研修研修ゥ!
みんなしばらく魔王様に渡された専門用語の書かれた紙を読み込んでいたけど、夕方から研修が始まるという事で一旦解散になった。
あ、頭が痛いよぅ……でも私はナイトさんの研修係じゃなくてよかった……。 コーディさんにキャッシャーのお仕事を教えていればしばらく乗り切れる!
魔王様とミアさんはディアブロへ帰ったので、ディメンションメンバーは2階の個室で休憩を取ったあとみんなでお昼を食べる。
「アーニャ、ルルさん研修出来そう?」
「うん! とりあえず軽く口説けばいいんだよね⁉ それなら任せて!」
「そうね、アーニャちゃんの言う通り軽く口説くだけって考えれば気が楽だわ。 ナイトにはそんな感じで教えましょう。 難しい事に関しては、魔王様が研修を張り切っているから大丈夫だと信じているわ……」
ルルさんが少し遠い目をした……。 頑張って! ルルさんが私たちの最後の砦だよ!
夕方になってまず内勤のバレットさんとレオさん、キッチンのジルさんが来た。 みんな改めて自己紹介をする。
バレットさんはナイスミドルおじ様で、レオさんはまだ若い、20代前半かな。 ザ・普通の男の人。 ジルさんは漢! って感じのおじさんだ。
チラホラとナイトさん達も集まって来たところで魔王様とミアさんが転移して来た。 いつも魔王様はタイミングがいい。 魔眼で見てるのかな……。
「おはよう! 研修するぞー! ナイト達の研修係は俺とルルとアーニャだ。 他は各自担当がよろしくな!」
魔王様のお声でラウンツさんとお兄ちゃんはバレットさんとレオさんに、メイリアさんはジルさんに、私はコーディさんに研修を開始した。
「ニーナさんよろしくお願いします! やっと本来のお仕事が出来ます……っ!」
「コーディさんよろしくお願いします。 そういえばダンジョンの地図を作ったりお店番をしたり、ラウンツさんと毎晩共にしたりと大変でしたね……」
「ニーナさん、最後の誤解を招くような言い方はやめて下さい……」
「ふふっ、冗談ですよ! じゃあお店のシステムとメニューから覚えましょう」
「はいっ!」
お店のシステムはセット料金とVIPルーム代が増えただけだから簡単。
セット料金もVIPルーム代もそれぞれ5000ディル、時間制限無しだ。 ただ、ずっと居座るとナイトさんがバンバンお酒を飲むので自然とお会計は高くなる。
セット、VIP、お酒などの合計額に、謎のサービス料30パーセントを足した金額がお会計額だ。
次はメニューの暗記。 決戦日は内勤さんとナイトさんからどんどん念話が入って来るので暗記していないと計算や記入が追いつかない。
「そういえば、店内状況を把握するのも仕事だって魔王様が言ってました。 コーディさんは集音魔法とか使えますか? 私はユニークスキルを使ってます」
「えっ⁉ 集音魔法は使ったこと無いですね。 魔王様に教えてもらいます……覚えられるかな……」
「頑張ってください……」
最後にテーブルごとの伝票の書き方と帳簿の付け方を教えておしまいだ。 コーディさんは財務部の先輩だからメニュー以外はすぐに覚えた。
……コーディさんのスキルの高さにより私の研修は速攻終わってしまった。
チラリとメイリアさんとジルさんを見てみる。
「な、なんだこの切り方はっ! 魔王城ではこうやって出てくるのかっ⁉」
ジルさんはメイリアさんが綺麗に飾り切りしたフルーツを見て感動していた。
いや、魔王様はいつもオレンジを手でむいて食べてたよ……オレンジの皮でぞうさんとか作って遊んでたな。
メイリアさんのセンスと器用さがすごいだけです!
「……シャンパンはシャンパンペールに氷ごと入れて冷やす……氷魔法使える?……」
「おお! 料理をするのに便利だからな、火と氷の魔法は必死に覚えたぞ!」
ジルさんがむーん……と集中してシャンパンペールに氷を出した。 ……お、遅い……。
でも人族は魔法を使えるだけでもすごいのかな? ライオットさんが魔術師は軍でも貴重って言ってたし。
「……………………ん、大丈夫……」
メイリアさんは思考を一巡してから大人の対応をした。 優しさが目にしみる。
「きっと僕は君と出逢うためにナイトになったんだニャ!」
ホールからミアさんの声が聞こえてきた……。 心配だから見に行こう。
「ミア! 口説く時は見つめ合って囁くんだ! 声がデカい!」
「きっと僕は……君と出逢うためにナイトになったんだニャ……」
「ミアちゃんいい感じ! じゃあ次の台詞いってみよう!」
魔王様とアーニャがノリノリだ……。
ナイトさん達はミアさんが発するアーニャの「カッコイイ台詞集」を必死にメモしてる……。 アーニャの集めた台詞が意外なところで役に立ってるけど、厨二的な台詞までメモしないか心配だ。
「よし、じゃあ騎士のアドリブはこんなもんだな。 引き続き恋物語を読んで勉強しとけよ?
次はナイトのさしすせそだ!」
さしすせそ?
「プライドの高い貴族の女とかは『さしすせそ』でとにかく褒めろ!
さすがです! 知らなかったです! すごいですね! センスありますね! そうなんですね!
これだけ覚えとけ。 簡単だろ?」
なるほど……キャロルさんの「ヤバい! ウケる! マジ⁉」と同じ万能語だ。
「次に指名を取る方法だ! 客の心の隙間に入り込め!
具体的には、何か悩みがないか会話の中で引き出すんだ。 そして客がグチを言い出したらチャンスだ!
とにかく共感しろ! 女は解決策を求めていない、求めているのは共感だけだ! ただひたすら話を聞いて客にグチを全部吐き出させろ!
そうするとお前らが客の唯一の理解者となって依存されるようになる!」
魔王様の研修はますます熱が入っている……!
「人は誰でも知り合いには言えない悩みってのがある。 それを吐き出せるのはお前らだけだって思わせるんだ!」
知り合いには言えない悩みかぁ……。
私なら……本当のお母さんとお父さんは誰なのかな……何で捨てられちゃったのかな……。
確かにこれは誰にも言えないや。 言った人に心配をかけるし、育ててくれた家族や魔王様に悪い。
そんな感じでその日の研修は終わった。
「ニーナ、メイリア、研修はどうだ?」
「コーディさんが有能すぎて1時間で終わりました……」
「……一通り終わった……」
「よし! じゃあ明日からニーナとメイリアもナイトの研修相手になれ、人が足りん」
「ぎゃぴっ! 無理ですよぅ!」
「……!……」
「お前らみたいなコミュ障の客も来るから練習に丁度いいんだよ! 魔王命令だ!」
ひぃ! 出た! 魔王命令! うわーーーん!




