へっぽこニーナのお買い物
昨日私は結局、とうちょ……店内把握をしただけで営業が終わってしまった……。
部屋を出てリビングに来たらメイリアさんとコーディさんがもう朝食を作ってくれていた。 そしてテーブルで黒いオーラを出しているのはお兄ちゃんだ……。
「お兄ちゃんおはよう……どうしたの?」
「……悪魔だ……悪魔がいた……」
「えっ⁉ 悪魔⁉ 伝説の高位モンスターのあの悪魔⁉」
「いや違う……。 昨日魔王様達と行ったラウンツさんオススメの酒場がさ……もうわかるだろ?」
ゴクリ……。
「……おネエさん達がいるお店だったんだね……」
「そうだ……ッ‼」
ぉおう……魔王様自らラウンツさんの被害を受けにいくなんて珍しい。
「お兄ちゃんの貞操は……」
「ギリギリの戦いだった……ユニークスキルがあんなにあるなんてっ……! あいつらは最強だ! 魔王様より強い!」
お兄ちゃんは両手でテーブルをドンッ! と叩いた。
「お、お兄ちゃんが生きててよかったよ……。 ところでよそのお店に『営業』って何しに行ったの?」
「ああ、飲みに行った店の女の子達にさりげなくうちの店の宣伝をしたんだ。 でもおネエにまで宣伝する意味はあったのか? あの悪魔は女としてカウントするのか⁉ アイツらが店に来るのか⁉ 俺は嫌だぞニーナ‼」
「わ、私に言われてもぉ!」
「聞こえてたわよレイスター……ついに大人の階段を登っちゃったのね」
ルルさんいつの間に!
「登ってません!」
ルルさんがケラケラと笑った。
お店の営業は陽が落ちてからだから、それまで各自自由時間だ。
ルルさんメイリアさんはものづくりに没頭してるし、お兄ちゃんとアーニャ、ラウンツさんはダンジョンで魔物と戦って遊ぶらしい。 コーディさんはディアブロのお店で働いている獣人さんの様子を見に行くとの事。 私たちがいなくなった事で、お店に立つ獣人さんが増えたんだって。
私はどうしよう……。 あ! メイリアさんが言ってたシンンデレラのお話が書かれた本を探しに行こう! 人界の本を読みたいな!
街をブラブラしてやっと本屋さんを見つけた。 本屋さんがあってラッキー! さすが城下街!
本は貴重品だ。 全て手書きだから本自体があまり売っていない。 「本は高いからお父さんのいる時にしか読んじゃいけないよ」と言われて育ったけどいつもコッソリ読んでてごめんなさいお父さん! ちょっとえっちな本があった事はお母さんに秘密にしてるから許して!
本屋さんに入ると私の角を見たお店のおじいさんがビックリしてる。 シンデレラの本あるかな……。 おじいさんに聞いてみた。
「シ、シンデレラ? 聞いたことないですね……」
「そ、そうですか。 じゃぁ他の本を見てみます」
本を物色する。 ……[エルフは実在するのか]? エルフ! ホントにいるのかな? 読んでみたい!
店主のおじいさんに断りを入れて、パラリと中を見せてもらった。
「……何でこんなに字がきれいなんですか?」
「おや? 魔界には印刷技術が無いのかな?」
「いんさつ?」
「えっと、同じページを何枚も作れる技術の事ですよ。 印刷が発明されてから本の値段が劇的に下がったんです」
そうなんだ……。 人族は魔法が弱いけど、魔界にはない技術が発達してるんだな。 おじいさんに「なるほど」と返事をして本の内容を見てみる。
「……面白そう! おいくらですか?」
「2万ディルですよ」
「えっ⁉」
「えっ」
や、安すぎる! 魔界ならその10倍はするよぅ!
とはいえ庶民にとってお高いことには変わりないな。 ……そういえばナイトさんは恋物語の本をどこで読んだんだろ? 魔界には魔王様が作った図書館があるけど。
「あのう、人界には図書館ってありますか?」
「トショカン?」
今度は私がおじいさんに図書館の説明をしたが、本なんて貴重品を無料で貸し出す施設などありえないとの事だった。 もしかしてナイトさん達がアーニャの「カッコイイ台詞集」を必死にメモしてたのは……。
「あ、あの、定番の恋物語と新作の恋物語も下さい!」
おじいさんにおすすめの恋物語を20冊紹介してもらってエルフの本と一緒に買った。 ナイトさんに貸してあげよう。
実は私は初任給からほとんどお金を使っていないので、魔王様にルインを全部ディルに換金してもらってからプチお金持ちなのだ! ふはははは!
部屋に戻ってエルフの本を読んでいたらアーニャが来た。
「ニーナ何してるのー? もう晩御飯の準備だよ」
「えっ⁉ もうそんな時間⁉」
私たちはディメンションの営業が始まる前に早めの夕食を取る事になっている。 もう夕方か、本を読んでると時間が経つのが早いな。
「あれ? 本を読んでたの?」
「うん! エルフは実在するかっていう考察本なんだよ!」
「エルフってイケメン美女しかしないんだよね⁉ 面白そう! 後で聞かせて!」
アーニャに返事をしてダイニングへ。 みんなでシチューを作って、いただきます。
「ニーナ、本の内容聞かせて! エルフがどれくらいイケメンか書いてあった⁉ イケメンエルフの挿絵とか無かった⁉」
「アーニャはイケメンかどうかだけ気になるんだね……」
「……ニーナ、エルフについての本読んだの?……」
「そうだよメイリアさん、今日街で本を買って来たんだ! サレノバ大森林に隠れ住んでるみたいだよ。 近くで見た人がいるんだって!」
「ニーナ! サレノバ大森林に行こう!」
アーニャがカタッ! と立ち上がった。
「アーニャ……サレノバ大森林には街が無いから行かないと思うよ……」
「イケメンエルフが私を待ってるんだよ‼」
もうスルーしよう。
「……ニーナ、読み終わったら貸してほしい……」
「はい、いいですよ」
エルフはアーニャだけでなくメイリアさんの知的好奇心も刺激したらしい。
「エルフ会ってみたいな! 強ぇのかな⁉ ルルさんはサレノバ大森林に行った事無いんですか?」
お兄ちゃんがルルさんに問いかけた。 そういえば昔人界中に転移陣を設置したって言ってたな。
「……サレノバ大森林へ行った事はあるけれど……特に何もなかったわ」
「本には、結界が張られてて見えないんじゃないかって書かれてました。 魔王様の魔眼なら見つけられますかね?」
今度魔王様に聞いてみよう!
「どうかしら? 見つかるといいわね、うふふ」
「フッ……私の封印を解く日は近そうだね!」
アーニャの左眼じゃ見つけられないよぅ。
そんな話をワイワイとしながら夕食が終わり、営業開始だ! 今日も頑張るぞ!
……頑張るも何も、まずはおしぼり作り以外の私のお仕事を探そう……。
明日3/31か明後日4/1お休みするかもしれません
m(_ _)m
魔王「決戦日だぞ! 締め日明けの4/1にしろ!」
作者「ひぃ! ごめんなさい!」




