魔王様、自重しない
お久しぶりです!
それから数日、今日は四週六日目。決戦日は五週四日目である。あと五営業日でナンバーが決まる!
ディメンションはいつも通りの営業を行いつつも、ナイトさん達は決戦日に向けて虎視眈々と水面下の争いを繰り広げていた。
何故そう思ったかというと、各エースの来店が減り、その分細客の来店が増えたのである。普段あまりお金を使わないお客様だ。
そしてその細客さんがいつもとは違ってルンルンでシャンパンやシンデレラを入れる……。隣に座っているナイトさんへの密着度も高い。
何かがおかしい……。皆さん……一体どんな戦法を……。
今日もバックヤードに待機している私はアーニャとルルさんに聞いてみた。
「ねぇねぇアーニャ、最近細客さんが頑張ってるね……なんで?」
「え? あー、そういえばそうだね! ルルさんなんでー?」
すると顎に指を当てたルルさんがスッと目を細め、その艶やかな唇を微かに動かした。
「……色枕本営ね」
「えーっ! みんなネフィスくんになっちゃったの⁉」
「えっ⁉ ぜ、全員に色恋、枕、本営ですか⁉」
本営、すなわち「お前は俺の本当の彼女だ営業」は管理が難しいから一人だけにした方がいいって、そう研修したのはルルさんだよね⁉
魔王様も趣味枕以外は病むからやめた方がいいって……。つい最近アフターを解禁したばかりだよねっ⁉ な、なぜ怒涛の禁じ手解放をっ!
「みんなもう慣れてきたもの。被らないお客様同士なら同時に管理が出来ると判断したのでしょう」
「ルルの言う通りだろーなー! 誰かが複数本営を始めたら付いてかないと置いていかれるからな! ナイトが育ってきて俺様は嬉しいぞ、うん!」
ふんぞり返って座っていた魔王様が長い脚をバッ! と組み直した。
その一撃を喰らったら死人が出そうだからちょっと控えていただきたい。
「で、でもでも魔王様ぁ……例えば万が一カリンさんにバレたら……」
まさに今カリンさんと入れ違いで来店している、ルフランさん指名のベルラさんを思い浮かべる。……いくらオルガ軍のベルラさんでも、暴走したカリンさんからの強襲に対抗できるとは思えない。女同士の戦いとは腕力だけではないのだ。
「ベルラは口が堅そうだからな! ルフランも人を見てる、大丈夫だ」
「でも魔王様! ルフランくん今日は一般人の細客もたくさん呼んでるよ! 今三卓被りだよ! 全部本営ならヤバくないー⁉」
さすがのアーニャも焦っている。……が、お尻をフリフリしてる! 実は修羅場を期待してるね⁉
「多分ベルラが本営で他は色カノだろ。色カノを煽るためにベルラにシャンパン入れさせるぞ」
色カノ……つまり色恋彼女とは「付き合ってないけど好きだよ営業」をしているお客様である。そんな上手くいくかなぁ?
というか女性嫌いのルフランさんはついに枕をしたのだろうか……。あっ、そういえばアレンさんも……。
くっ! アレンさんだけは王子様営業だって信じてますよ! お願いですからっ!
「8卓素敵な素敵な姫様よりィ! モエリ白頂きましたァーーー! アーリガッサーーーーイ!!!!!」
「「「アーリガッサーーーーイ!!!!!」」」
ぎゃぴっ⁉ ベルラさんの席! ホントに入った!
チラリと魔王様へ振り返ると、「ホラ、な?」とでも言わんばかりに腕を組み顎をクイッと上げていらっしゃる……。
「さ、さすがです魔王様……」
「フフン!」
くっ……なんか悔しい!
でもまだ他の被り客までシャンパンを入れたわけじゃない。この賭け、魔王様が勝つか見届けさせていただきますよ!
アーニャと共にカーテンから店内を覗き、集音魔法をルフランさんに集中させる。
……彼は今、ベルラさんとは別のお客様の席にいた。金髪に童顔の可愛いお顔で、ちょっと露出が多い服装のお客様である。どこかカリンさん達の雰囲気を感じるので同業者だろうか?
「あー悪い、シャンパン入っちった」
「えーっ! まだあーしぃ、来たばっかだよ⁉ 乾杯もしてないぢゃーん!」
「乾杯するまでいるって! ホラ、かんぱーい!」
「やだ! 飲んだら行っちゃうんでしょ⁉」
「じゃあ残しとくから待っててな?」
そう言ってルフランさんはお客様の髪にキスをした。そしてお客様がビクッと頬を染めた隙にスッと席を抜ける……。
「あ……」
お客様が、行ってしまったルフランさんの背中の次に視線を移したのはルフランさんのグラス。彼のグラスにはたっぷりとお酒が残っており、コースターで蓋がしてある。ズルリとソファの背もたれに背中を預けたお客様がため息をついた。
……いつも見てて思うけど、可哀そうだよぅ!
ベルラさんの席でけたたましくシャンコが始まると、お客様はベルラさん以外オンリーになる。
しかし今日はコール中なのにアッシュさんが彼女の席に着いた。
……最近ナイトさんはこうやってコールをサボっている気がする。あぁ……ついにアッシュさんまで不良に……童貞を卒業すると人は変わるのかなぁ。
「姫元気ないね! 僕ここにいてもいいかな⁉」
「え……? コールはぁ?」
「いいのいいの! もう今日五回目のシャンコだよ⁉ 姫に癒されたい~」
「え~……逆ぢゃん! 仕事しろし! あははは!」
「あはは! じゃぁ飲む! これルフランの? 何飲んでるの?」
アッシュさんがルフランさんのグラスの汗をおしぼりで拭きながら聞いた。
「コンブルだよ~」
一万ディルのブランデーだが、水割りで飲めるので長持ちするお酒だ。
「ルフラン、ブランデー弱いもんね! 今日はラストまでいるの? ルフラン潰そうよ!」
「え……どしよっかな……なんかぁ今日被り多いしぃ~……」
「僕、今日はルフラン家行く予定だったんだ! でもお客さんが来てくれることになったからアフターするんだー。だから姫、誘ってみれば? 」
「……! ルフランお店のあと空いてる系?」
「うん! あ、でも今日はあそこがシャンパン入れたからもうあの子と約束しちゃってたらごめんね……」
アッシュさんが一瞬ベルラさんの席へ振り返った。ルフランさんはベルラさんの肩を抱いており、仲睦まじい様子が嫌でも見える……。
くっ! お客様の身になると苦しいよぅ!
「……そう、だょね……」
しょぼんとなるお客様……この世界はなんでもお金次第なのだ。ルフランさんっ! 早く戻ってあげてよぅ!
しかし私の願いも虚しく、ルフランさんは一時間以上ベルラさんの席におり、他の被り二卓を放置した。
そのため放置されたお客様はヘルプに「もう帰る!」と怒り出してしまった!
「ま、魔王様! マズいですようっ! ルフランさんはなぜ戻らないのですか⁉ 内勤は何してるの⁉」
「ニーナ大丈夫だ、ほっとけほっとけ~」
「放置プレイだね!」
代表権限で勝手にお店のエールを飲んでいる魔王様がほろ酔いだ。そしてアーニャまで仕事中に飲酒を! 「放置プレイだね!」じゃないよ! ルフランさんの放置プレイは極端で怖いんだってばぁ!
ヒヤヒヤとルフランさんを見ていると、アッシュさんがコール中に席に着いたルフランさんのお客様の席へ戻って来た。
ルフランさんのグラスの氷は完全に溶けている……つまりそれだけの時間放置されたという事だ。
「ルフランさ~あの子とアフターしなきゃいけなくなりそうなんだって! 姫に助けてって言ってたよ~」
「……あーしにあのコより高いシャンパン入れてって事?」
「入れちゃう⁉ 実は今日期待してたんでしょー! ジュエル白いこーよ!」
「はぁ~? そぉゆぅんじゃないしぃ~」
「ルフラン潰れたら姫が介抱してあげて! だから入れよ⁉」
「え~なにそれぇ……。……でも前からルフランにお願いされてたしぃ……」
「いい⁉」
「……ぃいよ」
「やったー! ありがとう! すぐルフラン呼んでくるね!」
な……なんと! ホントにシャンパンが入った!
アッシュさんがアフター枕を仄めかしたからだ……。コール中に席に着いてたのもこの伏線だったというの……ッ⁉
……アッシュさん! いつの間にかスーパーヘルプへと進化していたっ!!!
お客様からしたら、あわよくばルフランさんと枕できるなら20万ディルでも妥当って事……? 看板や姿絵の効果がすごいナンバーワンと過ごす時間はもはや争奪戦を免れない、金貨で殴るしかない! ってなってきてるのかなぁ……。
でも枕しなかったらどうなるんだろう……。まぁルフランさんは何だかんだ切り抜けるんだろうな。
……くっ! このままでは魔王様の思惑通りに!
ナイトさんっ! 誰か魔王様の想定外の事をしてぎゃふんと言わせてくださいよぉ!
ゆっくり書いていきます(∩´ω`∩)
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