商人が来たニャー!
目に涙をためてキッと睨むミアさんに魔王様は言った。
「分かった分かった、獣人にピッタリの店も用意してやるよ」
「ホントニャ⁉ 嘘じゃニャいニャ⁉」
「絶対に期待を裏切らないから安心しろ。 ただ商人が来てくれないと仕入れが出来ないから待てるか?」
「わかったニャ! すぐに商人を呼ぶニャ! そのためなら尻尾をモフられても我慢するニャ!」
「ミア、そんな簡単に身体まで売る覚悟をするなよ……。 獣人にとって尻尾は命の次に大事だろ」
そうなんだ……無断で尻尾を触らないように気を付けなきゃ。
「そんなにニャンダフルに思い入れがあったのね……ミアちゃん、今からワコフさんに念話して商人さんを呼んでみるわ。 だから簡単に身体を差し出しちゃダメよ?」
「ルル優しいニャ! わかったニャ、貞操は守るニャ!」
その後も魔王様がなだめて、時間はかかったが何とかミアさんの涙は止まり戦争は回避された。
獣人さんの価値観は極端だな……これは守ってあげなきゃ。 よし! 私も協力するぞ!
「ルルさん! 私も商人さんを呼ぶために協力します!」
「あら嬉しいわ。 今ワコフさんを通じて商人さんと約束を取り付けたから早速協力してもらおうかしら。 魔王様、今からニーナちゃんを借りても?」
「おう! 好きなだけコキ使え!」
ぎゃぴ! なんか早まった気がする!
ルルさんと一緒に〈飛行〉でオルガ都市の北にある街道まで来た。
魔物がいない空なら〈飛行〉が使える。運動オンチの私は真っ直ぐにしか飛べないから……。
「ルルさん、お手伝いって何をすればいいんですか?」
「ちょうど仕入れから帰って来る商人さんがいてね、私達が護衛と荷運びをしてあげるの。 その代わりにディアブロへ寄ってもらうわ」
「えっ! いくら個人とはいえ、国から正式に許可が出てないのにいいんですか?」
「うふふ……たまたま私達がここを通りかかって、善意で商人さんを手伝う。 そして商人さんがたまたま噂のディアブロへ寄って冒険者相手に商売をする。 そこにまたまた偶然居合わせた私達と取引しても不自然な事はないわ」
「……不自然の塊だと思うんですけど……」
「商人は商機を逃さないためなら理由さえあればいいのよ、うふふ……」
「は、はぁ……」
商人さんはお金のためなら怖いもの知らずになれるんだな……。
「あ、商人が見えてきたわ」
ルルさんが商人さんに近づき話しかける。
「こんにちは、魔族のルルよ。 商人さんかしら?」
「こ、こんにちは。 商人のガレリーと申します。 いやぁ、仕入れた荷物が重くて大変ですよ……」
……馬車をひいてるお馬さんが大変なだけだと思うけど。
「あらそれは大変よね! 私達は暇をしているから良かったら手伝うわ」
「ははは、親切な魔族がいるものですね。 ありがたい、お願いします!」
……棒読みだよぅ!
「ニーナちゃん、空間魔法でガレリーさんごと移動させられるかしら?」
「あ、はいっ」
「な、なんと……では馬が興奮して暴れないよう目隠しをしますね」
「ルルさん、あんまり速いとビックリするでしょうからゆっくりめに行きますね」
「そうね」
ガレリーさんがお馬さんに目隠しをしたので、馬車に乗ったガレリーさんごと空間魔法で少し浮かせ、私とルルさんの〈飛行〉に着いてくるよう一緒に移動させる。
「わわっ! 少ししか浮いていないとはいえ、空を飛べるなんて夢みたいです!」
ディアブロへ向かいながらガレリーさんが自分の事を話してくれた。
小さい村の出身で、一旗上げるためにオルガ都市へ来て頑張っているらしい。 なので今回の件は怖かったけどチャレンジしてみたとの事。
なるほど、確かにまだ誰も手を出していないディアブロでの商売が上手く行けば他の商人さんより一歩先を行けるかもしれない。
街道を通らずに直接ディアブロまで来たので他の商人さんなどには出会わなかった。
ふぅ、この茶番がバレなくてよかった。 やましいことは無いけど何となくムズムズするんだよぅ!
ちなみにけもの道は、ディアブロ側から風魔法をぶっ放して木々を吹き飛ばし、いつもの要領で地面を整え道を作った。 こういう事なら私におまかせだ!
森の入口で避難していた2人を迎えに行って、広がった道に馬車を通す。
「わぁ! これが噂のダンジョンですね! 早速広場に馬車の荷を広げます!」
「ルル! ニーナ! 商人さんニャ⁉」
「あ、ミアさん、そうだよ」
「いやー冒険者はみんなダンジョンに入っているのかなぁ? 何も売れなかったら困るなぁ。 誰でもいいから買ってくれないかなー」
すごい棒読みだ……もはやここまで来てその演技は必要なのかな?
「困ってるニャ? 安心するニャ! 僕が買い物するニャー!」
ミアさん純粋すぎるよぅ‼ ミアさんのために急いでルルさんが呼んだのをこの短時間でもう忘れたの?
「それはありがたい! 何をお求めで!?」
「小麦粉と野菜と調味料と服ニャ!」
ドブグロのドワーフさん達もやって来た。
「酒と鉱石はあるかのう?」
「服と鉱石以外はありますよ! 今度仕入れてきますね!」
誰かが呼んだのか、ワイワイと獣人さんドワーフさんがみんなやって来てワクワク顔で買い物していた。
隠れ住んでいたとはいえ多少のディルは持ってたみたい。
「ま、魔王様、ミアさんのお店のために呼んだんじゃなかったでしたっけ?」
「うん……でもミアは今忘れてるな……買い物が終わったら俺がミアの店に必要なものを発注しとくから安心しろ」
「それを聞いてホッとしました……」
エルドラドの人達の買い物が一段落したら、ルルさんが私達魔族に必要なものを買ってくれていた。
ホクホク顔のガレリーさんに魔王様が話しかける。
「よう! 魔王だ、よろしくな」
「ヒッ! ま、魔王! あ、いや! よろしくお願いします! ガレリーと申します……」
ガレリーさんはさすがの魔王様登場にブルブル震えている……。
「ちょっとここにカフェを開きたいんだが、建具と衣装の発注って請け負ってもらえるか?」
カフェ? ダンジョン前のカフェなんてお客さん来るかなぁ……。
「何でもやります!」
「おっ頼もしいな! ルルー! 来てくれ!」
ルルさんが設計のお話を、魔王様は衣装のお話をしているみたいだ。 2人とも紙に何かを書いて説明している。
「こっ! この衣装は……‼」
「フフフ……どうだ、見た事無いだろう?」
「これは……なんて完璧に計算されているんだ‼ こんな凶悪なもの……さすが魔王様ですねふふふ……」
「そうだろうそうだろう……クックック……」
……2人とも悪代官みたいな顔で話をしている。 また魔王様の戦略だな。 どうせ私が何を考えても無駄なのでノータッチだ!
一通り話が終わったのか、ガレリーさんは荷物を片付けて帰って行った。
「またすぐ来ますね!」
「おう! よろしく!」
今日の冒険者の救援はルルさんとシアさんが行った。
救助されたパーティの男の人はひどい怪我をしてたけど晴れやかな顔をしていて嬉しそうだった。
うん、お色気2人組に肩を貸して貰えたらそうなるよね、よかったね。
わざと怪我をする冒険者さんが出ないか逆に心配だ……。
寝る前に女子全員を巻き込んで[ドキッ☆ ピンチで恋の魔法大作戦!]のミーティングをしてたら、突然ルルさんがこう言った。
「国王への謁見の許可が出たわ」




