アナーキー
今日はお休みなので起きたらお昼だった。 ダイニングへ行くと誰もおらず、テーブルに私の分のご飯が置いてあった。 ありがたい。
「いただきます」
[アタシ達はディアブロへ行って来るわっ! ちゃんとご飯食べてネッ☆]
ラウンツさんの書置きにほっこりしながら1人でご飯をもしゃもしゃしていたら、メイリアさんがバンッ! とドアを開けて出てきた!
「っ! ニーナ! 分析終わった!」
メ、メイリアさんがハキハキしゃべってる! これはただ事じゃない!
「メイリアちゃん! 終わったの⁉」
ルルさんもメイリアさんの声が聞こえたのか部屋から出てきた! ふ、2人ともいたんだな。
「……ルルさん……魔王様に念話する……」
「……そう」
メイリアさんがパーティ念話を開始した。
『……魔王様おはようございます……』
『おう、もう昼だけどな。 わかったのか?』
『……はい……アナーキーがお香に混ざっていました……』
ああっ! やっぱり! 怖いよぅ!
『マジか……わかった。 まずはアリアに念話するからメイリアは準備しておけ』
『……はい……』
メイリアさんが戦場に向かうような顔をしている。 何か覚悟を決めたような顔だ。
「メ、メイリアさん……」
「……まずはアナーキーが人界で合法かどうかから調べる……」
「そうね……メイリアちゃん、どっちに転んでも気を落とさないでね」
どっちに転んでも……? ルルさんには何が見えているんだろう。
メイリアさんは部屋に戻ってガサゴソと準備をしている様子。
「……ルルさん……」
「大丈夫よニーナちゃん、メイリアちゃんと魔王様に任せて安心して待っていればいいのよ」
ルルさんがそっと私を抱きしめてくれた。
「……はい」
あ、再びメイリアさんが部屋から出てきた。
「……行ってきます……」
もうお姫様に呼ばれたんだな。
「いってらっしゃい。 メイリアちゃん、こんな時だけど残りの毒見の魔道具よ。 王族が楽しみにしているから一応持って行ってくれるかしら?」
「……うん、わかった……」
私は不安で何も言えなかった。 どうか大事になりませんように……。
陽が落ちて、ダンジョンから帰ってきたみんなと晩御飯を作っていたらメイリアさんが帰ってきた。 その顔はいつも通りの無表情だ。
ラウンツさん達が飛竜さんとの闘いについてワイワイおしゃべりしているのをボーッと見ながら夕飯をとった後、各自部屋に戻ることに。
「……ニーナ、〈紅霧〉の事で教えて……部屋に来て……」
ひぃ! まだ私の眼球諦めてなかったの⁉
『……今日の話をするからルルさんと来て……』
念話が届いた。 なるほど、〈紅霧〉の話ならルルさんメイリアさんだけでお話ししても自然だ。
「う、うん。 いいですよ」
「私もお邪魔していいかしら?」
メイリアさんがルルさんに頷く。
「おー? なんかわかったら俺らにも教えてな!」
お兄ちゃんに苦笑いで返してしまったけど、私が眼球の件に怯えてるのは知ってるから大丈夫だろう。
「ぎゃぴっ!」
メイリアさんの部屋に入ったら魔王様がいた!
「ぎゃぴっ! って言うと思ったぜ。 防音結界を張ってあるから安心しろ」
「ビックリしましたよぉ……」
「早速だが今日の話をするぞ。 ルルもニーナも気になってるだろうからな」
魔王様は椅子に、私とルルさんとメイリアさんはベッドに腰掛けた。
「まず、人界ではアナーキーは明確に禁止されていなかった。 昔の魔界と一緒だな。 医療目的や、戦争の際に兵士の士気を上げるために使用されている。
ただ、中毒性と危険性はそれとなく知れ渡っているようで常識のあるやつは使用しないらしい。
今回見つかったのはアナーキーが混ざった香なのはメイリアから聞いたな? アレイルから入ってきたようだが、アレイルは知らずにただの香として輸出していたのか、あえて混ぜ物を流通させたのかわからないのが厄介だな」
つ、つまりどういうこと?
「今日から早速オルガ国が、アレイルから入ってきた香の調査、分析に入るぞ」
なんでオルガに入ってきちゃったんだろう……。 アレイルの人は知らないのかな?
「お、お香として一般に流通しているなら、アレイル国にも知らせないと大変な事になるのでは?」
「ニーナちゃん、そのアレイルがわざとオルガに輸出していたとしたら?」
「えっ⁉」
ルルさんの思わぬ言葉に固まる。 わざと……?
「そうだ。 もしアレイルが悪意を持って輸出していたとしたら、アレイルで何か起こっている可能性がある。
だからそこんとこが分からない限り、アレイルにはまだこの情報を伏せる必要がある。 オルガが自国を守るためにな」
「つ、つまり、アレイルがオルガに混乱をもたらそうとしている可能性があるということですか?」
「そうだ。 ただその理由が分からない。 アレイルはルーガルに対抗するためにオルガと同盟を結んだんだからな。 オルガ国でも最悪の場合を想定して今から理由を探るところだ。
それと、アレイルを経由しているだけで他の国からって可能性もある。
でもな、どのみち俺ら魔族が関わる事じゃない。 俺らはエルドラドの住人と違って、言っちまえば不法滞在者だ。
そして魔界としてはオルガに協力する気はない。 人界の国家間パワーバランスが崩れるからな。 俺がオルガの問題に介入することによって、他国でディメンション系列店が出店しにくくなるのはゴメンだ」
確かに……オルガ国は魔族相手に戦闘で勝てない、かつ、私たちの目的がディメンション出店だけだと思っているからなし崩し的に見て見ぬふりをしているだけだ。 オルガが欲しいのはあくまでドワーフの武器防具。
そして魔界、つまり魔王様がオルガに肩入れするという事は、オルガが他国から警戒されて戦争の火種になる。
私たちに出来るのはアナーキーが入ってきているという事実を伝える事だけ……。
「ただエルドラドとディメンションだけは最悪の状況を考えておく。 アナーキーの事はハッキリ分かるまで黙ってろ。 この話は以上だ!
キャラリアからの移住は予定通り進めるぞ。 明日キャラリアに行くから準備しておけ」
「ええっ! アナーキーが入ってくるかもしれない不安定な状況で移住を進めるんですか⁉ せめて決戦日が終わってからにしましょうよぅ!」
「それがな……キャラリアの1階層も落盤が出た。 あっちはあっちで危ないんだ。
それと、アナーキーの話が大きくなればオルガはキャラリアの住人の受け入れどころじゃなくなる可能性がある。 だからその前にさっさと住民登録を済ませる!
エルドラドで何かあればキャラリアに一時避難もできる、とりあえずエルドラドへの移住を進めるぞ!」
「……わかりました」
「私が明日の予定を、エルドラド含めみんなに念話しておくわね。 明日のキャラリアには誰が行くのかしら?」
ルルさんは頭の切り替えが早いな。
「亜空間の広い俺とニーナ、ルル、メイリアで行く! ルル、周知よろしくな」
「わかったわ」
「じゃあ俺は一旦魔界に帰るぞ」
魔王様は魔王城の豪華なベッドで寝たいのかな?
「……言っておくがニーナ、俺は仕事をしに魔界に帰るんだからな? 顔に出すぎだバカ」
ひぇ! バレてた!
「魔王様が魔王城の豪華なベッドで寝たいと思ってるなんて思ってませんよ!」
「ほう……」
あうっ! カマかけられてたっ!
私をジロリと睨んだまま魔王様は転移してしまった。
……はぁ。 キャラリアからの移住が急すぎるよぅ!




