最大の誤算
お兄ちゃんとコーディさんは黒いオーラを出しながらテーブルに突っ伏している。 誰も何も喋りかけるなと言わんばかりの雰囲気だ。
「あーサッパリした!」
アーニャが部屋から出てきたので無言で肩パンだ! くらえ! これはみんなの分!
「痛たたた! 何するの⁉ 私の左眼が黙ってないよ!」
いつも魔王様がやるようにクイッとアゴでキッチンを指す。
「…………ご……ごめんなさい……まさかこんな罠があるなんて……」
アーニャが顔面蒼白で震えながら言った。 事態の深刻さに気が付いたようだ。
ディメンションはお店だけじゃなくて2階まで罠だらけだよぅっ‼ うわーーーん‼
「…………」
メイリアさんは初めて見たせいか固まってる……。
「ルルさんっ! ルルさんお風呂まだ終わりませんかっ⁉」
「はぁ〜い〜今行くわ〜」
こういう時はルルさんだ! ルルさんならっ、ルルさんならきっと何とかしてくれるっ!
「んもう! みんなもお料理手伝ってちょうだぁい!」
私とアーニャとメイリアさんがギギギ……とキッチンへ向かいお料理を手伝う……。
お兄ちゃんとコーディさんはテーブルに顔を突っ伏したまま頑として動かない。
まさか呪いが解呪出来ないとは思ってもいなかったんだろう……。 期待が大きかった分、瀕死の重病だ!
解呪どころかむしろ私達にまで被害が拡大してるよぅ‼
救世主様! 早く‼
「おまたせ。 何かあっ…………たの……ね……」
最後の「ね」は消え入りそうな声だった。
涙目で首をブンブンと振り助けを求める!
「……早くご飯にしましょう……」
とりあえず今日は早く寝る作戦みたいだ。 ラジャー!
「ラウンツさん! チャーハンにしましょう!」
「オムライスの予定なんだけどぉ?」
「きょ、今日は私、家具を設置したから疲れてて! お願いします!」
「アラッ! そういえばニーナちゃん達のおかげだものね! お疲れ様、わかったわぁ☆」
よしっ!
アーニャとメイリアさんの包丁捌きがすさまじくなった! いいよいいよ! 早く‼
「ハイッ! 完成! いただきます‼」
みんな無心で食べる。 視界に入れるのはチャーハンだけ!
「ごちそうさまでした! 私達3人は家具の設置で疲れてるのでお先におやすみなさい!」
私の声でお兄ちゃん、コーディさんもダッシュで部屋へ戻った。
アーニャは責任を取ってラウンツさんの相手をしてね! お墓なら建ててあげるよ!
「よっぽど疲れてたのねぇ……アタシが設置を手伝ってあげればよかったわぁ」
「……明日からはゆっくりご飯を食べてから各自部屋に戻りましょうか」
「ルルさんそうしよ! 今日お風呂を堪能したから、明日からは先にご飯を食べたいよ!」
「……部屋で錬成すると汚れるからご飯が先……寝る前にお風呂……」
「そうねっ! アタシもお腹が空くから先にご飯にしましょっ☆」
「決まりね。 じゃあ私は魔道具を作るわ、おやすみなさい」
「おやすみ!」
「……おやすみ……」
ドアに聞き耳を立てていたけど無事会議は終わったようだ。
みんな何とか今日という日を生き延びた……!
──────────────
「…………」
あ、そうだ。 ディメンションの2階にお引越ししたんだ。 ふかふかベッドでぐっすり寝れたぁーわーい!
そしてベッドのおかげなのか今日は悪夢を見なかった、よかった。
顔を洗って着替えてダイニングへ。
よかった……ラウンツさんはちゃんと着替えてた。 お兄ちゃんとコーディさんも朝食の準備をしてくれている。
「おはようございます。 お兄ちゃん、今日は魔王様の最終面接だっけ?」
「そうだな。 昨日全員に念話して、夕方この店に集まる事になった。 仕事をかけ持ちしてるやつもいるからな」
「そっか。 じゃあ昼間は何するのかな?」
「魔王様と念話したけど、店に足りないものが無いかのチェックと買い出しよろしくだって。
あとニーナは大店の旦那にプレオープンを宣伝しといてくれって言ってたぞ。 嫁とか娘を招待したいってさ」
「わかったよ。 そういえばVIPルームのテーブルに飾る小物を買わなきゃ」
ちょうどアーニャとメイリアさんが部屋から出てきた。 ちなみにルルさんは毎朝お化粧道具とドレスと格闘しているので、実は一番準備が遅い。
「おはよう。 メイリアさん、飾りボトルは出来てますか?」
「……バッチリ……」
ルルさんも部屋から出てきたので、朝食をとったら早速飾りボトルなどを設置しようという事になった。
新しい飾りボトルが増えてる。
「メ、メイリアさん……このくまさんはお酒なの? お人形だよね?」
「……お酒……魔王様が人気出るからって……」
くまさんが赤いハートを持ってる……持ち上げてみるとずっしり重かった。 た、確かに陶器で出来ていてお酒が入っているみたいだ。
ラインストーンが全面に貼り付けられているデコバージョンまである……。
「……おいくら?」
「……ハートベアのノーマルは40万ディル……デコは300万ディル……」
「……もう何も言わないよ。 こっちの細長いお酒はキャップが王冠の形してる! 少しだけラインストーンがついてるね、キレイー」
「……それは水……フュリコは20万ディル……」
「水で20万っ⁉ 詐欺だよぅ‼」
「……それを頼むのが粋だって魔王様が……」
「また魔王様の罠なんだね……もう考えるのをやめるよ」
周りのみんなも呆れている。
飾りボトルとシャンパンタワーの設置が終わったら、足りないものをチェックして街へお買い物だ!
「アタシ達はまたスカウトをしてくるわぁ!」
「買い出しに7人もいらないよね? 行ってくるね!」
ラウンツさんとアーニャはギリギリまでナイトさんを集めるみたい。
お兄ちゃんは食器類の買い足しを、コーディさんはキャッシャーに必要なものを買い足しに行くとどこかへ行った。
「ルルさん、VIPルームのテーブルとかに飾る小物を選んで欲しいです」
「そうね……造花なんかを飾りましょうか。 メイリアちゃんは大きなダイヤカットのガラスを造ってくれないかしら? テーブルに散りばめるわよ!」
「……任せて……」
ルルさんとお買い物だ!
初めてのお店に入ると、店員さんは私達の角を見てビクッとする。 だけど普通に買い物はできる。
ちょっとホストクラブで人界征服するけど攻撃はしないよぅ。
国からお触れが出た事で私達は街を歩きやすくなった。 フフフ……ジワジワとこの街を征服するぞ!
買い物しながら、ヒュドラを買い取ってくれた大店の商人さんのお店へも顔を出してプレオープンの宣伝をした。
商人さんはキラリと目を光らせて色良い返事をくれた。
魔王様のお店から何か商売に繋げられるものが無いか興味津々なんだろう。
日時や人数は追って念話すると言ってお店を回った。
「これでお買い物は終わりね。 お店へ戻りましょうか」
「はい! あ、ルルさん、ラウンツさんが何色ネグリジェを持っているかっていう世界で一番いらない情報聞きます?」
「遠慮しておくわ……」
そんな話をしながらお店へ帰った。




