バレットさんにも安寧は訪れない
「ラウンツちゃん、来たわよぉ♡」
「キャッ! ローズさんじゃなぁいっ☆」
美貌のおネエ、ローズさんの初回だ!
豪奢な水色の巻き髪と目元口元のホクロ、そして妖艶な流し目からは溢れんばかりの色香が漂っている。胸には詰め物でもしているのだろうか? ホルターネックドレスだから谷間は見えないけど、とってもおっきい……。生物学的に女であるはずの私など足元にも及ばないほどの、うるうるつやつやキラキラオーラが私にダメージを……。
これが……おネエの正統な最終形態?
そんな事を考えながら、どうか誰も私とローズさんを比べないでいただきたい。と、わずかに縮こまった。
「バレットを指名するわよ!」
「ウフッ♡ モチのロンよぉっ☆ お席へ案内するわネッ!」
アーニャがぷるぷると必死に立ち上がり私の方へ来た。一緒にバックヤードのカーテンから覗くらしい。
……怖いなら見なきゃいいのに。野次馬根性の方が勝ったらしい。
いつもより強張った顔のバレットさんがローズさんの席へ……。
「ローズ姫! お会いしたかった! あの日私はあまりにも美しくまるで女神のような貴方を穢す事に──」
「だまらっしゃい! 今日こそ付き合ってもらうわよ⁉ 美しい女神のあたくしが挽回のチャンスを差し上げるわ! あたくしのプライドを傷つけた責任を取ってちょうだい! じゃないと許さないんだからァん!」
「…………! そのお話はゆっくりと……ローズ姫はワインがお好き──」
「ラウンツちゃんっ! イッチバン強いお酒持って来てッ!」
「オッケーよっ! 『ドワーフ殺し』を持って来るわぁっ☆」
ドワーフ殺し……? とにかく絶対ヤバイお酒だっ! おネエの連帯感が半端ない! バレットさんが圧されてる!
「ラウンツさんそれはメニューになかったはずですっ!」
「裏メニューよぉっ♡ 覚悟するのね、バレットちゃんっ! ウフッ☆」
バレットさんの必死の抵抗も虚しく、ラウンツさんがスキップでこちらへやって来る……。
「魔王様っ! メイリアちゃん特製『ドワーフ殺し』は無かったかしらっ⁉」
魔王様が亜空間から透明のビンに入ったお酒を取り出した。……中に入っているヒレにものすっごく見覚えがある。
「ほれ。値段は10万でいいや。手持ちが無かったらショット一杯5000ディルで出せ」
「ありがとっ! やっぱりお持ちだと思っていたわぁ! さすが魔王様ネッ☆」
「定期的にドルム達にやってるからな。ヒュドラのヒレと滋養強壮剤が入ってる、催淫作用もあるかもな、ははは! バレット死亡フラグクッソウケる!」
「キャァンッ! スッゴイわぁっ♡」
魔王様! なんてモノを! 「さいいんさよう」ってつまりそういう事だよねっ⁉
ドワーフ殺しを受け取ったラウンツさんは頬を赤らめローズさんの席へ戻って行った……。
「あ……あぁ……バレットさんがおネエに食べられちゃう……。でもめっちゃ面白い! 魔王様サイコー!」
何やらアーニャが元気を取り戻した。対岸の火事だと思ってるみたいだけど……どうか私達に被害がありませんように。
「ローズさぁん! 持ってきたわよぉっ!」
「キタわね! ラウンツちゃんもお飲みなさいな☆」
「アラッ⁉ イイのかしらっ? じゃあイクわよぉっ!」
「ちょ、ちょっとお二人とも──」
「バレット飲みなさいよこのフニャチ〇野郎ーーー!!!!!」
ああ……いつの間にかバレットさんがラウンツさんとローズさんに挟み撃ちにされてる……。もはやあの席だけオカマバーなのでは?
ちなみに内勤がお客様のお酒を飲むことは禁止されていない。魔王様いわく、高いお酒が消費されるなら何でもアリなのがホストクラブらしい。
なのでバレットさんは悪魔から逃げられない。システム的にも腕力的にも。
魔王様め……絶対バレットさんで遊んでる!
そしてローズさんの席以外はいつも通りの営業であった。常連のミミマカリンさんやミアさん親衛隊、はみゅエルさん、そして初回も多く来店した。大盛況である。
どうやら仕立て屋パウリーの看板効果が絶大らしい。初回のお客様が看板についてお話ししていたので評判の良さが分かった。
ちなみに、今日ローテで来ていたディアナさんがいつも通りはぁはぁと苦しそうに、姿絵本と仕立て屋パウリーのミアさんフィギュアについて熱く語っていたのは言うまでもない。お買い上げありがとうございました。
一緒に来ていた親衛隊の子達もミアさんとその話で盛り上がっている。
「みんニャ僕の本を買ってくれてありがとニャ!」
「もちろんだよ! これで布教がはかどる! でもなんでミアくんまで三冊も買ったのー?」
「みんニャが買うからみっつ全部違う本だと思ったニャ……。全部一緒だったニャ……」
「「「ミアくん……」」」
「あ、ねぇねぇミアくんっ! パウリーさんからフィギュアに色を塗るって聞いたけどホント⁉」
「ニャ? うん、ホントらしいニャ。リサが塗ってくれるから楽しみニャ!」
「出来たら教えてね! 言われなくても毎日見に行くけどっ!」
「くっ……ミアくんのフィギュアは一千万……」
……最後にディアナさんが不穏な事を呟いていた。魔王様がパウリーさんに言った話に尾ひれが付いてしまっているのでは……?
そしてバレットさんは度々「内勤の仕事が……」と席を抜けたがっていたけど、ラウンツさんやお兄ちゃん、さらにはレオさんまで「自分たちがやるので!」とキラッキラの笑顔でローズさんを接客していた。
……つまり、そういう事だ。
「魔王様ぁ……バレットさん完全に潰れてないですかぁ? あのままじゃローズさんのお家に連れて行かれるのでは……」
「このまま枕コースだね! バレットさんやるぅ~!」
「あらあらうふふ……」
アーニャは完全に茶化している。ついでにルルさんも楽しそうだ。
「ぶはは! 面白ぇから放っとこうぜ! つーかそろそろ閉店だな、もうバレットはそのままアフターでいいだろ。んでよ、後でお前らにご褒美があるから楽しみにしとけよ~」
ご褒美⁉ もしかして四天王戦の勲章かな⁉ わぁい、やったぁ!
これはさっさとローズさんにバレットさんをお持ち帰りしてもらわねば!
「わーい! 何かなー? 楽しみだねニーナ!」
「魔王様直々の褒賞を頂けるなんて……今日が人生最高の日になりそうですっ! さぁ早く閉めましょう!」
そしてきっとバレットさんの最後の味方であったであろう私は、ラウンツさんへ念話を送った。
『ラウンツさん、魔王様がバレットさんはアフターへとのお達しが』
『……ついにアフター解禁ネッ! 任せてちょうだぁい☆』
「アフター」──それはお客様への無料サービス。閉店後に外でお客様と会う事だ。
ディメンションで働く者全員がすでに魔王様からこのシステムについて説明を受けていたが、最近お忙しかった魔王様は開始時期を悩んでいらっしゃった。
でもバレットさんが面白いことになりそうだからサラッと解禁したな魔王様……。
アフターは別に開店前にデートするのと変わらないが、時間帯が夜となると話は変わってくる。例えばネフィスさんやカリンさんがどういう行動に出るか考えれば答えは明確だ。
しかも貴族相手の場合、貴族のテリトリーの密室で、あることないことでっち上げられたらナイトさんはたまったものじゃない。だから引き続き「プライベートで会える」というのは貴族のお客様に内緒のシステムなのだ。
そして閉店後、幾人もの悪戯な思惑で最後まで残されたお客様ローズさん……を連れたバレットさんは──
──新世界へと旅立って行った──。
バレットさん南無。( ˘人˘ )
もうすぐ決戦日にパートに入っていきますねぇ(`・ω・´)
3/3(木)、4(金)はお休みしますm(__)m




