結界の魔道具
前話に人物紹介ネタバレ無しがあります
「ルルさん、何があったんですか?」
「ええ、みんなにも話すわね」
ルルさんの話によると、最近、不自然に救援魔道具を紛失する冒険者が増えてきたらしい。
「ハッキリ言うわ、結界の効果目当てで商人か誰かが買い取っているわね。 40階層の魔物まで耐えられるように結界を強くしすぎたのが原因よ……」
「アラッ! 悪い子ねっ! 人族は結界の魔道具を持ってないのかしらぁ?」
「今日街で魔道具を取り扱っているお店も寄ったけれど、この街の魔道具は効果の弱いものばかりだったわ。 もっと事前調査をしていれば……」
「街に入れなかったんだから仕方ないよ! ルルさんの魔道具の効果がすごすぎたんだね!」
「自分で言うのもなんだけれど……アーニャちゃんの言う通りよ。 でもそれなら結界だけの魔道具を作って販売すればいいわ。
ちょうど魔王様から、人族のナイトを貴族から守るために結界の魔道具作製を依頼されていたから量産するわよ」
「ル、ルルさんが大変じゃないですか?」
「……そうね、2号店オープンが優先だから魔道具作製方法をオルガ国に売ろうかしら?」
「……戦争に使われる……」
あ、メイリアさんの言う通りだ。
「……そうだったわ……別の方法を考えるしかないわね」
とりあえずこの件はルルさんに任せる事になった。
「ニーナ! 邪龍の剣見るか⁉」
みんなで晩御飯を食べ終わったらお兄ちゃんが話しかけてきた。
これはあれだ、見て欲しくて仕方ないやつだ。
でもお兄ちゃんには子供の頃から優しくしてもらってるから付き合ってあげよう。 私の代わりにお父さんに怒られてくれた事もあるし。
「うん! 見せて見せて!」
「クックック……私のクロウもすごいよ?」
「アタシにも見せてちょうだいっ!」
お兄ちゃんとアーニャの武器自慢大会が始まった。
お兄ちゃんの剣は邪龍の牙が、アーニャの鉤爪は邪龍の爪が使われているらしい。 刃の部分以外は鱗が使われているので黒くて厨二病感満載だ! 2人にピッタリ!
「私の魔眼が共鳴してるよ! ……クッ! 出てくるんじゃない! 今はクロウだけで十分だ……ッ‼」
いつも通りみんなアーニャはスルーだ。
「俺は剣に魔法を付与して戦うからな! 魔力が通りやすいぜ! カッケェだろ⁉」
「よかったねお兄ちゃん! カッコイイよ!」
「僕も早く欲しいです……」
「コーディさん……たくさんお給料もらえるといいですね。 ……あーーーっ! 魔王様にお給料交渉するの忘れたっ‼」
「ニーナさん交渉してくれるんですかっ⁉」
「任せて下さい‼ だって人界に来てからお休み無かったじゃないですか! 魔王様の作った労働基準法違反です!
フッフッフ……未払い給与の請求とお給料アップの交渉をしますよ! コーディさん、財務部の力を見せる時です! 勝訴を勝ち取りましょう!」
「はいっ!」
この戦いは必ず勝つ!
──────────────
翌朝、ディアブロに魔王様が転移していらっしゃった。 戦いのゴングは鳴った!
「おはようございます魔王様、まずはこの書類をご覧下さい」
「あん? 何だいきなり。 どれどれ……」
魔王様の顔がピシッと固まった。
「訴訟にしますか? しかし勝つのはこちらですよ? オホホ……」
右手の甲を左頬にあて、小指を立てて挑発するのも忘れないっ!
「ハァ……訴訟とか言うなよ……そこまで気が回らなくて悪かったな。 これに加えて人界出張料も上乗せしてやるよ!」
「魔王様! さすが私達の王です! 信じていましたよ!」
コーディさんも後ろでガッツポーズをしている! 気がする。
「今の今まで訴訟とか言ってたやつが何言ってんだ……。 ところでルルは?」
「魔道具の件で寝ずに何か作ってますよ」
魔王様がカウンター近くにあるルルさん専用作業台に近づいてルルさんに話しかけた。
「あ、魔王様おはようございます。 解決策が出来上がったわ……」
「仕事が早いな……そういえば給料アップしといたぞ」
「ありがとうございます。 それで横流しされている魔道具だけれども、ダンジョンの座標を描き込む事でダンジョン外で使えないようにしたわ。 これは骨が折れるから最後の手段にしたかったのだけれども仕方ないわね。 ……頑張ったわ……」
ルルさんは早口でまくし立てたあと、遠い目をした……。
「私なら1ヶ月はかかるところをルルさんは1日で……」
シャナさんは震えて感動している。
「ダンジョンに行った時に、転移陣設置に使えるかもしれないと思って座標を記録しておいたのが功を奏したわ……私はもう寝るわね。 あ、ナイトの魔道具はシャナちゃんから説明しておい……て……」
立ち上がったルルさんの足取りがフラフラだ!
「お、おう! ルル助かったよ、ゆっくり休め!」
「魔王様……ルルさんには更に特別給金を……」
「わかったわかった! それでシャナ、ナイト用の魔道具は?」
「はい! ナイトが貴族にストーカーされたりいちゃもんをつけられた際に身を守る魔道具ですわね!
冒険者用の魔道具を改良して、録音機能も付けましたわ!
動力は本人の魔力を充填してもらい、本人の魔力でしかスイッチが反応しないようになっております!
横流し対策ですね。 冒険者はパーティで使うのでこの方法は取れませんでした。
っと話が逸れました。 人族は魔力が少ないですから、ほんの少しの魔力でも反応する優れものですわよ!」
あなたもおひとついかがですか? という声が脳内再生された。
シャナさんは実演販売させたら本領を発揮すると思う……。
「シャナは早口だな……まぁ大体わかった。 シャナも作ったのか? お疲れ」
「はいっ! でもほとんどルルさんが設計して私は製作しただけですわ。 ルルさんはすごいのですわよ! 座標計算ですが────」
「わかったわかった、ちょっと俺は用があるからメイリアかキャロルと話してろ。 ずっと聞いててくれるぞ」
「まぁ! 素敵なお友達になれそうですわ!」
……メイリアさんとキャロルさんは錬成に夢中で耳に入らないだけだと思う。 魔王様逃げたな。
魔王様が向かった先の広場では、お兄ちゃんとアーニャが早速邪龍の武器で模擬戦をしていた。 ラウンツさんやクレイドさん、冒険者さん達が観戦している。
「おーいラウンツ、アーニャ、街でスカウトして来てくれ」
「私の魔眼に任せて! 今回は何人?」
「魔王様っ! 1人くらいアタシ好みのコも需要が────」
「線の細いイケメンがあと7人は欲しい、頼んだぞ!」
ラウンツさんの声を遮って魔王様はドブグロへ向かった。
……ラウンツさんが後ろ手で小石を蹴ってる……。
「レイスターとニーナとコーディも着いて来い」
? 何しに行くんだろ?




