永久指名と決戦日
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(´;ω;`)
「永久指名を決めたわ」
「私もよ!」
「だ、誰にするの?」
「アスティよ」
「やっぱりルイスね!」
「あっ、最初に指名したナイトさんだね。あの二人は特に頑張ってるから指名も多いよ」
「ニーナから見ても間違いないのね。他のナイトは指名を変えたら焦って念話してきたわ。その点、アスティは動じなかったわね」
「そうそう! ルイスは余裕のある所が男らしくていいわ!」
「け、決戦日はユニコーン入れるの?」
「……まだシンデレラを揃えていないから、ユニコーンは来月に取っておこうかしら」
ふぅ……よかった。ダンスが出来ることでとりあえず満足したのかな。
「それで十分だと思うよ」
「ニーナちゃん、今のところ誰がランキング上位なの?」
「え、えっと、今のところアスティさん、ルイスさん、シャールさんの順かな」
「そう、私たちの目に狂いは無かったわね」
「うふふ、このチェスを制するのは私とマリリアよ!」
チェスかぁ。
──────────────
4週目初日、お母さんとフローラさんが来店しアスティさんとルイスさんを永久指名した。
「やっと貴方の騎士になれました。これ程嬉しい事はありません」
跪いたアスティさんはお母さんの手の甲にキスをした。
ぎゃぴぃ! ムズムズするぅ‼
そのままアスティさんはお母さんをダンスへと誘った。ルイスさんもフローラさんと共にホールへ。
アーニャが音楽をかけてダンスが始まる。周りのお客様は羨ましそうに見ており、悔しそうにしていた商家のお嬢さんもシャールさんに永久指名を入れてダンスをしていた。
これが恋物語の世界……確かに絵になっている……。お母さんがダンスにこだわった意味がやっとわかったよ。
そうしてこの日は営業終了した。
でもあれ? シンデレラが入らなかった。まぁいいか。
「いい感じに店が動いてきたな」
魔王様がニヤニヤしている。
「永久指名が入ってよかったですね! でもお母さん達、シンデレラを集めるって言ってたのに今日は入れなかったです。何でだろ?」
「ニーナ、トップから順に売上額を見てみろ」
そう言われて売上表を見る。アスティさん52万、ルイスさん44万2千、シャールさん40万3千、あとはみんな30万前後だ。
「……何か関係あるんですか?」
「マリリア達の戦いを楽しみにしてるんだな」
魔王様はフッと楽しそうに笑った。
……うーんわからない。
──────────────
5週目2日目、ついに今日は決戦日だ!
ナイトさん達は着替え終わったらみんな売上表を見ていた。今日で初のナンバーが決まるので真剣だ。
営業前に魔王様がみんなの士気を上げる。
「皆、今日は決戦日だ! ここでは持って生まれた魔力ではなく、自分自身の努力だけでナンバーが決まるんだ。頑張れよ!」
「「「はいっ!」」」
うぅ……私まで緊張してきたよぅ。
外のライトを点け魔力感知をしてお客様を待つと、早速お客様がやって来た。最近シャールさんを永久指名した商家のお嬢さんだ。
その後も続々とお客様がやって来て、シャンパンが入ったりとみんなナイトさんのナンバーを上げるために盛り上がっている。
何卓かお会計を済ませては入れ違いでお客様がどんどんやって来る。そろそろ満席、というところでお母さんとフローラさんがやって来た。 遅い時間に来るのは珍しいな。
『3番にシンデレラピンク、オレンジ、黄色、緑、白!』
来た! ついにお母さん達がシンデレラコンプリートだ!
飾りボトルはホールにあるのでラウンツさんやお兄ちゃんが用意する。
「お母さん達がシンデレラコンプリートしました……」
「さすがママ! これで2人がナンバー1、2確実だね!」
アーニャはウキウキしてるけど魔王様は落ち着いている。
『5番にダルフィンを』
ぎゃぴっ! ダルフィン⁉ シャールさんの席のお嬢さんだ。
「シャールさんにダルフィンが入りました……」
「ええっ! シャールが1位?」
「そうかもね……」
1本60万ルインなんて高額が入ったのは初めて……。音楽とコールが鳴り響く。お嬢さんこんなに使って大丈夫かなぁドキドキ……。
『ニーナちゃん! シャールの売上教えて!』
アスティさんから念話だ!
『ええええっと、今ので136万5千です!』
『ってことは……わかった! ありがとう!』
「ニーナ! アスティとシャールの差はいくら⁉」
アーニャも勝負の行方が気になるらしい。
「えっ⁉ えと、シンデレラが5本入ったからルイスさんと割って……132万6千……約4万だよ!」
「じゃああとちょっとで巻き返せるね!」
なんてアーニャと話してたら、トドメと言わんばかりにシャールさんにプエリ白が入った! サービス料込で13万だ。
「あわわわわ……差が開いちゃったよぅ!」
「ママ達早くお酒入れないかな⁉」
まだかなまだかなと思って待ってたけどお酒は入らない……。
「ラストオーダーです!」
お兄ちゃんとラウンツさんの声が聞こえてくる。
しばらくしたらお兄ちゃんがゆっくりとバックヤードのカーテンを開けて落ち着いた声で言った。
「3番にユニコーン。ラストオーダーは以上だ」
「えっ!」
「ユッ、ユニユニユニ…………コンッ?」
「……ははははははは‼ さすがマリリア達だな!」
魔王様は膝を叩いて大爆笑だ。
アーニャが混乱しながら音楽をかけるとユニコーンのコールが大爆音で始まった。
私は落ち着くために急いで伝票に書いて計算する。……アスティさんが197万6千、ルイスさんが186万4千、シャールさんが149万5千……。
ついついアーニャとホールを覗いてしまった。
「……シャール指名のお嬢さん、ハンカチを噛み締めてるね……」
「う、うん……ホントにハンカチ噛む人なんていたんだね……」
ユニコーンのコールは今までに無いくらい長い……。コールの間に商家のお嬢さんのチェック、つまりお会計が入る。
ひぃい! 絶対怒ってるよぅ!
コールが鳴り響く中、お嬢さんとシャールさんはお店を出て行った……。
ユニコーンのコールが終わるとお会計ラッシュだ。初めて大金貨が動いた……震える手で受け取り亜空間へしまう。
店内からはアスティさんへナンバーワンおめでとうの声が聞こえてくる。
お客様全員が退店し、ふぅ、と一息つく。
「1日でこんなにお金が動くなんて……」
「これが決戦日の魔法だ」
魔王様がふんぞり返って言った。
「魔法ですか……いったいなぜこんな金額に?」
「メイリアなら分かってるだろ、説明してやれ」
アーニャと一緒にキッチンのメイリアさんへと振り返る。
「……シンデレラコンプリートはダミー……あれで終わりだと思ったシャール達は……応戦して手の内を全て晒した……そこにユニコーンでフィニッシュ……」
「シ、シンデレラがダミー? でもお母さんはユニコーンは来月にするって……」
「つまりだな。この間アスティとルイスを追いかけるようにシャールに永久指名が入っただろ? それでマリリア達はあの嬢ちゃんがライバルになるって確信して力を温存したんだ」
「だからシンデレラをずっと入れてなかったんだね!」
アーニャもやっとお母さんたちの作戦が分かったみたいだ。
「そうだ、決戦日まで他を油断させて一気に駆け上がる作戦だな」
「で、でも結局シンデレラ分は追い越されちゃいましたね」
シンデレラを先に入れた意味ってあったのかな?
「それはメイリアの言う通り計算。相手を煽って敵の戦力を測ったんだ。すかしっ屁のプエリでガス欠だとわかったんだな」
「プエリはトドメじゃなくてすかしっ屁……」
「んで、どんなに足掻いても勝てない金額のユニコーンで華麗にチェックメイト。うん! これでこそホストクラブだ!」
「は、はぁ……」
そういえばお母さん達がチェスって言ってたな……まさに騎士の駒の様に敵を飛び越えたんだ……そしてチェックメイト。
「とにかくママ達の完全勝利って事だね! やった!」
決戦日終了後のミーティングのため、魔王様達とホールへ向かう。
お客様用ボトル棚に並べられたシンデレラ達の頂点に飾られているユニコーンは、まるでトロフィーのようだった。
2021/8/28改稿。