チームワーク
キャロルさんの席に避難していたネフィスさんはVSが入ったことによってクラリゼッタさんの席へ戻って来た。
「クラリゼッタ様ありがとうございます、VSのおかげでこちらへ戻る口実が出来ました。 あーやっと戻って来れた! 魔族と話すのは緊張しますよ」
ネフィスさんはキリッとした顔で言った後、リラックスした様子でクラリゼッタさんの横に座った。 ……ルルさんとキャロルさんの席でめっちゃ戻りたくないって泣きついてたよね⁉ まぁこれがお仕事なんだけどさ。
「オホホ……魔族はやはり野蛮なのではなくって? わたくしと語り合った後なら一層そう思うのも無理はないですわね」
「ははは、そうですね……。 あ、アレンVS飲み切ったのか? 酒好きだな!」
アレンさんは新しいVSを入れるために無理に飲んでくれたんだよぅ!
「プリンセスがもう1本入れてくださるというので頂いてしまいました。 ではプリンセス、ご馳走様です。 僕は失礼しますね」
アレンさんは空になったグラスを少し掲げてから初回のお客様の席へ向かった。
「魔王様ぁ、ネフィスさん分かってるんですかね?」
「さぁどうだろうな。 俺が教えなくてもわかってるんならネフィスも伸びるだろう。 俺は今見込みのあるナイトを見定めている最中だ」
「ニーナ! 誰がナンバーワンになると思う?」
「まだ5日目だからわからないよぅ。 アーニャは?」
「私はダークホースのアッシュくんに賭けようかな!」
「アーニャは絶対に賭け事をやっちゃいけないタイプだね」
「アッシュくんに謝って!」
「ちょっとお手洗い……」
トイレに逃げよう! バックヤードを出てすぐだからなるべくお客様に見られないように……あれ?
お手洗いから戻ったらアーニャに睨まれた。
「アーニャ、いつの間にかカリンさんの隣にルフランさんが座ってるよ」
「えっ⁉」
二人でカーテンからチラ見する。
「ホントだ、カリンさん初回なのにわざわざ指名入れたのかな?」
「飲み直しってやつだ!」
魔王様が得意げに言った。 また新しい専門用語が……。
「初回の2時間が終ったから、カリンがミミマリンに付き合って延長するなら2回目の来店扱いとするしかないだろ」
「いつの間にそんなシステムを……」
「システムも何も考えれば当然の事だろ? 一旦店を出るかそうでないかだけの違いだ、さっきラウンツに念話で聞かれたから教えた」
「なるほどね! ルフランくん早速指名もらうなんてさすがイケメンナンバーワン!」
飲み直し……一応キャッシャーとして覚えておこう。
再びルミミマカリンさんの席を覗いてみる。
金髪イケメンルフランさんと金髪美女のカリンさんが並んでいるとものすごくキラキラしててまぶしい……って、二人の距離が近すぎだよぅ!
「アーニャ、ルフランさんがカリンさんにやたら密着してない?」
「イチャ営だね!」
「なんか前に言ってたね……説明はいいや」
「うん! あのね! イチャイチャして恋人気分にさせるんだよ!」
「聞いてないってばぁ!」
「ははは! 娼婦は普段キモいオヤジの相手ばっかでストレス溜まってるからな! たまにはイケメンを食いたくなるんだろ! ルフランはその匂いを察知したんだな」
「魔王様にも聞いてないですぅ!」
ぴゃっ! とコーディさんの所に逃げようとしたら魔王様に首根っこをつかまれた。
「ニーナ、この店は色恋解禁したから今後色々な事が起きる、ちゃんと客とナイトの関係を見ておけ。 内勤でカバー出来ない部分をお前がカバーしろ!」
「えぇ……」
色恋解禁しなければ良かったのでは⁉
『人族を支配下に置くんだろ?』
ニヤリと笑った魔王様から念話が届いた。 そうだった!
『そうでした! お客様は全員ナイトさん達がメロメロにして魔王様の配下に置きますよ! 頑張ります!』
近くにいるキッチンのジルさんにはバレちゃいけないから念話で返した。 ふふふ……さぁ魔王様の配下よ! 人族を支配するのだ!
「ねぇルフラン、私今日から少しの間お店休みなのよ。 どこかへ連れて行って?」
「カリン……うーん、後で念話するよ」
いつの間にか呼び捨てになってる!
「えー! 今言って!」
ルフランさんがカリンさんにこしょこしょ話してる……集音魔法でバッチリ聞こえてしまった。
「明後日休みだから明後日な! ミミリン達に内緒だぞ? ここで反応するなよ⁉」
「……」
カリンさんが無言でルフランさんに抱き着いたっ! ルフランさんついにあの技を使っちゃうのかな……ドキドキ。
「なんだよルフランー! うらやましいぜ!」
「ルフランはカリンちゃんドストライクの顔だからね!」
ミミリンさんの言う通り、カリンさんの目がハートになってる……アーニャよりイケメン好きかもしれない。
そうしてこの日は無事営業が終わった。
最後のお客様が帰ったら軽く片付けてミーティングだ。
「アレンーーー! このーーー!」
あわわ! ネフィスさんがアレンさんの首を腕で固めてるよぅ! 誤解だってぇ!
「マジありがとな!」
「ネフィス! 痛いよ!」
あれ? じゃれあってる。
「サカリゼッタをなだめてもう1本入れるなんてさすがだな!」
ネフィスさんまでサカリゼッタって言ってる……アーニャの話聞いてなかったハズなのに!
「プレオープンの時の代表のおかげだね、何とかなったよ」
謙遜してるアレンさんの笑顔がまぶしいっ! 聖属性魔法使いがここにも!
「VS亜空間に流したのか?」
「いや、まだ口の中に展開出来ないから普通に飲んだよ」
あそっか、飲んだフリしなきゃいけないから亜空間魔法を口の中に展開しなきゃごまかせないもんね。 みんな練習頑張って!
「ははは! ネフィスはわかってたか、安心したぜ。 じゃあミーティングするぞー!」
魔王様のお声でミーティング開始だ。
「今日はチームワークと店ぐるみについて話すか」
後半はいらないよぅ。
「今日ネフィスがクラリゼッタの席から逃げてたろ? それ自体はまぁいいんだ、相性の悪い客もいるし、ネフィスは枕を求められてたからな。
んで指名ナイトが戻らない事に業を煮やした客がヘルプにキツく当たる事はよくある。 そこでな、アレンが他の席より高い酒を入れればナイトが戻って来るって店のルールを説明したわけだ」
事情をよく知らなかったナイトさん達はほうほうとお話を聞いている。
「で、VSが入った訳だけど、同じ酒は飲み切ってから新しい物を入れるのがマナーだからな。 アレンは残ってたVSを飲み切ったぞ、ネフィスのために。
これがチームワークだ! 辛い時はみんなで少しずつ負担を分散するんだ! いずれ自分に返って来る! みんなアレンを見習えよ?」
「「「はいっ!」」」
「アレン助かったよありがとな!」
魔王様に褒められてネフィスさんに感謝されたアレンさんは少し恥ずかしそうにニコニコしている。
「じゃあ次は店ぐるみについて教えるか!」
魔王様が悪い笑みを浮かべた……それは聞きたくないよぅ!




