最終面接
お買い物が終わって、スカウト組以外はディメンションに戻ってきた。 各自購入した物を設置する。
私はルルさんメイリアさんと、VIPルームのテーブルの二重になっている天板の間に薔薇の造花やダイヤカットされたガラスの小物を設置した。
うん! すごく華やかな雰囲気になった!
「お兄ちゃん、こっちは終わったよ」
「お、こっちも終わったぞ。 魔王様に念話するな!」
お兄ちゃんが念話したところ、魔王様がこちらへ来るので面接者を集めておいてとの事だった。
「じゃぁラウンツちゃんとアーニャちゃんに念話しておくわね」
ル、ルルさんはラウンツさんを女の子として扱うんだ。
「俺もナイト達に念話しなきゃ。 一人ずつ念話するの面倒だな……ルルさんかメイリアに念話先聞いておいてもらえばよかった」
パーティ念話は便利でいいなぁ……でも私があのミミズにしか見えない魔術式を理解するのは無理だッ!
しばらくしたら魔王様と騎士服を着たミアさんがディメンションの入口から入って来た。
「ようお疲れ! おっ、内装もバッチリ出来たな!」
「ニャーーー! 中もお城ニャ!」
「……魔王様……ドルムさんのお酒……」
メイリアさんがヒュドラの形のボトルを魔王様に渡した。 こ、今度はヒュドラの素材が入ってる……。 ドルムさんでも人体実験してないよね?
「おお、メイリアサンキュー!」
「カッケェ……」
お兄ちゃんはこういうの好きだな。
お店の入口扉を開けておいたらチラホラ面接者さんがやって来た。
元使用人のバレットさんの後ろにいるのはもう1人の内勤さんとキッチンさんかな?
最初に面接に来たアレンさんは7人のイケメンさんを連れて来てくれた。
その他には元冒険者さんやラウンツさんとアーニャがスカウトしたらしき人達も。
みんな内装を眺めてワクワクした顔をしている。
「おまたせ! 今日捕まえた人を連れてきたよ!」
「間に合ったかしらぁ?」
ラウンツさんとアーニャがイケメンさんを連れて帰って来た。 これでナイトさんはミアさんを入れて16人だ!
「おうお疲れ! そんなに待ってないぞ。 じゃあ面接に来たやつは適当にソファとかに座ってくれ」
面接者さんは一般席のソファや丸椅子に座った。 私達メンバーは端っこの方に座る。
「自己紹介がまだだったな、魔王だ。 代表とでも呼べ。 よろしくな!
じゃあ先に俺から話をするから、働くのをやめる奴はその場で帰っていいぞ」
魔王様はまず、この店が恋物語の世界を体験出来るホストクラブという酒場である事、それを演出するためにナイトさんがミアさんの着ている騎士服を着てお客様とおしゃべりして楽しませるのがお仕事である事を話した。
そして、ホストクラブはお客様に夢を見せるお店なのでお酒の単価が高い事、指名をもらったらお会計がそのまま自分の売上になって、その半分がお給料になる事、指名がなくても働き始めて三ヶ月は毎日日払いで1万ディルお給料をもらえることも話した。
内勤とキッチンのお仕事も説明。 この3人のお給料は固定給だ。
面接者さんは事前にラウンツさん達から話を聞いていたためか、特に質問等無かったので魔王様が話を進める。
続いてお店の細かなシステムや永久指名、ダンス、決戦日のナンバー争いなどについてもお話する。
「接客はプレオープンまで研修するから安心していいぞ、ダンスも教える。 家では恋物語を読んで勉強しておいてくれ! あと、ここにいる獣人のミアは女だけどナイトとして働く、よろしくな! ここまででやめるやつとか質問があるやつはいるか?」
面接者さんはみんなキラキラした目をしている。 お店の内装やミアさんの騎士服にワクワクしてるみたいだ!
細かな質問はあったけど、段々みんな働く気になってくれたようだ。
「みんなメニュー表を見ろ」
魔王様に言われて、ナイトさん達がテーブルにあるメニューを開く。
「酒は最高300万までの物が用意してある。 普通の金額じゃないだろう? これは酒の値段じゃない、お前達の値段だ!
客の心を掴めれば、それに応じた対価として高い酒が入る。 お前達の武器はお前達自身だ! 自分を売れ! 女に夢を見せるのがお前らの職業だ!」
魔王様の殺し文句で全てのナイトさんがほうっ……っと息をつき、完全に落ちた。 魔王様に。
「よし! じゃあ次は注意事項を話すぞ」
魔王様が紙を取り出して読み始めた。
・プライベートで客と会う事は禁止
・枕禁止
・売掛禁止
・従業員との恋愛禁止
・「彼女」や「女友達」は客として店に連れてくる事
魔王様は4つ目まで魔界と同じ説明をした。
……でも5つ目が注意事項としてわざわざ書いてある意味が分からない。 ナイトさん達も???の顔をしている。
「いーか、よ〜く耳の穴かっぽじって聞けよ? 貴族と深い仲になった後にその客とトラブったらお前達がいちゃもんつけられて酷い目にあう可能性があるだろ? だから貴族相手の場合は3つ目までの禁止事項を守れよ?」
みんなうんうんと頷く。
「最後の注意事項だが、一般人の客と恋仲になってもそれはお前達の自由だ。 店は関知しない、上手くやれ。
意味がわからないやつは魔族のメンバーに聞け。 研修係のメインはそこのルルとアーニャだ」
アレンさんみたいにハッ! とした顔をしたナイトさんと、???顔のままのナイトさんがいる。 もちろん私は後者側だ。
「ま……魔王様……またなんてえげつない罠を……」
ルルさんが震えている……。 ルルさんは意味がわかったみたいだ。 怖いけど後で教えてもらおう。
「今詳しく説明してもわからないだろうから、プレオープン前に正解を教えてやる。 それまでとにかく恋物語を読んで研修を受けろ!
あ、そうそう、魔眼で見たから全員採用だ。 明日からまたこの時間に来てくれ、研修の開始だ! もちろん明日から給料が発生するぞ」
お給料の話が出て我に返った面接者さんはみんな顔を綻ばせて帰って行った。
ちなみにナイトさんが帰る前にお兄ちゃんが服のサイズを聞いていた。 危ない危ない、忘れてた……お兄ちゃんありがとう!
あとで仕立て屋さんに発注の念話をしよう。 それより……。
「ルルさんルルさん、5つ目の意味わかったんですか?」
「ええ……おぞましいわ。 夕食をとりながら話しましょう……」
ルルさんがここまで怯えるなんて……1号店以上の罠があるのっ⁉




