新規オープンまで
ブクマありがとうございます(∩´∀`∩)♡
今日も朝からミーティングでお兄ちゃんとお店に来た。
みんなに挨拶してからぽてぽてとルルさんに近付く。
「ルルさんルルさん、どうしてお客様として来る事になったんですか?」
「魔王様からの依頼よ。ルルも金余ってんだから経済を回せって、うふふ」
お金使えって言われてるのにニコニコしてる……お金持ちの気持ちはいまいちわからないな。
「お母さんが、初回のお友達にはルルさんの遊び方を真似すれば恥をかかないっていう事でお話するみたいです。ル、ルルさんもユニコーンを狙ってたりするんですか?」
「あら、やっぱりそうなるのね。魔王様の言う通りになったわ」
「ルルには最初そんなに使わせないから安心しろ」
ぎゃぴ! 魔王様がホールに転移して来た。ビックリしたよぅ。
「お、おはようございます魔王様。魔王様の言う通りってどういう事ですか?」
「マリリアの知り合いだと、社交界の名残で見栄張っていきなり高額を使う可能性があるだろ? そこでルルが手本を見せる訳だ、普通の酒を頼むだけでいいってな。細く長く通ってもらうのが狙いだ、客が潰れては困る」
ルルさんをお手本にするのは正解だったみたい……よかった。
「なるほど安心しました。お母さん達も、お友達にいくら位の予算を伝えればいいのか必死に考えてました」
「ははは! じゃぁニーナの報告を聞くからそこに座れ。他の皆はダンスの練習だ」
ひぃ! 報告の時間。
「マリリア達は他になんて言ってた?」
「えっと、一言でいうと、魔王様の罠が張り巡らされたこの城を攻略する軍事会議を開いていました……どうしてこうなったんでしょう?」
「ははははははは! 魔族らしいな!」
「笑い事じゃないですよぅ……。ユニコーンとシャンパンタワーをどうするか、混乱して取り乱してましたよ!」
「じゃあ締日……えっと、月末にあるナイト達の決戦日にユニコーンを入れろって言ってやれ、シャンパンタワーはまた別のイベントの時でいいから保留だ」
「??? ナイトさん達が戦うんですか?」
「そうだな、正確に言うと、ナイトを勝たせるために客同士で戦うようなもんだ」
「……理解が追いつきません」
「ははは! えっとな、月末までの指名による売上によって毎月ナイトのランキングをつける。一番売ったやつがナンバーワンだ。それを客が応援するわけだな」
「強さではなく売上でランキングをつけるんですか?」
「ここは軍じゃなくて飲み屋だぞ? 一番人気のナイトがここでの頂点だ!」
「……斬新なアイデアです」
「歌い手や踊り子だって、強さより人気で食ってるだろ? それと一緒だ」
「あ、確かにですね」
「他にはなんか言ってたか?」
「えと、ここへ来るのは公共事業への投資みたいなもので、お母さん達がドレスなどを新調したりもするので、それが経済活性化になるって言ってました。ホントにそこまで考えてたんですね、魔王様さすがです」
「ん? まぁ何となく感覚で知ってたな」
異世界の知識かな?
「それより単純に店を楽しんでもらいたいんだけどなー。マリリア達は難しく考えすぎだ!」
「ですよね? でも社交に慣れすぎて、色々と深読みしてしまうみたいです」
「だろうな。まあいいか、そのためのルルだし。よし、報告はこんなもんか?」
「はい」
「じゃあ、新規オープンからは客が増えるから、時間をずらして来るよう伝えといてくれ。ナイトは10人しかいないからな」
「かしこまりました」
魔王様がダンスの練習をしている方へ向かったので、私はメイリアさんを探した。
……飾りボトルがすごい数になっている……。
「メ、メイリアさん……たくさん作ったね」
「……うん……ダルフィンは60万……シンデレラが一番安くて20万……」
ダルフィンは大きな魚みたいな魔物だ。温厚で可愛いので人気があり、ダルフィンが現れる海は観光スポットにもなっている。
陶器で出来てるからつるっとして本物みたい。
「ダルフィンも可愛いね。シンデレラってこのヒールみたいなやつ?」
お母さんがコンプリートしようとしてるやつだ……。
「……うん……没落貴族の娘が王子と結婚するお話に出てくるって魔王様が……」
「そんなお話あったっけ? 人界のお話かな? 魔族には貴族とか王子とかいないもんね。何となく身分差や社交界はあるけど」
「……うん……」
紫、ピンク、オレンジ、黄色、緑、青、白とグラデーション状に棚に並んでいる様子は虹みたいで壮観だ。でもなんで片足しかないんだろ?
「あ、お母さんが魔王様デザインの一点物のユニコーンを狙ってたよ!」
「……一点物じゃない……無くなったらまた造る……」
「えっ! そうなの? お母さんに言わなきゃ」
「……一点物欲しいの? ……魔王様に相談しておく……」
「ホント? ありがとうメイリアさん!」
……ハッ! 一点物なんてユニコーン以上のお値段になるんじゃ……余計な事言っちゃったよぅ!
「おーいニーナ、メイリア、ダンスに付き合え、人が足りん!」
「ひぃい! むむっ無理ですぅ!」
メイリアさんも固まってる!
うるさい、花嫁修業だ! と魔王様に言われて、無理矢理へっぽこダンスを披露させられた。ナイトさんが近いぃい!
ダンスの練習が終わった後、お店の新しいルールが発表された。
・プライベートで客と会う事は禁止
・枕禁止
・売掛禁止
・従業員との恋愛禁止
・上記を破った場合、魔王によるおしおき
「魔王様、枕とは何ですか?」
ナイトさんが質問する。私もわからない。
「ああ……えっと、要は客と寝るなって意味だ。特に既婚女性に手を出してみろ、その旦那の手によって物理的に首が飛ぶぞ。求められても身体を使うな、口と頭を使え」
ひぃ! そんなルールを決めるって事はそういう事も有り得る世界なの⁉
ナイトさん達は魔力が弱いから確かに物理的に死ぬ。
「は、はいっ! プライベートで会うなっていうのもそういう事ですね」
「そうだな、お前達を守るためのルールでもある。どうしても断れなかったら店の決まりだと言え、王命に等しいからな。それに、店でしか会えないからこそお前達に価値が出る。あと別の意味もあるが……今はまだいいか」
また何か企んでるのかな……もうお母さん達をこれ以上苦しめるのはやめてあげてぇ。
「売掛とは後払いの事かしら?」
「ルルの言う通りだ。ニコニコ現金払いのみだ」
「魔王様! 従業員との恋愛禁止って……」
「アーニャ対策だ。ってのは半分冗談で、そういう事があると店が締まらないからな」
「…………」
またアーニャが絶望してる。
「ちなみに客との恋愛も実質禁止だな、そんな事してる暇があったら早く一人前のナイトになれ。まぁもし未婚の客に本気になったら俺に相談しろ。最後に。『客は騙すな! 夢を見させろ!』これがうちの店のモットーだ、忘れるなよ」
「「「はいっ!」」」
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オープンまでに、お母さんにユニコーンは一点物じゃないから安心してという事と、ランキングバトルがあるから決戦日に入れるといいよという魔王様のお言葉を伝えた。
お母さんは一点物じゃない事に落胆しつつも、オープンから決戦日までの戦略の練り直しのためお茶会で忙しそうに過ごしていた。
「さすが魔王様、ただの恋物語だけじゃなく騎士物語の要素まで盛り込むなんて……受けて立つわ!」
なんて言ってたけど、どうしてお母さんは斜め上へ行くんだろう……どこへ向かってるの?
2021/8/28改稿。