魔王様からのご褒美
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バレットさんがローズさんとお店を出て逝った後、私はバレットさんへ追悼の意を込めて店内の後片付けを始めた。
……バレットさん、あなたの分までお仕事しますからね! どうぞ安らかに! そう哀悼を捧げながらVIPルームに洗浄魔法をかける。
というか魔王様……いつも営業後はVIPに座ってるな。邪魔なんですけど……。
「あっ! ねぇねぇニーナ! もう姿絵本発売したの~? あれだけ一番に知らせてねって言っておいたのに!」
唇を尖らせたアーニャにプンスカと話しかけられた。
……そうだった! アーニャとシャナさんに教えるのを忘れてた!
「け、今朝はアーニャがグースカ寝ている間に色々あったんだよぅ……」
仕立て屋パウリー事件とか本屋の大行列とか!
「もうっ! ニーナも持ってるんでしょ? 今売ってよ!」
「えぇ……」
結局ムリヤリ七万ディルを握らされた私は、その場でアーニャに初版を二冊売った。もう一冊はシャナさんの分らしい。ボンドさんの取り分一万ディルは明日にでもお渡ししよう。
「あ、魔王様魔王様」
「あん?」
「姿絵本はすでに53冊売れましたよ! 在庫もすぐ無くなりそうです! 増刷かけますか?」
「おーん? じゃあ……また100冊作るか。……ニーナ、もうその仕事はコーディに割り振れ」
「えっ⁉ な、なんでですか? 私の仕事に何か不備でもっ⁉」
ももも、もしかして早く発売日を決めなかったから⁉ 私にはもう任せられないと⁉
「違う違う。ん~、今日はバレットがいないし明日のミーティングで話すか。それより掃除終わったか? ご褒美タイムだ!」
「……ッ! ついにですねっ⁉」
わぁい! 今はとにかくご褒美だ!
魔王様はなぜかナイトさん達人族メンバーにも声をかけ、一般席に座らせる。そして恐らく念話で呼ばれたであろう、二階で休んでいたメイリアさんも下りてきたら私達魔族だけをVIPに座らせた。
なんで人族まで? 四天王戦の事は内緒なのに……。
「ちょっと今日は俺様直属の配下に褒賞をやる。魔界を離れてまでいつも俺様に尽くしてくれているからな。まぁすぐ終わるからお前らも見ていけ」
なんと有難きお言葉っ! 私は魔王様のお側にいられるのならば魔界など恋しくはありませんよ! お兄ちゃんやアーニャもいるし!
ナイトさん達はちょっとハテナ顔だ。
しかしこれは四天王戦の勲章授与式! ともかく私達魔族は魔王様の御前へ横一列に並び跪いた。
「じゃあメイリア、よろしく!」
「……はい……」
端っこにいたメイリアさんが亜空間から何かを取り出すと、それを魔王様が空間魔法でVIPのテーブルにずらりと並べた。
藍色のビン……見た事ない色だけどこの形と金の装飾はジュエル? 七本ある……シャンパンがご褒美?
え……しょぼ、あ、いや、あ、有難き! 店内価格なら相当の物だ! ラインストーンも付いてるデコバージョンだし! でも……えぇ~!!!!!
そして魔王様がラウンツさん、ルルさん……と順に、お言葉をかけながらシャンパンを渡していく。コーディさんの次は私だ。
「最後にニーナ、よくやった。さすが俺様の娘だ!」
魔王様の「娘」発言にナイトさん達がザワつく。みんな、人界にいる私の家族はお兄ちゃんだけだと思っているから。
……くうぅっ! もちろん「義理の娘」って意味だけど、このように正式な場で私の事を「娘」とお呼びくださるとは……ッ! これ以上ない優越感と幸福感で胸が震える!
さっき褒章がしょぼいとか思っちゃってすみませんでしたァ! この魔王様のお言葉こそが最高のご褒美ッ!
ここまでのお言葉をかけてくださった魔王様に私はなんとお答えすれば……っ⁉
「身に余る光栄です」以外の言葉を探しながら顔を上げ、シャンパンを受け取るとなにやら違和感が……。
…………え? …………えぇ……ぇええええええーーーーー!!!!!
「魔王様っ⁉ なんで私のあの姿が彫られてるんですかッ⁉ ハッ! リサさんドルムさんの仕業ですねっ⁉ というか、また魔王様の罠ァアアアーーー!!!!!」
「ぶはははは! 記念に残しておかないとな! 嬉しいだろ!」
シャンパンのビンには……四天王戦の時の私の姿絵が彫られているッ! しかも写真名刺みたいに金で着色してる! ラインストーンデコはメイリアさんの仕業だ!
なんでっ⁉ ここは魔界の頂点、魔王様のご尊顔を彫るべきではっ⁉ 硬貨だってそうじゃん! なんで魔王様のお姿じゃないのぉーーーーー!!!!!
「わーいやったー! 私がデコられてるー! レイスターのも見せて!」
「おう! メッチャ嬉しいぜ! さすが魔王様、俺達を喜ばせるためにここまで……ありがとうございます!」
「魔王様ッ! アタシの本当の姿がココに……これ以上ない記念品だわぁ! キャッ☆」
……四天王|(三人)は喜びに打ち震えている。ルルさんとメイリアさん、コーディさんはホッとした顔をしていた。
「私のはこれよ。ニーナちゃんのもみせてちょうだい?」
ルルさんとメイリアさんが自身のシャンパンを見せてくれた。……二人は四天王ではないので普段の姿が彫られている。
でも私のは……あああん! もうっ! 見られたくないよぉおおん!
しかし二人には今更なので、諦めてそっとルルさんに私のシャンパンを渡した。
「くっ……! 流石リサちゃんね! いい出来だわ!」
「……抜かりなく……」
……ルルさんとアイコンタクトをしているメイリアさん。そういえば……メイリアさんは身体を休めるためにディメンション営業中はフリーだ。
もしかして……その隙にメイリアさんがリサさんに私のあの姿を口頭で説明し、描かせた⁉ くうぅっ! 魔王様めっ!
最近リサさんが忙しいってのもこのシャンパンの事だったんだ!
「ルル、メイリア、コーディ、ちょっとそれ貸せ。他のやつらは亜空間にしまえ」
私は魔王様に言われるまでもなく、速攻自分のシャンパンを亜空間の封印領域に隠した。
魔王様が三人からシャンパンを受け取ると、一般席のナイトさん達に見せながら説明を始める。
「これは『オリシャン』っていってよ、ガワだけオーダーメイドで彫ったオリジナルシャンパンだ! ルル達のは褒賞兼、試作品だけど、お前らのも作るぞー! オリシャンはイベントのためだけに作って、その日だけ放出する限定品だ! シャンパンだから飲み切ったらそのまま持ち帰れる。……意味は分かるな?」
「……代表スゲェ! これなら絶対客が欲しがる!」
「なるほど……いつもはシャンパンを入れないお客様でも、オリシャンだけなら……と……」
「俺の姿絵掘られんの⁉ ヤベー!」
勘のいい、もとい、お金の匂いに敏感なナイトさん達はすぐに意味が分かったようだ。
魔王様……私達へのご褒美ですらお店の売り上げに繋げるなんて……なんて抜かりない! またお客様に罠を!
そしてミーティング解散後、自室に戻った私はそっと自分のオリシャンを取り出した。
……この姿絵は不本意だし、試作品として作られたらしいけど……。でも魔王様が私のために世界でただ一つのご褒美を用意してくださったのは事実だ。
どんな時でも私をおちょくる魔王様からのご褒美……とっても魔王様らしいじゃないか! うん!
そして私はオリシャンをベッドサイドに置き、瞼が重くなるまでそれを眺め続けた。
あの四天王戦で、はみゅはみゅ変装をする必要はかったけど……魔王様が楽しそうだったからいっか。
いつも魔王様のなさる事は意味が分からなかったりするけど……結果を出しているのは事実だ。確実に魔王様信者が増えている。
よぅし、これからも人界征服に向けて頑張るぞ! 魔王様名刺の普及にも全力を!
ふふふ……魔王様の知らないうちに完全無欠、眉目秀麗な魔王様のご尊顔が人族の心を鷲掴みにしますよ!
そして翌朝、ダイニングの壁にババーン! と飾られた「はみゅはみゅニーナ画」とラウンツさんの手にある「はみゅはみゅニーナフィギュア」を見て、私は魔王様に一生勝てないと悟った。
~オリシャン製作中~
リサ「ラ、ラウンツさんの絵は本当にこれでいいコン……?」
メイリア「……事情を知らない方が幸せな事も……ある……」
3/6(日)、7(月)はお休みしますm(__)m




