姿絵本発売!
ああああもうっ! ボンドさんにお金用意してもらうように念話するの忘れてたよぅ!
昨日魔王様が仕立て屋パウリー事件の話をしだしたからぁ……。
ともかく本屋さんへ走り、急いで扉を開ける。
「ボボボッボボンドさんっ! 明日が姿絵本の納品日ですっ!」
すると奥から腰を曲げたボンドさんがのっそりと顔を覗かせた。
「おや? ニーナちゃんかい。そうかい、明日かい。じゃあ明日商業ギルドへ行ってお金を下ろしておこうかねぇ」
よかった! ボンドさんからお金の話を出してくれた!
そして大金を持ち歩くのは怖いというボンドさんの申し出により、明日の朝、商業ギルドへ行くボンドさんに私が付き添う事に。
「護衛ならお任せください! ではこれで!」
お茶の用意を始めそうなボンドさんに先手を打ち、私はディメンションへ戻った。
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そして翌朝。私はまず製本所に行ってベロニカさんからナイトの姿絵本、99冊を受け取った。
一冊足りないのは、すでにベロニカさんが買っているからである。彼女からとっても美麗な模様の革表紙を見せられた。オルガの有名な革職人による最新の柄らしい。
ベロニカさんはまだバレットさんを好きなのだろうか……? それとも本が好きなだけかな? ともかく、バレットさんの姿絵のせいで夫婦関係に亀裂が入るような事だけにはならないでほしい、そう願って製本所を後にした。
次に向かったのは商業ギルド、ボンドさんと待ち合わせだ。
無事ボンドさんと合流し、60万ディルを大事に懐へしまったボンドさんと本屋まで歩く。
ボンドさんのお店が見えてきたところで何やら異変が……。
「ボ、ボンドさん……もしかしてあの行列……ボンドさんのお店じゃないですか?」
「う~ん? そんな事あるわけないよぉ、気のせいさ。それよりお供してくれてありがとうねぇ」
ぽわぽわとしたボンドさんと共にお店に近付くと……沢山の女性が並んでる! みんな私達を見てる⁉
ってかミアさんとその親衛隊、さらにはバレットさん指名のマーガレットさんまでいるぅ! お貴族様なのに自ら足を運んでる! もう確定だッ! みんな本を買いに来てくれた!
ボンドさんがガチャリと扉の鍵を開けた途端、歓声が上がる。
「「「キャーーー!」」」
「ついに発売ですの⁉」
「この時を待ちわびていましたわ!」
「ニャー! 僕の本ニャー!」
ギラギラとした視線を一斉に浴びたボンドさんは恐縮しながら店内へと入って行った。私とお客様もそれに続く……。
店内を進むと、お会計カウンターはいつもと違ってスッキリと片付けられていた。魔王様の仰った通り、ここに姿絵本を置けるよう片付けてくれたのかな?
「じゃあ本を出しますね」
約束の初版10冊と第二刷10冊を亜空間から取り出そうとし、ふと後ろの熱気がなぜか不穏なものに感じた。
……お客様は十五人ほど、そしてアルディナさん達親衛隊十人は絶対に一人三冊買う。
……今日ボンドさんに卸す数じゃ在庫が足りない! こういう時はどうしたら……。
「ニーナちゃんどうしたんだい?」
「あ、いえ、ちょっと亜空間から本を探していまして……」
ボンドさんにコソコソ念話をする。
『ボンドさん、20冊じゃ足りません! お支払いは売れた後でいいので、今日何冊まで売るか決めてください!』
『……うん? 20冊あれば足りるよぉ』
『断言します! 38冊は売れます!』
『そうなのかい? じゃあ今日は売れるだけ売ってしまうよ』
『かしこまりました!』
初版と第二刷を20冊ずつカウンターに置いた瞬間、一斉に競りのような声が上がった。
「こちらを三冊いただきますわ!」
「私も三冊くださいっ!」
「私ももちろん三冊!」
「じゃあ僕も三冊ニャー!」
本は売れに売れ、ほぼ私の予想通り40冊が完売した。
……そして第二刷を買ったお客様が初版の存在に気付き、なぜか交換ではなく初版の買い足しを申し出たので、結果的に50冊も売れてしまった。
あと、ミアさんは買う必要無かったのでは……。きっとノリに乗ってしまったんだろう、まぁいっか。
「ボ、ボンドさん……すごい売れましたね……」
「……はぁ~びっくりしたよぉ。ニーナちゃんの言う通り沢山売れたねぇ。じゃあ売上金から支払いをしようかね」
「ありがとうございます。……ところでボンドさん、在庫が無いのでは? 残り全部置いて行きましょうか?」
「……お、おお、そうだね。ではあと20冊買い取っておこう」
順番は逆になってしまったが、ボンドさんから70冊分の代金210万ディルを受け取った。
ボンドさんは元々準備していた60万と売上金175万、合わせて235万を所持していたので、今日25万ディル儲けた。仕入れた在庫分も支払い済だからホクホクである。
さらに私の手元にある残りの19冊……これも近々完売しそう。ボンドさんは魔王様の考えた悪徳商法、初版にプレミアを付ける話に乗っていたし……。
ボンドさんは早速帳簿をつけながら、未だかつてないほど本が売れた事に喜んでいるようだ。カウンターでニコニコとペンを走らせている。
「ボンドさん、プレミアを期待して初版は残しておくんですよね? 増刷を魔王様にお願いしておきますので、初版を全部売らないように気を付けてくださいね……」
ポカンと口を開いた顔を上げたボンドさんが時間停止した。
「………………ああ! そうだったね……。では明日から第二刷だけ売ろうかねぇ」
「それで様子を見たらいいかもしれないですね。……では、私は帰ります! 沢山売って頂いてありがとうございました!」
「こちらこそありがとうねぇ。久しぶりに孫へプレゼントでも買ってあげようかなぁ」
お孫さんへの教育上、プレゼントは是非ナイトの姿絵本以外のものにしてね。そう願い本屋さんを後にした。
そして日課のムーバーイーツを終え、今日もディメンションの営業が始まる。
私はいつも通り魔王様とアーニャとルルさんとバックヤードへ待機し、キャッシャーのコーディさんが外のライティングのスイッチに魔力を込めたら開店だ!
「……!!!!!」
「どうしたのアーニャ?」
急にアーニャがビクッとなり、しゃがみこんで息をひそめた。
「あ……あ……」
アーニャがここまで怯えるという事は……。魔力感知をしてみる──
「「「おかえりなさいませプリンセス‼」」」
「ラウンツちゃん、来たわよぉ♡」
「キャッ! ローズさんじゃなぁいっ☆」
──までも無かった。
女性にしか見えない美貌のおネエ、ローズさんの初回だ!
「ボボボッボボンドさんっ!」はボボボーボ・ボーボボーの勢いで読んでください。( ˘ω˘ )
2/28(月)、3/1(火)はお休みしますm(_ _)m




