エロという原動力
「今日もお疲れー! ミーティングするぞー!」
魔王様のお声でいつも通りみんながソファに座った。 ……いや、ヴァンさんだけ端っこのソファで死んでいる。 何とかクラリゼッタさんのブランデーを飲み切ってもう1本入れたからだ。
メイリアさんがヴァンさんに解毒剤を飲ませてあげてる……優しいな────ってうぇえ! 往復ビンタで起こしてるよぅ!
「ッ! 痛ぇ! ……あ、メイリアちゃん……もっと……」
そういえばヴァンさんはメイリアさんに薬草を貢いでいた冒険者の一人だった……。
「…………」
メイリアさんの視線は冷ややかである。
「なんてね! 冗談だよ! ありがと!」
「ヴァン起きたか? 亜空間魔法教えるぞー」
「亜空間魔法⁉ 教えてください!」
魔王様がみんなに亜空間魔法を使うイメージを説明したが、内勤さんやキッチンのジルさん含め、人族にはやっぱり難しいらしい。
「お前ら拡声魔法はすぐ使えたのにな。 亜空間魔法はイメージしづらいから難しいのか? えっとな……こう……女のパンツの中に遠隔で手を忍び込ませるイメージだ! パンツん中はまさに亜空間だろ⁉ エロのためなら男はできるはずだ! 頑張れ!」
ええ……そんなイメージやだ。
「あっ! 出来たかもしれません!」
みんながバッ! とアレンさんを見た。
小さなボトルネックを握ったアレンさんがグッ……と集中して手を開くとボトルネックは消えていた。 そしてまたグッ……と手を握り込んで開くとボトルネックが現れた。
「いいぞアレン! お前真面目そうに見えて意外とスケベだな! ははは!」
「ものすごい誤解が発生しているようですが……でも出来ました! ありがとうございます!」
その後もナイトさん達は「パンツの中……パンツの中……絶対に触ってやる!」と頑張って練習してたけど、結局その日マスターしたのはアレンさんだけだった。
ちなみに亜空間魔法じゃパンツの中は触れないよぅ。
「じゃぁミーティング終わりな。 各自暇な時に練習しとけよー仕事が楽になるぞー」
あ! そうだ! お仕事といえば恋物語!
「魔王様、魔王様」
「あん? なんだニーナ」
「今日恋物語をたくさん買って来たんですよ。 ナイトさん達に貸してあげてもいいですか?」
「えっ! ニーナさん本を貸してくれるんですか⁉」
真っ先に飛びついたのはアレンさんだ。
「はい、20冊あるのでみなさんに貸せますよ」
「わぁ! 僕の家には恋物語が無かったので助かります! ニーナさんありがとうございます!」
「あ、俺も俺も!」
……うわぁぁぁあああ! 私が役に立った! やったよ! 私ちゃんとお仕事してるよ!
みんなに1冊ずつ貸し出した。
「あー……そうだ、本は高価だったな。 今まで気付かずみんなに恋物語で勉強しとけなんて言って悪かったよ。 ニーナ、へっぽこのくせによくやった!」
「はいっ!」
やったぁ! 魔王様に褒められたよ! 嬉しい! ……でもへっぽこは余計だよぅ!
「ニーナさん、わからない単語は今度聞いてもいいですか?」
あ……。
「はい、いいですよ。 明日から早めに来ますね!」
本が高価だから、人族の庶民は日常で使う単語以外はあまり意味が分からないんだ。 魔界は魔王様が作った学校や図書館でタダで学べるから、スラスラ本が読めるのは普通だと思ってた。 やっぱり魔王様って偉大だな。 へっぽこ呼ばわりは無かったことにしてあげよう。
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さて今日もこれから営業だ! 私はアレンさんと約束したから早めに1階に降りてエルフの本を読んで待っていたら、ルルさんメイリアさんも来た。 私ひとりじゃ大変だから来てくれたらしい。 優しいな。
「「「おざまーす!」」」
アレンさん、ルフランさん、アッシュさんだ。
「ニーナさん早速ですが教えてください!」
アレンさんがビッシリと単語が書かれた紙を差し出した。 要領がいいなぁ。
文字は音が大体決まってるから、知らない単語でも何となく読めるけど意味がわからなかったりするんだよね。 「懸想」とか「恍惚」とか「寵愛」なんて言葉は普段使わないもん。
……私がお父さんのちょっとえっちな本でそれとなく意味を覚えてしまったのは内緒だ。
私が単語を指差しながらひとつずつ読み上げ、意味も教えるとすぐにアレンさんは覚えた。
「ありがとうございます! 次の本も貸していただけますか?」
「えっ⁉ たった1日で1冊読んだんですか⁉」
「? はい」
アレンさんって……学ぶ機会が無かっただけで実は地頭がすごくいいんじゃ……。
「あー俺も紙に書いてくりゃよかったな」
「ニーナちゃん達に教えてもらうなら僕も明日からそうしよ!」
ルルさんメイリアさんに教えてもらっていたルフランさんとアッシュさんがそう言った。
そして3人に単語を教えていたら他のナイトさん達とお兄ちゃん達内勤さんも出勤してきた。 ナイトのみんなは明日から紙に書いてくるらしい。 しばらくこれが私のお仕事になりそうだ!
ピポン!
「「「おかえりなさいませプリンセス‼」」」
あ、お、お姫様ぁ!
「ニーナ! アリアちゃんアレン君指名だよ!」
「ほんとだ。 アレンさん人気だよね。 雰囲気が柔らかいからかな?」
「一番のイケメンはルフラン君だけど、一番恋物語の騎士の雰囲気が出てるのはアレン君だね! じゃあお仕事お仕事! 集え、鎮魂歌────」
「アーニャ、その前置きが無くても無詠唱で集音魔法使えるよね?」
「定期的に邪曲を奏でないと私の中の闇が暴走するんだよ! 封印が破られたら大変でしょ!」
「設定を維持するのも大変だね……」
「それは言わない約束だよ!」
その後アーニャに、左眼の魔眼は魔王様リスペクトだとか、魔王様の左眼が髪で隠れてるのはきっと魔眼を隠してるんだとか、設定に含まれる魔王様への尊敬の念をこんこんと説かれた……。 やぶ蛇をつついちゃったよぅ!
「プリンセスは毒見が終わらないとお食事ができないなんて大切に育てられているんですね」
「あ! ああ……そうじゃな、わらわはしがない男爵家の娘じゃが父上が過保護での……」
「そうですか……こんなに可憐な花なら守りたくなるのも当然ですね、ふふっ」
「ほっほっほ……」
アーニャにかまってたらアレンさんのお話を聞きそびれたっ!
そして気づいたらお客様が沢山……やっぱり今日もクラリゼッタさん来てるよぅ!
今日はミアさんだ! ミアさんには荷が重すぎるってぇー!




