ミミマカリン
アレンさんがアンデッドみたいな状態だけど、魔王様による営業後のミーティングが始まった。
「明日からヘルプ指名のシステムを増やすぞー。
被りの時とかに、客は二番手としてお気に入りのナイトにヘルプに着いてもらいたいだろ? だからヘルプも指名できるようにする。
ヘルプ指名料は2000ディルだ、指名料だけヘルプナイトの売り上げに付けるぞ。 チリも積もればキャラリアだから頑張れ!」
「あ、たまにお客様からそういう要望があったので助かります!」
内勤のレオさんの発言にお兄ちゃん達ほかの内勤さんも頷いている。
「おう、コーディは計算大変だけどよろしくな!」
「はいっ!」
コーディさんなら朝飯前だ。
「んで本題だけど、今月の決戦日にアリア、あのピンクのロリがハートベアデコを入れる」
事情を知っているアレンさん以外がざわっ……とした。 あれが入ったら一発でナンバーワンだもんね。
「でもな、あのロリがナイト全員の売り上げにする事を条件に出してきたから、今回だけ全員ヘルプ指名して売り上げをみんなで割る。
本来ならヘルプ指名されても売り上げは入らないが、その日に本指名されたやつはよろしくな! 一応主役として目立てるから箔付けにはいいだろ!」
ナイトさん達のざわざわが大きくなった。
「ついでに言うとアリアは絶対に永久指名しない。 コロコロ指名を変える客だから、ナンバーワンになるには他の客の営業頑張れよ!」
ナイトさん達は考え込みだした。 くまさんの一発逆転やお姫様の永久指名の可能性は無くなったから、他のお客様でどう戦うか決戦日までの算段を立てているようだ。
「あとな、今月ナンバー1、2になったやつは店のデッカイ看板に姿絵を描いてやる! ナンバー3まではカッコイイ二つ名も付けてやるぞ、頑張れよ! じゃあミーティングおしまいな!」
「看板に描かれるのか⁉ スゲエ!」
「二つ名……冒険者時代の憧れだったぜ!」
ナイトさん達のやる気がみなぎっている! ……でも魔王様とアーニャの厨二センスで変な二つ名を付けられないか心配だよぅ!
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今日の営業前の勉強会にはアーニャとお兄ちゃんとラウンツさんが来てくれた。 コーディさんはディアブロだろうな。 ルルさんとメイリアさんがいない……嫌な予感がするのは私だけだろうか。
勉強会が終わって2階に上がるとルルさんメイリアさんがご飯の準備をしてくれていた。
「あ、あの……今日ルルさんとメイリアさんは何を……」
「うふふ……ニーナちゃんが心配してるような事は無いから安心して?」
「そ、そうですか……」
ルルさんが言うなら安心……かな?
ご飯を食べたら営業開始だ!
クラリゼッタさんが来ているのはもう日常の一部と化した。 まさに「おかえりなさいませ」状態だ。
「ニーナ、クラなんとかさん今日はネフィス君だよ!」
お客様が来店し始めたらアーニャと一緒にバックヤードのカーテンからチラ見するのも日常と化している。
ネフィスさんは貼り付けたような笑顔でクラリゼッタさんの隣に座った。
「ホントだ……。 ものすっごいグチりに来そうだね……」
ネフィスさんは黒髪で目つきが鋭くてちょっと魔王様に似てるナイトさんだ。 オラ営っぽい所まで魔王様に似なくていいのに……。 悪い人じゃないんだけどチャラ男っぽさがにじみ出ていて私は何となく委縮してしまう。
ついでに一般席も見てみるとおネエ耐性バフスキル持ちの女の子達も来店していた。
「今日はミミリンちゃん達おネエをテイムしてないね! メイリアちゃんは悪魔召喚しなかったんだね! 信じてたよ!」
「アーニャ、おネエとメイリアさんは無関係だってば」
「あ、ミミリンちゃんはヴァン君指名だよ! マリンちゃんはアッシュ君だ、上手く指名につなげたね! もう一人は初回かな?」
ミミリンさんていうお客様はキャロルさんの雰囲気に、マリンさんはメイリアさんの雰囲気に似ている。 初回のお客様はものすっごい美人さんだ……メンバーで言ったらルルさんポジション。
「アッシュさん置物を卒業できたみたいでよかったね」
アッシュさんは初めて指名をもらって嬉しそうだ。 初回の美人さんにはルフランさんが着いてる。
「だね! じゃぁ今日もお仕事しますか! 集え、鎮魂歌────」
アーニャと今日も野次馬……店内把握のお仕事をする。 〈影移動〉で片目と片耳を店内の影へ。
「マリンちゃんアッシュともうヤッた⁉」
「ヴァン! 変な事言わないでよ! マリンちゃんごめんね、お金が無くてお店に遊びに行けてなくて……」
「ミミリンに取られる前にわたしが童貞もらう……お店は来なくてもいいよ」
ぎゃぴっ! いきなり何の話⁉ アッシュさんが童貞まで卒業しちゃうよぅ! 枕禁止だってば!
「あら? アッシュ君まだなの? 私もその争奪戦に参加しようかしら?」
美人さんが色っぽく唇から舌を覗かせた。
「カリンちゃんはダメー! ただでさえウチのお客さんに人気なんだからここはあたしとマリンに譲って!」
「そういえばミミリンちゃん、カリンちゃんは俺らがお店に行った時にいなかったね、何で?」
「ヴァン、ウチらの店がなんの店か知らないで来たの⁉」
「私はたぶんその時2階にいたのね」
カリンさんがお酒を飲みながら言った。 2階?
「あ、なるほど……」
「ああ……カリンさんなら人気なのも頷けますね」
え? 何々? ヴァンさんルフランさん教えて! アッシュさんはハテナ顔だ。
マリンさんがアッシュさんに耳打ちしてる……。 私が使ってるのは集音魔法じゃないからさすがに声が小さくて聞き取れない。
「ぇえっ⁉」
アッシュさんの声が裏返ってピョン! とソファから跳ねた。
「アーニャ、何のことかわかる?」
〈影移動〉を解除して聞いてみた。
「あー……うーん、ニーナは知らなくていいと思うよ?」
「ははは! あいつら娼婦なんだよ!」
「ぎゃぴっ!」
魔王様からの豪速球の暴露で、珍しく私を気遣ってくれたアーニャの優しさは粉々に砕け散った。
「も、もしかして……ま、魔王様やお兄ちゃんもお店に行った時に……」
「バカ、酒飲んだだけだ。 実際アッシュはわかってなかったろ?」
「あ……そ、そうですね……」
ビックリしたよぅ! でもそっか……そういう職業の女性もいるよね……。
「言っとくが俺は娼婦を尊敬してるぞ! 考えてもみろ、ああいうやつらがいなかったら性犯罪が激増するぜ? 必要悪ってやつだ」
「魔王様が尊敬……ちょっと私の世界観がひっくり返りそうです。 でも必要悪ってのは言われて初めて気付きました、確かにそうかもしれないですね……」
「娼婦はストレスが多くて金持ってるからな! いい客になるぞ!」
「………」
結局尊敬してるの⁉ いいカモだと思ってるの⁉ どっちなのっ!
「職業に貴賤は無いってやつだね! ミミマカリンちゃんいっぱいお金使ってたくさんストレス発散してくれるといいね!」
「アーニャ、3人のその略し方は失礼だと思う……」
「えー可愛いじゃん! ミミマカリン!」
「クソキメェェェエエエエエエ‼」
ネフィスさんが来た! 席を抜けて来るのが早い……短気なのかな?
「クラなんとかさんだね!」
「ネ、ネフィスさんどうしたんですか?」
お仕事お仕事……。
「あのサカリババア! 家に来いってさ! 誰があんなババアと寝るかよっ‼」
ひぇっ! 何で今日はこんな話ばかりなのぉおおお⁉




