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ゼルシェン大陸編

異種の神力

作者: 貴神

今回は、異種の「神力」についての御話です☆


神力や羽根についても、少し理解して貰えたら、幸いです☆

積もった雪が午後の日差しに一旦溶け始めると、雲間から澄んだ冬空が覗いていた。


東部と南部の境界線の上に建つ太陽たいようの館では、暖炉の火で暖められた執務室で、


夏風なつかぜの貴婦人とらんの貴婦人が黙々と机に向かっていた。


翡翠ひすいの館の只の居候のきんの貴公子とは違い、


蘭の貴婦人は夏風の貴婦人の補佐として実に役に立っていた。


山済みの書類に目を通し乍ら、それなりのスピードで処理している。


だが。


「ああ~~!! ムカついて仕方ないぃぃ!!」


蘭の貴婦人は、ばん!! と机を叩く。


夏風の貴婦人は紅茶を飲み乍ら、横目に蘭の貴婦人を見る。


「あのみずの貴婦人、何なのよ?! あんな高慢ちきな人、初めてだわ!!」


思い出して火が点いたのか、蘭の貴婦人は丸い桃色の目を吊り上げる。


「何で主は、あんな女が好きなのおぉっ?!」


きぃ~~っ!! と声を荒げる。


「・・・・・」


夏風の貴婦人は答える様子もなく、また黙々と書類をめくり始める。


だが蘭の貴婦人は更に加速して怒りを捲くし立てる。


「私ね、私ね!! 此処に来て同族と出逢えて良かったと思っているわ!!


知り合う同族とは、もっともっと仲良く遣っていきたいと思ってる!! でもね、でもね・・・・」


蘭の貴婦人は、ぎりぎりと歯軋りすると、


「水の貴婦人だけは好きになれないわーっ!!」


立ち上がって地団駄を踏み始める。


そんな蘭の貴婦人に夏風の貴婦人は、


「年上は敬いなさい」


ぼそりと言う。


しかし。


「い、やっ!!」


蘭の貴婦人は、いーっと歯を剥き出す。


「長寿だから何?! 力で云ったら、夏風の貴婦人の方が上でしょっ?!」


水の貴婦人こそ夏風の貴婦人を敬うべきだわっ!!


拳を握り締める蘭の貴婦人に、だが夏風の貴婦人は虚空を見詰めると、


「さぁ・・・・どうかしらねぇ」


事もあろうか、そんな事を言ったではないか。


「えっ?!」


蘭の貴婦人が思わず目を白黒させていると、夏風の貴婦人は筆を鼻の上に置き乍ら揺らして言う。


「私は力の連動をしているけれど、神力だけで云ったら、水の貴婦人の方が上かも知れない」


ま、実際、遣り合った事ないから判らないけどね。


さらりと言ってのける夏風の貴婦人に、蘭の貴婦人は開いた口が塞がらなかった。


だが何とか唇を動かすと、嗚咽を漏らす様に呟く。


「確かに・・・・只者ではないオーラは放っていたけれど・・・・」


夏風の貴婦人より神力が強いなど・・・・もしかしたら水の貴婦人は、同族一、


神力の強い女なのだろうか??


だとしたら赤の貴婦人と一騒動起きそうになった時の、あの余裕の笑みも判る気がする・・・・。


「うう・・・・何か悔しい」


背もすらりと高く妖艶なまでの美しさ。


それでいて外国語も流暢で顔も広い。


其の上、狙った交渉事は必ず成功させて帰って来る、非の打ち所の無い完璧な才女で在る。


少なくとも蘭の貴婦人が水の貴婦人に勝てる部分など、何一つ無いであろう。


「互角なのは・・・・身長だけなのね・・・・だから主は、


私に見向きもしてくれないのかしら??」


むむう。


翡翠の貴公子は実は才女好きなのか??


「もっと力を磨いて、少しでも彼好みの女を目指そうと思っていたのに、


神力も強いだなんて・・・・ああああっ!! 世の中、不公平過ぎるわっ!!」


どう足掻いても、水の貴婦人に敵うとは思えない。


蘭の貴婦人は頭を抱えて一人で百面相をしていたが、ふと先ほど引っ掛かった事を思い出した。


「そう云えば、さっき、何とかの連動とか言わなかった??」


「ん??」


夏風の貴婦人は紅茶を飲み干すと、


「力の連動でしょう??」


背伸びをして立ち上がる。


そして、


「見たい??」


と言った。


蘭の貴婦人は大きく頷いた。


すると、


「んじゃ。ちょっと気分転換に行きますか」


夏風の貴婦人は外套を持って来ると羽織った。









蘭の貴婦人は意味も判らない儘、夏風の貴婦人と同様に馬に跨っていた。


「ひいぃぃ!! さ、寒いぃぃ!!」


ぶるぶると蘭の貴婦人は首をすぼめ乍ら手綱を握ると、夏風の貴婦人の後を追って馬を走らせる。


街外れの森の直ぐ傍に立つ翡翠の館と違い、太陽の館は東部と南部の境の街中に在る為、


夏風の貴婦人たちは窓辺から翼で飛んで行くと云う事が出来なかった。


其の為、羽根を伸ばしに行く際は、馬で街外れまで行かなくてはならないのだ。


二人は街から大分離れた岩山まで馬を走らせると、人気が無い事を確認して馬を下りた。


夏風の貴婦人は岩を品定めする様に歩くと、


「うん。此れがいいわね」


四メートルは在りそうな岩を見上げる。


「何するの??」


蘭の貴婦人は目を瞬かせている。


「いいから見てて」


夏風の貴婦人は呼吸を整え、両肘を引くと、掛け声と共に、思いきり右拳で岩を殴り付けた。


ガッッ!!


其の様子を見た蘭の貴婦人は、驚愕の余り「きゃああ!!」と悲鳴を上げる。


だが夏風の貴婦人が拳を当てた部分に丸く亀裂が入ると、其の部分から岩がパラパラと崩れる。


「い、痛くないのぉ??」


目を覆う蘭の貴婦人に、夏風の貴婦人は平気と云う様に掌に拳をぶつける。


「ま、人間の力で出来るのは此処までね」


「??」


「じゃあ、次。力の連動で遣るから、見てて」


夏風の貴婦人は再度、呼吸を整えて腕を引くと、


「セヤッ!!」


掛け声と共に、もう一度、拳で岩を殴った。


すると。


ドンッ!!


と云う爆発音が鳴ったかと思うと、目を覆う様な発光と凄まじい風圧が起こった。


「!!」


蘭の貴婦人は咄嗟に顔を両手で覆ったが、風圧に押し倒されない様、


立っているのがやっとであった。


そして漸く蘭の貴婦人が目を開けてみると、其処に在った筈の巨大な岩が跡形も無くなっていた。


「・・・・えええっ?!」


蘭の貴婦人は何が起こったのか判らなくて大声を上げる。


岩は文字通り、こっぱ微塵である。


夏風の貴婦人は腰に手を当てると、


「此れが力の連動」


にぃ、と口の端で笑った。


「人間の持つ力が限界に達した時、神力が連動して、こんな作用が起こるの。


勿論、或る程度、神力が使える場合だけどね」


「そ・・・そうなのね!!」


咽喉をひくひくさせ乍ら頷く蘭の貴婦人に、夏風の貴婦人は更に続けて言う。


「体力的に鍛えた結果の末、力の連動が起こる様になるんだけど、此れ、


コントロールする方が難しいのよ」


「コントロール??」


「連動が始まると、ちょっとした事でも爆発的な力が起こる様になっちゃってね、


其のコントロールが出来なくて、軍隊生活にピリオドを打ったのよ」


「へ・・・へえ~~」


「大変なのよ。剣一振りで起こるんだから、たまったもんじゃないわ」


「そ、そうなの?!」


今でこそ完璧にコントロール出来る様になって、闘技会などに出られると云うものだが、


始めは其のコントロールの仕方に苦戦の繰り返しだったと、夏風の貴婦人は言った。


そうなると力の連動が起きていない蘭の貴婦人は、まだまだ修行が足りないと云う事になる。


「むむう。私、もっと頑張って体鍛えようっと!!」


目指せ、強い女!! である。


俄然、遣る気を出した蘭の貴婦人だったが、ふと彼女は或る事に気が付いた。


「え?? じゃあ、主も、其の力の連動になってるの??」


昔、夏風の貴婦人と翡翠の貴公子が共に軍人生活を送っていた事は、


同族の間では周知の事実だった。


夏風の貴婦人は当然だと云う様に頷いた。


「私たち丁度、同じ時期に力の連動が始まってね、だから軍人生活を辞めたのよ」


ぼろ勝ちしちゃうからねぇ。


「他にも連動が起きている同族って居るの??」


「居るわよ。白銀はくぎんの貴公子に、漆黒しっこくの貴公子ね。


あかの兄妹は聞いてないから知らないけど、してるんじゃないかしらね??」


「成る程~~・・・・」


あのマッチョなあかの貴公子がしていなかったら、随分と見掛け倒しである。


それにしても異種とは本当に様々だなぁと、蘭の貴婦人は思った。


神力だけに長けている者。


神力と体力の両方に長けている者。


其の、どちらも殆どない者。


「私って・・・・もしかして、『どちらもない者』?!」


ひええぇぇ!!


其れは・・・・ちょっと・・・・いや、かなり嫌である。


改めて知ってしまった己の生体に、蘭の貴婦人は苦悩する様に頭を抱えた。


すると。


上空から一羽の翡翠の鷹が舞い降りて来た。


翡翠の貴公子の羽根で在る。


翡翠の鷹は緩やかに二人の頭上を旋回すると、夏風の貴婦人の腕に留まった。


緑の足には、いつもの銀のホールが付いている。


夏風の貴婦人がホールを開けようとすると・・・・


「待って!! まだ開けないで!!」


がばりと蘭の貴婦人は夏風の貴婦人の腕から翡翠の鷹をもぎ取った。


そして、ぎゅうっと抱き締める。


「中のメモ取っちゃったら、直ぐ消えちゃうじゃない!!」


「・・・・・」


夏風の貴婦人は呆れた様に、蘭の貴婦人を見る。


「そりゃ、消えるわよ。でも、まぁ、何が書いて在るかは、大体見当が付いてるけどね」


気が済むまで持ってれば??


夏風の貴婦人は、さっさと馬の元へ戻ると跨った。


「や・・・やったあ!!」


蘭の貴婦人は翡翠の鷹を抱き締めてキスをすると、慌てて馬の所へと走って行く。


其の儘、蘭の貴婦人は翡翠の鷹を太陽の館まで持って帰ると、片時も離そうとしなかった。









一方、翡翠の館では、翡翠の貴公子が渋った顔をしていた。


其の様子を見た金の貴公子が目を丸くして問い掛けてくる。


「どうしたんだよ、主??」


翡翠の貴公子は己の額に手を当てると、


「羽根が・・・・戻って来ない」


ぼそりと呟いた。


其の言葉に金の貴公子も驚愕に瞳を見開く。


「え?! だって昼頃、飛ばしたんだろ??」


羽根は相手が手紙を受け取ると、直ぐに消える様になっている。


なのに夜になった今でも消える気配が無いのだ。


御蔭で翡翠の貴公子の額には翡翠の紋が浮かび上がった儘だった。


「何か、トラブルかな??」


「いや・・・・そう云う感じはない」


じゃあ、何故だろう??


金の貴公子は腕を組んで考えてみる。


すると其の答の糸口が見えた気がした。


だが翡翠の貴公子は、まだ判らないと云う顔をすると、


「彼女には悪いが、視てみよう」


仕方なく一人頷く。


だが。


「視るなっ!! 視ない方がいい!!」


金の貴公子が慌てて翡翠の貴公子の肩を掴んだ。


金の貴公子には大体、見当がついていた。


おそらく・・・・いや、絶対、蘭の貴婦人が関わっている!!


「視たら最後、ショックで立ち直れなくなるぞ!! だから視るな!!」


「・・・・・」









金の貴公子の予想通り、翡翠の貴公子の羽根は蘭の貴婦人の部屋に監禁されていた。


「さ~あ~!! 主ぃぃ!! 今日は私と一緒に寝ましょうね~~!!」


未だホールを付けた儘の翡翠の鷹は使命を果たせず、途方に暮れた様に椅子に留まっている。


其の翡翠の鷹を、ネグリジェ姿の蘭の貴婦人が抱き締める。


其のまま自分の寝室へと連れて行き、ぬいぐるみ宜しく抱えて寝台に潜り込む。


そして此処ぞとばかりにキスの雨を降らす。


「ああ・・・っ!! 主の香りがするわ・・・・幸せ~~!!」


よもや自分の羽根が夢見る蘭の貴婦人の腕の中に居るなど、


羽根の帰りを待つ翡翠の貴公子には知る由もなかった・・・・。

この御話は、これで終了です。


異種が、どんな存在なのかが、少しでも伝わったでしょうか?


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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