぶね!」


 ふわふわと柔らかい毛を優しく撫でると、リベラはネーヴェをポシェットへと誘導する。


「サフィラス、早く次のところへ行こう? この子が疲れちゃう前に!」


 すっかり調子を取り戻したリベラに手を引かれながら、サフィラスは再び歩を進めた。

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