貸し切りお茶会
クラリゼッタさんとその護衛、使用人さん数人がやって来た!
「ごきげんよう、先に使用人を連れて来たわ」
「クラリゼッタ様、今日という日を楽しみにお待ちしていました。 ご足労頂きありがとうございます」
アレンさん、どんどん言葉遣いが洗練されてきている……。 あ、アレンさんが挨拶したら次は私の番だ。 一応魔王様から依頼されてるのは私だし。
ああ! クラリゼッタさんと直接お話するのは初めてだよぅ! 怖いよぅ!
「こ、こここんにちは。 ニッ! ニーナです! 本日の会場について任されていますのでよろしくお願いしましゅ……」
「そう、くれぐれもわたくしたちの邪魔はしないでくださる?」
邪魔しないよぅ! むしろさっさと終わらせてぇ!
「あ、あの、お茶会の間、私達は2階にいますので……」
「わかったわ。 セバス! ベアトリアス! 調理場の確認をしてちょうだい!」
セバスと呼ばれたのは壮年の男性、ベアトリアスと呼ばれたのはほんわかした中年女性だった。
セバスさんの名前は絶対セバスチャンだ! 恋物語の定番だ! わざわざセバスチャンて名前の人を雇ったのかな? 謎だ。
そんな事を思っている間にメイリアさんが使用人さんにキッチンの使い方を教えており、ルルさんは音楽をかけるかクラリゼッタさんに聞いていた。
ピポン!
あ! お友達かな?
キャッシャーで扉を開けてあげると、着飾った貴族のご婦人2人とその護衛、使用人さんらしき人達が店内へ足を踏み入れた。クラリゼッタさんの使用人、ベアトリアスさんが客人をVIPへ案内する。
「ごきげんよう、クラリゼッタ様」
貴族たちからごきげんようごきげんようと聞こえてくる。
ルルさんが音楽をかけて、メイリアさんと共にバックヤードから出てきたからお仕事は一旦終わりらしい。
「そ、それでは私達は失礼します。 また終了時に降りてきますね、ではお楽しみください」
こ、こんな感じでいいのかな? 逃げるように2階へ上がった。
「ふぅ! なんとなく貴族は苦手ですぅ!」
「ニーナちゃんお疲れ様。 でも集音魔法でアレンくんに何も無いか確認のお仕事があるわよ!」
「あ、そうでした。 貴族の会話なんて聞いてもわかんないですけど……」
「私とメイリアちゃんも聞いているから大丈夫よ。 せっかくだからお貴族様の会話を盗み聞きしてみましょう?」
ニヤリと笑ったルルさんは楽しんでる! 昔人界で諜報活動をしてたからその血が騒ぐのかな?
アレンさんが変なことに巻き込まれないように〈集音〉っと……。
「クラリゼッタ様、この城は最近話題の恋物語の酒場ですわよね? わたくし初めて見ましたけれど、外観だけでなく内装も素晴らしいですわ。 さすがクラリゼッタ様のお眼鏡にかなうだけのことはございますわね」
「オホホ! たまには趣向を変えてみましてよ。 魔王からぜひこの店を会場に、と言われてわたくしも困ってしまったのですけれど……」
そんなこと言ってないよぅ! でも間違ってもいないのが悔しい!
「まあ! 魔王から⁉ さすがクラリゼッタ様ですわね!」
「オホホ……さすがの魔王もわたくしの贔屓になりたいようね。 そういう方ばかりお相手してもいられないのだけれども……」
違うよぅ! アレンさんを私たちの目の届く所にいさせるためだよぅ!
「クラリゼッタ様ならそういう方々が寄ってきてしまうのも無理はありませんわね。 そういえばこの音楽はどこから聞こえてくるのかしら?」
「魔族の魔道具だそうよ」
「なるほど、魔界は魔法だけでなく魔道具も人界より優れているということですわね。 ……ところでそちらの麗しいお方は?」
「わたくしも先ほどから気になっていてよ。 ご紹介いただけるのかしら?」
「フッ……この者は平民よ。 この店で働いているわ。 でも見込みがあるからわたくしが慈悲を施して差し上げていてよ」
慈悲って! 毎日アレンさんに会いに来てるのはクラリゼッタさんのくせにぃ!
「まあ! 恋物語の騎士ということかしら? ……顔は整っているわね」
「そうね、そばに置くだけなら申し分ないわ」
アレンさんが平民だってわかった瞬間に上から目線! キィイーーー!
「アレン、ご挨拶なさい」
「はい。 初めましてアレンと申します。 見目麗しい高貴なる方々にご紹介いただき光栄です」
「あら、ちゃんと挨拶は出来るようね? クラリゼッタ様のおかげかしら?」
「オホホホホ! そうね、でもアレンは平民の割には元々礼儀がなっていてよ。 ですからわたくしも平民に寄り添うためにこの店に出入りしてみましたの」
「まあ! クラリゼッタ様が平民と交流を? 本当に民に寄り添う慈悲深いお方ですこと……」
なぜかクラリゼッタさんが慈悲深い人になってるよぅ! 「違いまーーーす!」って声を大にして叫びたいけどお店にとっては太客だからガマンガマン……。
「徴税が終わったらもうすぐ冬の社交界ですもの、そのために民の声を聞いていてよ」
冬は社交シーズンなんだ。 そういえば最近収穫祭が終わったってアンナさんが言ってたな。 秋の収穫が終わったら収穫祭と徴税があって、その後の冬はやる事がないから社交界なのかな?
「見聞が広いですわね、さすがクラリゼッタ様ですわ!」
お友達のお貴族様も「さしすせそ」で会話してる……誰に教えてもらったんだろう。
「オホホ! 貴族として当然の務めよ。 ああそういえば、最近、アレイルのご婦人はコルセットを締め上げる事に熱中しているようでしてよ?」
「まあ! この時期に? おもしろいですこと!」
何が面白いのっ⁉ 貴族のツボがわからないよぅ!
「ふふっ、本当ですわね。 アレイルといえば、新しい香が入ってきましてよ。 本日持参いたしましたの、クラリゼッタ様はご興味がございまして?」
「まあ、貴方はさすが流行には敏感ね。 ベアトリアス!」
「はい」
「いい香りですわね」
お香を焚いているのかな? 集音魔法じゃわからないや。
「不思議な香りね、初めてだわ。 香りと言えば、この店のナイトは全員、魔族が作製した香水を身に着けているわ。 アレン、今持っているかしら?」
「はい、どうぞ」
「まあ、こちらは爽やかでよい香りですわ」
「あらいいですわね。 クラリゼッタ様、魔族の物なんてどこで手に入るのかしら?」
みんなで香水を回して香りを楽しんでいるようだ。
「アレンを永久指名した者だけがこの店で購入できましてよ」
「あら! 限られた者にしか販売していないという事ですわね! ますます欲しくってよ!」
「わたくしもよ! 永久指名とは何かしら?」
おお……クラリゼッタさん上手い! アレンさんを永久指名するよう差し向けてる!
身分の高いクラリゼッタさんがアレンさんの名前を出したって事は、アレンさんを指名しろと言っているようなものだ……。 香りは異なるけど、他のナイトさんを永久指名しても買えるのに。
ごめんなさいクラリゼッタさん! さっきまでの心の暴言は撤回します! さすが社交慣れした公爵夫人です! この調子で貴族全員をアレンさんの支配下に置いてくださいお願いします!
そしてクラリゼッタさんがディメンションのシステムをさりげなく宣伝してくれたり、他愛もないお話が続いてお茶会は終了した。
アレンさんほとんどしゃべってなかったけど、こんなんでいいのかな?
クラリゼッタさんとその護衛、使用人さんだけはまだ残っているので、会場代の精算と片付けのためにルルさんメイリアさんと1階へ降りる。
「あ、あの……」
「会場は好評だったわ。 また利用してもよろしくってよ?」
「は、はぁ……ありがとうございます」
「セバス! 支払いを」
「はい」
小金貨1枚を受け取り領収証を渡して私のお仕事は終わりだ。 クラリゼッタさん達は帰って行った。
何もなくてよかった! 疑ってごめんねクラリゼッタさん!
「……ルルさん……」
「メイリアちゃんどうしたの?」
? なんだろ。 2人のいるバックヤードへ行ってみよう。
2021/10/14 改稿。
ベアトリアスを追記。




